遺産相続の手続きについて。相続が発生してからの流れを詳しく解説します。

親族が亡くなった後、遺された家族の者にはたくさんの「やるべきこと」が降りかかります。
その中のひとつが、遺産相続についての手続きです。
相続の手続きは、莫大な遺産がある人だけがするものだと思っている人もいるのではないでしょうか。
確かに、遺産が一定額を下回っている場合は相続税の申告の必要はありません。
しかし、そのことを確認するためには、ある程度、手順を進めなければならないでしょう。
又、相続税の申告が不要であることが確認できても、遺産相続の手続きが不要になるわけではありません。

この記事では、親族が亡くなったときに必要な手続きや遺産相続の流れについて、詳細に説明します。
遺産相続の手続きについて、相続が発生してからの流れを詳しく解説します。

相続が発生してからすべきこと

相続が発生してからすべきこと

親や祖父母など身近な親族が亡くなったとき、遺族は様々な手続きに追われることとなります。

死亡届の提出に始まり、国民健康保険や介護保険の資格喪失届の提出、公的年金の受給停止と未支給年金の請求手続など、国や自治体への届出や申請も多いでしょう。
また、銀行など金融機関への口座の入出金停止に関する連絡、加入している民間生命保険の保険金請求、名義変更や解約などの各種の事務手続きも発生します。
加えて、被相続人が毎年所得税、消費税等の確定申告をおこなっていた場合は、相続人全員の連名により当年分の確定申告を速やかにおこなわなければなりません。

さらに、葬儀の手配や埋葬の準備、相続に関する手続きもおこなうことになります。
これだけ多くのことをできるだけスムーズに進めるためには、まずは次の3点を確認しておくことが重要です。

遺言書の確認

はじめに、被相続人が事前に遺言書を作成していたかどうかを確認しましょう。
有効な遺言書があった場合は、その遺言書に従った相続手続きをしなければなりません。
遺言書にはいくつかの種類があり、下記の方式が一般的です。

●自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言書の全文、日付、氏名を被相続人が自書し、捺印して作成されたもので、代筆やパソコンでの作成は認められていません。
ただし、財産目録については、全ページに署名捺印することを条件にパソコンで作成することも可能です。

自筆証書遺言を発見した場合は、遺言書の形状、日付、署名、加除訂正の状態などを確認するため、速やかに家庭裁判所で検認を受ける必要があります。

なお、2020年(令和2年)7月より法務局で自筆証書遺言を保管するサービスが始まりました。
遺言書の形式等に厳しい条件がありますが、遺言書の紛失や隠匿等を防止でき、検認も不要になるなどのメリットもあります。

●公正証書遺言
公正証書遺言は、証人2人以上の立会いのもとで、被相続人が公証人に遺言の内容を口述して作成します。
被相続人と証人、公証人がそれぞれ内容や方式を確認して署名捺印をし、「原本」は公証役場で保管されるため、紛失や隠匿、改ざんのリスクがありません。
そのため、検認も不要です。
尚、正式な写しである「正本」と「謄本」は遺言者に交付されるので、通常は遺言者・相続人・遺言執行者などで保管します。

1989年(平成元年)以降に作成された公正証書遺言は、日本公証人連合会の「遺言登録・検索システム」に登録されており、全国の公証役場から公正証書遺言書の有無を確認できます。

遺産の確認

被相続人がどのような財産を所有していたのか、財産目録や一覧表を作成しましょう。
ポイントは、相続財産の中には、「遺産額に含めるもの」と「遺産額に含まないもの」、それから「遺産額から差し引くもの」があるという視点で考えることです。

●遺産額に含めるもの
預貯金や現金、株式・投資信託、不動産、宝石貴金属や車、書画骨董品など目に見える形のある財産以外にも、著作権や商標権といった知的財産権、借地権や小作権など、経済的価値のあるものはすべて相続財産に含まれます。
生命保険の死亡保険金や死亡退職金など、被相続人が亡くなり、その結果として生じる金銭は遺産分割対象ではありませんが「みなし相続財産」として非課税額を控除した残額は相続税の課税対象に含まれる為に別記します。

また、被相続人から生前に受けた贈与財産のうち「相続開始から遡って3年以内の贈与財産」と「相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産」なども相続税の課税対象に含まれる点に注意が必要です。

●遺産額に含まないもの
すでに購入が終わっている墓地や仏具墓石、神棚など、相続開始より前から日常的に礼拝しているものは遺産額に計上する必要はありません。

また、特定の公益団体などに寄付したお金も、遺産額から除外することができます。

●遺産額から差し引くもの
3年以内の生前贈与財産がある場合は、納付済の贈与税額を遺産額から差し引きます。
また、みなし相続財産として生命保険の死亡保険金や死亡退職金を受け取った場合は、それぞれの受取金額から「500万円×法定相続人数」の非課税限度額を差し引くことが可能です。

被相続人に、借入金、ローン残高などの債務があった場合は、その金額も遺産額から差し引くことができます。

最後に、被相続人の通夜や葬式代、寺へのお布施など一連の葬儀にかかる費用も差し引くことができるため、領収証等をまとめて保管しておきましょう。

相続人の確認

相続において、「誰が相続人なのか、何人いるのか」といったことはとても重要です。
遺言書がない場合は相続人同士で遺産分割の話し合いをしなければならないため、しっかりと把握しておきましょう。

●相続人の範囲
被相続人の親族のうち、どこまでが相続人になるのかは法律によって定められており、「法定相続人」と呼ばれることもあります。

相続人には順序があり、上位に該当する人が1人でもいる場合は次の順位の人は相続人になれません。
順序については、以下のとおりです。

相続の順序 被相続人との関係
常に 配偶者
第1順位 ①子、養子
②子、養子が亡くなっている場合は、その子の子(孫)
③孫も亡くなっている場合は、その孫の子(ひ孫)
第2順位 ①父母
②父母が亡くなっている場合は、祖父母
③祖父母も亡くなっている場合は、曾祖父母
第3順位 ①兄弟姉妹
②兄弟姉妹が亡くなっている場合はその子(甥姪)

相続税の手続きはお早めに!【10ヶ月以内!】

相続税の手続きはお早めに!【10ヶ月以内!】

相続税の申告手続きは、被相続人が亡くなったことを知った「相続の開始」から10ヵ月以内に済ませなければなりません。

相続発生
  • 健康保険や年金に関する手続
  • 被相続人口座から自動引き落としされている公共料金・税・クレジット会社等への連絡
四十九日
前後

[ 相続手続の着手 ]

  • 相続手続の内容や流れ、必要書類、費用等について説明
  • 遺言がある場合は種類や内容に応じた対応開始
  • 入院・死亡保険金の請求
  • 相続人代表者名での「遺産管理口座」の開設をおすすめします(解約預金等の管理、税・公共料金支払、地代家賃の仮受などに利用)
  • 金融機関から預金解約や貸金庫開扉・債務承継等の所定用紙を入手
  • 相続人に未成年者や重度の認知症者がいる場合は家庭裁判所で特別代理人・後見人の選任手続開始
四十九日
法要〜
3か月まで

相続申告に必要な書類の収集・整理
税理士に書類の受け渡し開始

3か月
以内

相続について放棄・限定承認する場合の原則期限

4か月
以内

被相続人の準確定申告(相続人全員の連署・押印が必要)、相続人の青色申告承認届など

4か月
ごろ

  • 土地評価算出のための事前準備と現地調査
  • 税務上問題となりそうな金融資産の動きや不明な出金・贈与・ヘソクリ等についても検証
  • 被相続人や相続人の相続発生までの収支の面からも遺産範囲・保有資産の妥当性を検証
5か月
ごろ

仮遺産目録、および相続税がかかる場合は概算提示

6か月
ごろ

遺産分割協議の開始
(ただし、相続直後から遺産の一部分割も可)

  • 二次相続(2次相続)税、所得税、消費税、借入返済、換金価値なども考えた遺産分割案の検討・助言
7か月
ごろ

遺産範囲・遺産評価の確定(遺産目録の提示)

  • 税務調査に備えた主張・立証準備の完了
8か月
ごろ

遺産分割方法決定と各人別の税額確定

9か月
ごろ

遺産分割協議書・相続税申告書・各種名義変更申請書類への押印

10か月
ごろ

相続税申告書の提出・納税(10か月以内)

相続税の手続きは被相続人の住所がある地域の管轄税務署でおこないますが、2019年(令和1年)からは「e-Tax(国税電子申告・納税システム)」も利用できるようになりました。
納税期限も申告期限と同日で、現金による一括納税が原則です。

ただし、相続税は「すべての相続人に納めていただく」という性質の税金ではありません。
遺産の額や状況によっては、納税も申告も不要な場合があるのです。
それは、どのように判断するのでしょうか。

 

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相続税はかかるのか、かからないのか

相続税はかかるのか、かからないのか

相続税がかかるかどうかは、基礎控除の金額が目安となります。
基礎控除は特別な適用要件が設けられていないため、誰もが利用できる控除制度です。

基礎控除

基礎控除額は、次の計算式で算出します。

基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人数)

●相続人の数と基礎控除額
相続人数によって、基礎控除額は異なります。
そのため、相続が開始してすぐに相続人の確認をしておくことが大切なのです。

相続人数 基礎控除額
1人 3600万円
2人 4200万円
3人 4800万円
4人 5400万円
5人 6000万円

●相続人の確認方法
相続人の正確な人数は、被相続人の出生から亡くなるまでの全期間の戸籍謄本でわかります。
あるいは、2017年(平成30年)に始まった法定相続情報証明制度で作成した「法定相続情報一覧図」を利用するのもよいでしょう。
相続人がわかる書類は相続手続きでも提出するため、ここで揃えておくと安心です。

遺産額

基礎控除を適用させるためには、正確な遺産額を把握しておく必要があります。

●財産の評価額
財産の価値を決めることを評価といいます。
遺産の価値は、購入時の価格ではなく相続時の時価で判断するため、思ったような価格ではない可能性もあるでしょう。
評価の方法は、相続税法と財産評価基本通達によって定められており、代表的なものは下記のとおりです。

預貯金 相続開始日の預入残高+既経過利子額
土地 ①路線価方式(正面路線価×奥行価格補正率×面積)
②倍率方式(固定資産評価額×一定倍率)
主に①を使用、路線価が定められていない地域は②を使用
これを基準に貸家建付割合や借地権割合などを考慮
建物 固定資産税評価額(賃貸している場合は借家権割合を控除)
上場株式 相続開始日を基準として、次のうち最も低い価格
①相続開始日の終値
②相続開始月の終値平均額
③相続開始前月の終値平均額
④相続開始前々月の終値平均額

●遺産額の計算
財産の評価額がわかったところで、遺産額を計算しましょう。
遺産額は、次の計算式で算出します。

A.遺産額に加算するもの
相続財産+みなし相続財産+3年以内の生前贈与財産+相続時精算課税制度適用の生前贈与財産

B.遺産額から差し引くもの
非課税限度額+債務+葬儀費用

遺産額=A-B

課税遺産額の計算

最後に、次の式を用いて課税遺産額の計算をします。

課税遺産額=遺産額-基礎控除額

つまり、相続税は、遺産額が基礎控除額を上回った「課税遺産額」にのみかかるというわけです。
ここで課税遺産額が0円になった場合は、納税も申告も不要となります。

相続手続きの流れを解説

相続手続きの流れを解説

相続が開始してから申告までの流れを、ここまでの手順も含めて紹介します。

①遺言書の確認
②遺産の確認と評価
③相続人の確認
④遺産の分割
⑤相続税の申告、納税

遺産の分割

遺産の分割は、相続において重要なポイントのひとつです。
遺言書がある場合は遺言に則って分割をおこないますが、遺言書がない場合は相続人同士の話し合いによってどのように相続するかを決めることになります。

●遺産分割の注意点
相続税には、「配偶者控除」や「小規模宅地等の特例」など、税負担の軽減対策になる控除や特例がいくつも用意されています。
誰が何を相続するかによって適用可否に影響を与える場合もあるため、遺産の分割をおこなう際は十分に関連情報を仕入れ慎重に対応することが大切です。

相続税申告に必要なもの一覧

相続税申告に必要なもの一覧

相続税の申告手続きで必要な書類は、まず基本的な必須書類と各自のケースで必要になる書類に大別できます。
まず、申告するすべての人が用意すべき必須書類は次のとおりです。

確認対象 必要書類
マイナンバー確認 次のいずれか
①マイナンバーカード(個人番号カード)
②マイナンバー通知カード
③住民票の写し(マイナンバーが記載されているもの)など
身元確認書類 次のいずれか
①マイナンバーカード(個人番号カード)
②運転免許証
③パスポート
④公的医療保険の被保険者証 など
相続人の確認 次のいずれか
①被相続人の除籍謄本やすべての相続人を明らかにする戸籍謄本(相続開始より10日以後に交付されたもの)
②法定相続情報一覧図の写し
※被相続人に養子がいる場合は、養子の戸籍謄本(抄本)
遺産分割の確認 次のいずれか
①遺言書の写し
②遺産分割協議書の写し

各控除や特例の適用を受ける場合は、それぞれ指定された登記事項証明書や自治体の証明書、印鑑証明書なども必要となります。
書類によってはすぐに準備できないこともあるため、予め、余裕を持ったスケジュールを組んでおくと安心です。

知っておきたい「相続放棄」「限定承認」「単純承認」

知っておきたい「相続放棄」「限定承認」「単純承認」

ここまでは、相続人が相続を受け入れる前提でお話してきました。
しかし、相続では「財産を得る権利」だけでなく、「債務を返済する義務」も受け取ることになります。
遺産の状況によっては、相続したことによって損害を被るかもしれません。

実は、相続人には「相続放棄」「限定承認」「単純承認」という3つの選択肢が用意されています。
どのような選択なのか、それぞれのメリット・デメリットも併せて解説しましょう。

相続放棄

相続放棄とは、被相続人の所有する財産も債務も一切受け取らないという選択で相続人ごとで判断・手続きできます。
相続開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述をする必要があり、口頭で「いらない」と告げたり、単純に遺産を受け取らなかったりしただけでは成立しません。

●相続放棄のメリット・デメリット
死亡保険金の受取人になっていたり、相続時精算課税贈与を受けていない限り、一切の相続手続きは不要になります。
また、明らかに債務が多い場合は、返済の義務を回避できます。

しかし、債務自体が消えるわけではありません。
相続放棄をすると、同じ順位にいる他の相続人の負担割合が増えるか、下位の相続人に返済義務が移るということは知っておいたほうがよいでしょう。

また、相続放棄をした相続人は最初から存在しなかったという扱いになり、子や孫に権利が移ることはありません。
例えば、自分を飛ばして子どもに財産を相続させたいと思っている場合などは、相続放棄は不適切な選択だということになります。

限定承認

限定承認とは、「相続財産と相殺できる範囲の債務のみ承継負担する」という選択です。
選択する場合は、相続開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に限定承認の申述をする必要があります。
この申述は相続人全員が共同でおこなう必要があり、単独での選択はできません。

●限定承認のメリット・デメリット
限定承認は、債務の額が不明だったり、遺産の評価に時間がかかったり、「財産取得額と債務額のバランスが不明」な場合に有効な判断です。

例えば、遺産額が1000万円、債務額が1500万円の場合は、1000万円分が返済され債務残高500万円を負担する必要はありません。
逆に、遺産額が2000万円で債務が1500万円だった場合は、500万円分が相続財産として残ります。

明らかに債務が多い場合や相続に関わりたくないという場合以外は、相続放棄より限定承認を選択するほうが賢明ではないでしょうか。
また、限定承認を選択した場合で、不動産や株など含み益のある財産を相続した場合は、被相続人の準確定申告で譲渡所得の申告の必要が生じるので注意が必要です。

単純承認

単純承認は、被相続人の財産も債務もすべて受け入れるという選択です。
特に手続きは不要で、「相続放棄」や「限定承認」を選択せずにいれば自動的に「単純承認」ということになります。

大きな債務がないことがはっきりしている場合は、単純承認でよいでしょう。

遺産相続の手続きはプロに任せましょう

遺産相続の手続きはプロに任せましょう

遺産相続の手続きについて解説しましたが、スケジュールが厳しいと感じた人もいるのではないでしょうか。
特に、債務があるケースで限定承認などを検討したい場合は、相続開始から3ヵ月という短期間で選択の判断材料を揃えなくてはなりません。
手に負えないと思ったときは、税を専門とする税理士に早めに任せるという手段がおすすめです。
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まずは実際に依頼する前に、初回無料サービスなどを活用して相談してみるのはいかがでしょうか。

 

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