令和9年末が期限の事業承継税制とは?相続税・贈与税の納税猶予と注意点を解説
事業承継では、会社の株式や事業用資産を後継者へ引き継ぐ際に、相続税や贈与税が大きな負担となることがあります。
特に、非上場会社の株式を後継者へ承継するケースでは、株式の評価額によっては多額の税金が発生し、納税資金の確保が課題となることも少なくありません。
こうした事業承継に伴う税負担を一時的に軽減する制度が「事業承継税制」です。
この記事では、令和9年末(2027年末)までの相続発生や贈与で使える事業承継税制の仕組みや相続税・贈与税の納税猶予、法人版と個人版の違い、利用する際の注意点についてわかりやすく解説します。尚、令和10年からは新制度に変わる様ですが、令和8年末の税制改正大綱で発表予定です。
事業承継税制とは?会社を引き継ぐときの税負担を軽減する制度
事業承継税制とは、会社の株式や事業用資産を後継者へ引き継ぐ際に税負担を軽減できる制度です。
まずは、事業承継税制の基本的なポイントを押さえておきましょう。
後継者が会社を引き継ぐときに利用できる税制
事業承継税制とは、会社や個人事業の後継者が事業を引き継ぐ際に発生する相続税や贈与税について、一定の要件のもとで納税を猶予する制度です。
事業承継税制には、大きく分けて「法人版事業承継税制」と「個人版事業承継税制」の2種類があります。
法人版事業承継税制は、非上場会社の株式等を後継者が贈与または相続等によって取得した場合に利用できる制度です。
一方、個人版事業承継税制は、個人事業主が事業用の土地・建物・機械・器具備品などの一定の「特定事業用資産」を後継者へ承継する場合が対象となります。
| 法人版事業承継税制 | 個人版事業承継税制 | |
|---|---|---|
| 対象となる事業 | 非上場会社 | 個人事業 |
| 承継するもの | 非上場会社の株式等 | 事業用の土地・建物・機械・器具備品など |
| 納税猶予の対象 | 株式等にかかる贈与税・相続税 | 事業用資産にかかる贈与税・相続税 |
| 適用期限(贈与・相続等) | 特例措置:2027年(令和9年)12月31日まで | 2028年(令和10年)12月31日まで |
非上場株式にかかる相続税・贈与税が対象になる
法人版事業承継税制では、後継者が非上場会社の株式等を取得した場合、その株式等に対応する贈与税や相続税について納税猶予を受けられます。
特に、2026年(令和8年)現在の特例措置では、議決権に制限のない株式等について、対象となる株式数の上限が撤廃されています。
また、納税猶予割合も100%です。
これにより、要件を満たせば、承継した株式に対応する贈与税・相続税の全額が納税猶予の対象となります。
なお、「100%納税猶予」とは、一定の要件のもとで納税を先延ばしできる仕組みです。
税金そのものが最初から免除されるわけではないため、注意しましょう。
法人版事業承継税制の対象となる会社・株式
法人版事業承継税制を利用するには、対象となる会社や株式が一定の要件を満たしている必要があります。
また、会社だけでなく、先代経営者や後継者についても要件が定められているので注意しましょう。
対象となるのは一定の非上場会社の株式
法人版事業承継税制の対象となるのは、原則として、上場されていない中小企業者に該当する会社の株式等です。
ただし、会社が非上場であれば必ず対象になるわけではありません。
事業内容や資本金、従業員数など、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に定められた要件を満たしているか確認する必要があります。
中小企業に該当するか確認する
法人版事業承継税制を利用するには、対象会社が「中小企業者」に該当することが基本的な要件のひとつです。
中小企業者に該当するかどうかは、業種によって異なる基準が設けられており、主に資本金の額または従業員数によって判定します。
【業種ごとの基準例】
- ・製造業その他:資本金3億円以下または従業員数300人以下
- ・卸売業:資本金1億円以下または従業員数100人以下
- ・小売業:資本金5,000万円以下または従業員数50人以下
- ・サービス業:資本金5,000万円以下または従業員数100人以下
上記は主な判定基準です。
実際には業種や会社の状況などによって細かな要件があるため、上記の基準を満たしていても、事業承継税制の対象にならない場合があります。
実際に制度利用をする場合は、自身のケースが対象となるか、事前に確認しましょう。
先代経営者・後継者・会社それぞれに要件がある
事業承継税制を利用するには、株式を譲渡する先代経営者や、株式を取得して事業を引き継ぐ後継者についても要件があります。
例えば、先代経営者については、会社の代表者であったことや株式の保有状況など、一定の要件が定められているので注意が必要です。
後継者についても、会社の役員や代表者であることなど、一定の要件があります。
法人版事業承継税制は「非上場会社の株式を後継者へ移せば利用できる」というだけの制度ではありません。
会社・先代経営者・後継者など、それぞれについて細かな要件を確認し、必要な認定や税務上の手続きを進める必要があります。
≪関連 詳細ページ≫
●事業承継特例/自社株の相続税と贈与税の納税猶予の特例の提案
●個人事業財産の相続税納税猶予の提案/事業承継
現在の事業承継では特例措置が中心
法人版事業承継税制には、「一般措置」と「特例措置」の2つがあります。
2026年(令和8年)現在、事業承継税制を検討する場合は、より有利な特例措置を活用できるかどうかを確認することがポイントです。
特例措置は一般措置よりも対象範囲が広い
特例措置は、一般措置と比較して、納税猶予の対象となる株式や後継者の範囲が拡大されているのが特徴です。
特例措置では、一定の要件を満たすことで、対象となる株式のすべてについて納税猶予を受けることができるうえ、贈与税・相続税ともに納税猶予割合は100%です。
一方、一般措置では、相続税について納税猶予の対象となる株式に制限があり、納税猶予割合も80%となっています。
また、一般措置では原則として1人の後継者が対象となるのに対し、特例措置では一定の要件を満たすことで最大3人の後継者が対象です。
このように、一般措置よりも特例措置の方が大きな税負担の軽減効果が期待できます。
特に、複数の後継者への事業承継を予定している場合や、会社の株式をできるだけまとめて承継したい場合には、対象となる株式の範囲が広い特例措置を利用するメリットが大きいと言えるでしょう。
特例措置を使うには事前の計画提出が必要
特例措置を利用するには、原則として、中小企業庁から認定された税理士法人などの認定支援機関と事前に「特例承継計画」を作成し、都道府県知事へ提出して確認を受けることが条件です。
特例承継計画には、後継者や承継時期、承継後の経営方針など、事業承継に関する内容を記載します。
計画の作成や提出には一定の期間が必要となるため、実際に株式を贈与・相続する直前になってから準備を始めるのではなく、早めに取り組むことが重要です。
なお、法人版事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出期限が2027年(令和9年)9月30日、贈与・相続等の適用期限が2027年(令和9年)12月31日とされています。
非上場株式の評価方法の見直しを検討中。現行の納税猶予制度を利用するメリット・デメリット
現在、国税庁が設置した有識者会議で、非上場株式の相続税・贈与税評価ルールの見直しに向けた議論が進められています。
自社株式の承継を予定している会社は、将来の株式評価の見直しだけでなく、現在利用できる納税猶予制度の期限も踏まえて、早めに検討することが大切です。
現行の制度で事業承継税制を利用する場合の主なメリット・デメリットは以下の通りです。
⚫メリット
- ・自社株の承継にかかる相続税・贈与税の負担を抑えやすい
- ・生前贈与による計画的な事業承継を進めやすい
⚫デメリット
- ・要件を満たさなくなると猶予税額の納付が必要になる場合がある
- ・特例承継計画や認定申請など手続きが複雑になりやすい
メリット
現行の納税猶予制度を使って自社株贈与するメリットとしては、以下のものが挙げられます。
自社株の承継にかかる相続税・贈与税の負担を抑えやすい
事業承継税制を利用する大きなメリットは、後継者が取得する非上場株式にかかる贈与税や相続税について、納税猶予を受けられることです。
特に、法人版事業承継税制の特例措置では、一定の要件を満たせば、対象となる株式に対応する贈与税・相続税の納税が100%猶予されます。
事業承継税制を利用できれば納税を猶予できるため、後継者が納税資金を用意する負担を抑えながら株式を承継しやすくなるでしょう。
生前贈与による計画的な事業承継を進めやすい
生前に株式を移転しておけば、先代経営者が存命のうちに後継者へ経営権を移し、事業承継を計画的に進めることが可能です。
また、株式を誰がどの程度保有するのかをあらかじめ整理しておくことで、相続が発生した後の株主構成や経営権をめぐるトラブルを防ぎやすくなるというメリットもあります。
デメリット
現行の制度を利用した場合のデメリットは以下の通りです。
注意すべき点に確認したうえで、手続きを検討しましょう。
要件を満たさなくなると猶予税額の納付が必要になる場合がある
事業承継税制の納税猶予を受けるには、制度を利用した後も一定の要件を満たす必要があります。
要件を満たさなくなった場合には納税猶予が取り消され、これまで猶予されていた贈与税・相続税を納付しなければならない場合があるので注意しましょう。
ただし、事由によっては納税額が再計算されたり、一定の免除が認められたりする場合もあります。
事業承継税制を利用する際は、株式を贈与・相続した時点だけでなく、その後の会社経営や株式の取り扱いまで見据えておくことが重要です。
特例承継計画や認定申請など手続きが複雑になりやすい
事業承継税制を利用するには、税務上の申告だけでなく、都道府県知事の認定を受けるための手続きなどが必要です。
なお、特例措置を利用する場合は、原則として「特例承継計画」を都道府県へ提出し、確認を受けたうえで、株式の贈与・相続後に認定申請や税務署への申告などを行います。
さらに、納税猶予を継続するためには、その後も一定の報告や届出が必要です。
手続きの期限や提出書類を間違えると、納税猶予を受けられなくなったり、猶予が取り消されたりする可能性があります。
安心して手続きを進めるためにも、必要に応じて税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。
≪関連 詳細ページ≫
●同族会社の株式(非上場株・取引相場のない株式)の評価と令和10年(2028年)〜の評価方法の改正予定
事業承継税制を利用するときの注意点
納税猶予を継続するためには承継後も一定の要件を満たし、定められた報告や届出を行う必要があります。
制度の利用を検討している場合は、注意点についても必ず事前に確認しておきましょう。
納税猶予を受けるには要件を満たし続ける必要がある
納税猶予を継続するには、事業承継後も後継者が会社の代表者であることや、対象となる株式を継続して保有することなど、制度上の要件を満たす必要があります。
これらの要件を満たさなくなった場合には、納税猶予が取り消され、猶予されていた贈与税や相続税を納付しなければならないことがあるので気を付けましょう。
特に、後継者の退任や株式の移転など、会社の経営体制や株主構成を変更する場合には注意が必要です。
承継後の届出や報告を忘れると猶予が取り消される場合がある
事業承継税制では、株式を承継して税務申告を行った後も、一定期間にわたって報告や届出を行う必要があります。
具体的には、都道府県知事への年次報告や税務署への継続届出書の提出などです。
特に、承継後5年間はこうした手続きを毎年行う必要があるため気をつけましょう。
これらの手続きを期限までに行わなかった場合、納税猶予が取り消される可能性があります。
株式の売却や廃業を行う場合は慎重な判断が必要
株式の譲渡や会社の事業を廃止するなど一定の事由に該当すると納税猶予が取り消され、猶予されていた税額の納付が必要になる場合があるため、慎重な判断が必要です。
なお、特例措置では、経営環境の変化によって事業の継続が困難になった場合など、一定の要件を満たして株式を譲渡したときには、納税猶予されていた税額の一部が免除される仕組みがあります。
会社の売却や廃業を検討することになった場合は、自己判断で手続きを進めるのではなく、専門家に相談しながら、事前に納税猶予への影響を確認することが重要です。
事業承継税制を利用するための手続きの流れ
特例措置の場合は、「方針決定⇒株価評価⇒特例承継計画」と進めたうえで、その後に「株式の贈与・相続⇒都道府県知事の認定⇒税務申告⇒継続手続き」を行うのが基本の流れです。
事業承継税制を利用する場合は、株式を後継者へ贈与・相続してから手続きを始めるのではなく、事前に計画を立てて準備を進めるようにしましょう。
後継者と承継方針を決める
まずは、誰を後継者とするのか、いつ、どのような方法で事業を引き継ぐのかを決めます。
事業承継税制では、後継者についても一定の要件が設けられているため、後継者が制度の要件を満たしているかを確認することが必要です。
また、株式を生前贈与するのか、先代経営者の相続発生時に承継するのかによって、適用される制度や手続きも変わります。
将来の経営体制も含めて承継方針を決めておきましょう。
自社株の評価額を確認する
非上場会社の株式は、会社の規模や利益、純資産などをもとに、税務上のルールに従って評価します。
自社株の評価額を踏まえ、事業承継税制を利用することでどの程度の税負担を猶予できるのかを確認しておきましょう。
現在の評価額だけでなく、将来的な株価の変動や税制改正の動向も考慮して、贈与の時期を検討することが重要です。
特例承継計画を作成する
法人版事業承継税制の特例措置を利用する場合、原則として「特例承継計画」を作成し、都道府県知事へ提出して確認を受けます。
なお、特例承継計画の提出期限は2027年(令和9年)9月30日です。
また、計画を提出しただけで納税猶予が確定するわけではなく、その後も都道府県知事の認定申請や税務署への申告など、別途必要な手続きを行う必要があります。
承継後も継続して適用要件等を確認しながら管理していくことが重要です。
≪関連 詳細ページ≫
●自社株の相続税納税猶予の手続きの流れ
●株の相続税についての基礎知識 評価額や税金の計算方法、節税の手続きをわかりやすく解説
事業承継税制は早めに専門家へ相談しましょう
≪関連 詳細ページ≫
●相続税の節税は選ぶ税理士で変わる!申告や対策の方法を税理士法人が解説
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●法人の事業承継の対策の(見直し)改善コンサルティングと準備リスト
事業承継税制を考える際には、自社株の評価額を確認したうえで、贈与と相続のどちらが適しているのか、利用した場合の税負担、時期、制度を利用しない場合との違いまで比較しながら、慎重に検討することが重要です。
適用の可否だけでなく、自社にとって本当に利用するメリットがあるのかまで検討しましょう。
また、事業承継税制は、自社株の承継にかかる贈与税や相続税の納税負担を抑えられる可能性がある一方、適用要件や申請手続きが複雑な制度でもあります。
事業承継について不安がある場合は、早めに税理士などの専門家へ相談しましょう。
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