遺言書の検認とは?手続きの方法や注意点を解説
配偶者や親など身近な人が亡くなった時、もし遺言書を発見しても勝手に開封してはいけません。
自宅で保管していた自筆証書遺言や秘密証書遺言は、開封前に家庭裁判所で「検認」という手続きを受ける義務があり、従わないと5万円の過料を納めることになるのです。
とはいえ、検認と聞いてすぐにわかる人は少ないのではないでしょうか。
今回の記事では、遺言書の検認について、それが必要な理由や手続きの流れなどをわかりやすく解説します。
遺言書の「検認」とは?偽造・変造を防止するための手続き
検認とは、家庭裁判所で遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などを確認し、相続人全員に対して検認の日時点における遺言書の内容を明らかにするための手続きです。
自宅などで遺言書が保管されていた場合、発見した相続人が遺言内容を改ざんしたり、都合の悪い遺言を破棄したり隠匿したりする可能性があります。
実際にはそのような不正が行われていなくても、「改ざんしたのではないか?破棄や隠匿をしたのではないか?」と疑われるかもしれません。
そこから、相続人やその配偶者、子供などの利害関係者間のトラブルに発展してしまうこともあるでしょう。
発見者が手を加えていないことを証明するためにも、開封前にきちんと検認を受ける必要があるというわけです。
一般的な遺言書の方式は2種類
遺言書には、法律によって厳格な方式が定められており、方式を満たせていないものは無効となります。
一般的な遺言書の方式のうち、主に作成されている2種類の概要は下記の通りです。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
方式 | ・遺言書の全文、日付、氏名を遺言者が自筆で書き、押印する ※財産目録のみ自書以外(パソコン作成や通帳コピー)でも可 | ・証人2人立会いのもと遺言者が遺言内容を口授し、公証人がまとめて作成したもの |
保管方法 | 自分で保管 | 原本は公証役場で保管、正本や謄本を自分で保管 |
検認の要不要 | 必要 | 不要 |
●法務局の自筆証書遺言保管制度
自分で作成した自筆証書遺言を法務局にて安全に保管するという制度で、原本に加えて画像データとしても保存されています。
第三者による改ざんや隠匿、破棄等の恐れがないため、検認は不要です。
遺言書を検認する時の流れ
ここからは、遺言書の発見から検認完了までの流れをポイントごとに説明していきます。
①遺言書を発見
相続では、遺言書の有無で遺産分割の方法が大きく異なるため、真っ先に遺言書を探すようにしましょう。
遺言書はないものとして相続手続きを進めていて、途中で遺言書が発見された場合でも遺言書が優先されるため、手続きを大幅にやり直すことになりかねません。
被相続人(亡くなった人)の自宅等で自筆証書遺言を発見した場合は、検認前に勝手に開封しないよう注意しましょう。
発見した遺言書の見分け方
発見した遺言書が、検認の必要な自筆証書遺言かどうかを見分けるためには、どうすれば良いのでしょうか。
公正証書遺言は、表に「遺言公正証書 (正本、あるいは謄本)」と明記してあるため、見間違えることはなさそうです。
また、自筆証書遺言のうち、検認が不要なものは法務局で保管されています。
つまり、自宅等で発見した「遺言書」は、すべて検認の対象だと考えて良いでしょう。
②家庭裁判所に検認の申立てをする
自筆証書遺言は未開封のままにしておき、家庭裁判所で検認の請求手続きを行います。
申立てに必要な書類、手数料等は下記の通りです。
申立人 | ・遺言書を発見した相続人 |
申立先 | ・被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
必要書類 | ・申立書※裁判所Webサイトにてダウンロード可 ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本(除籍謄本) ・相続人全員の戸籍謄本 【相続開始時に死亡している相続人がいる場合】 ・その相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍)謄本 |
手数料費用 | ・遺言書1通につき、収入印紙800円分 ・連絡用郵便切手 |
●事情を聴取される場合もある
申立てを行うと、裁判所から事情の聴取や追加書類の提出を指示されることがあります。
裁判所からの照会や呼び出しに対応しないと検認手続きが進まないため、必ず応じるようにしましょう。
検認期日
検認期日には、申立人や他の相続人立ち会いの下で遺言書の検認が行われます。
申立人が提出した遺言書を裁判官が開封し、その形状や内容を共に確認するという流れです。
遺言書を発見した際の状況や、被相続人の筆跡かどうかを問われることもあります。
申立人は必ず出席をしますが、他の相続人の出欠は各自の判断に任されており、欠席者がいても特に問題はありません。
全員が揃わなくても検認手続きは行われます。
④検認完了、検認済証明書の申請
検認自体は、30分程度で終わることが多いようです。
検認を受けても「検認済証明書」がなければ遺言を執行することができないため、検認完了後に証明書の発行を申請しましょう。
検認済証明書の発行には収入印紙代の150円がかかります。
また、検認手続きや検認済証明書の発行には申立人の印鑑が必要なため、忘れずに持参するよう気をつけてください。
検認の際に必要な手続きや注意点、期限などを詳しく解説
検認の申立から完了までは、通常は1ヶ月~2ヶ月程度と決して短くない時間がかかります。
また、検認を始めるタイミングについて明確な期限は設けられておらず、民法には「遅滞なく」と記されているだけです。
しかし、相続には重大な2つの期限があるため、のんびりとしてはいられません。
相続に関する重大な2つの締切
相続人が、被相続人が亡くなったことを知った日が、相続の開始日です。
相続開始日から数えて3ヶ月後、10ヶ月後に待っている重大な締切について解説します。
相続開始3ヶ月後:相続放棄の期限
相続とは、財産を受け取る権利だけでなく、債務を返済する義務も承継するということです。
被相続人に債務が多く、相続することで相続人が損害を被ることがわかっている場合などは、相続したくないと考える人もいるでしょう。
そこで、相続人には、次の3つの選択肢が与えられています。
●相続放棄
財産を受け取る権利も債務を返済する義務もすべて手放すという選択で、明らかに債務が多い場合などに効果的です。
相続放棄をするためには、相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所で申述を行います。
口頭で宣言したり遺産受取を拒否したりするだけでは、相続放棄になりません。
●限定承認
相続財産の範囲内でのみ、債務を引き受けるという選択です。
債務の額が相続財産よりは少ない、あるいは金額がはっきりしない場合に効果的な選択肢です。
限定承認も、相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所での申述を必要としています。
ただし、単独で手続きできる相続放棄と異なり、共同相続人全員一致で選択しなければなりません。
●単純承認
財産も債務もすべて引き受けるという選択です。
上記2つの選択手続きをしない場合は、自動的に単純承認を選択したことになります。
逆をいえば、3ヶ月以内に相続放棄や限定承認の手続きができなかった場合は、強制的に単純承認になってしまうということです。
遺言書のある相続では、遺言書の内容に従って遺産分割を行います。
多少の債務があっても相殺できるだけの財産があるから問題ないと思っていても、遺言によっては想定以下の財産しか受け取れない可能性もあるのです。
相続開始10ヶ月後:相続税申告・納税期限
相続開始から10ヶ月後は、相続税の申告と納税の期限です。
相続税は一定額以上の財産を持つ場合のみにかかる税金のため、まずは課税対象かどうかを計算しましょう。
●相続税の対象となる課税金額を計算
遺産総額-基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人数)=課税金額
上記の計算を行って、課税金額が0円になった場合は相続税を納める必要はありません。
●相続税を納める必要がある人は
全体の遺産額が基礎控除を超えていて課税金額が0円ではなかった場合は、相続税の申告と納付が必要です。
しかし、相続税を計算するためには、遺産分割を終えなくてはなりません。
遺言のない相続では、相続人全員で遺産をどのように分けるかを話し合って決めますが、遺言がある場合は遺言書に記載された通りに分割を行います。
つまり、検認が済むまでは遺産分割ができず、相続税の計算もできないというわけです。
検認手続きに必要な準備
先ほど紹介した重大な締切、特に「相続開始から3ヶ月以内の選択にかかる締切」に検認を間に合わせるためには、相続開始の直後から書類の準備を始めておくと安心です。
戸籍謄本などの取得
被相続人の遺言の有無に関わらず、戸籍謄本などを取得するために早めに行動を起こすことをおすすめします。
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
上記の書類は検認の申立てを行う際に必要ですが、相続に関連する様々な手続きでも必要になることが多いです。
遺言書が発見されなかった場合、または公正証書遺言など検認不要の遺言を作成していた場合でも、取得したことが無駄にはなりません。
検認における注意事項
ここからは、検認を行う際の注意事項について解説していきます。
検認は遺言書の有効性を証明するものではない
検認では、遺言書の形状や署名、押印などを確認しますが、方式を満たしているかどうかをチェックするものではありません。
そのため、検認済証明書が発行された遺言書でも、方式不備などにより法的に無効となる可能性があります。
「検認=有効性の証明ではない」ということを、理解しておきましょう。
検認で遺言書の無効を主張することもできない
また一方で、検認を行う中で遺言書の無効を訴えても効果はありません。
遺言書を開封し、明らかに方式を備えていない場合や、内容的に受け入れられないものであっても、遺言書を無効にするためには相続人全員と遺言書によって遺贈を指定された人の合意が必要です。
合意を得られない中で無効を訴えるためには、別途調停や訴訟を起こすことになります。
複数の遺言があった場合、すべての検認が必要
遺言書には有効期限がありません。
3日前に書いた遺言書でも、10年前に書いた遺言書でも、方式等の有効条件を満たしていれば効力に差はないのです。
ただし、同じ財産について10年前の遺言では「長男に承継させる」と記載されていて、3日前の遺言では「長女に相続させる」と書かれているなど矛盾のある部分については、最新のものが優先されます。
矛盾が生じていない部分については、何年前のものでも有効です。
そのため、複数の自筆証書遺言が発見された場合は、すべてを検認して内容を確認しなければなりません。
●破棄をすれば、遺言書は無効になる
被相続人が以前書いた遺言書の一部分だけを変更したい場合は、修正したい部分だけを記し直した新しい遺言書を作成すれば事足ります。
しかし、複数の遺言書があることで遺族の手間が増えるということを理解しておくのも大切です。
遺言書が複数にならないよう古い遺言書を修正するか、すべてを新しく書き直して古い遺言書は破棄しておくと遺族の手間と混乱を軽減できるでしょう。
●相続人が破棄した場合、相続権が剥奪される
破棄をした遺言書は無効だとお話ししました。
しかし、遺言によって利害がある相続人が被相続人の遺言書を破棄した場合は、その相続人の相続権が剥奪されます。
改ざんや隠匿等を行った場合も、同様に相続権を失うことになるので注意しましょう。
遺言書の検認手続きをしないとどうなる?
ここまで読んだ方の中には、遺言書の検認は面倒だから省こうと考える人がいるかもしれません。
しかし、検認をしないと次のような不都合が生じることを覚えておくと良いでしょう。
検認せずに開封した場合は過料5万円
検認を待たずに開封してしまった場合でも、それを原因として遺言書が無効になることはありません。
ただし、開封した相続人は5万円の過料を納めることになります。
相続手続きができない
不動産や金融資産を相続した場合は、名義変更手続きのために「検認済証明書付遺言書」が必要なケースが少なくありません。
「検認済証明書付遺言書」によって、相続人が確かに当該財産を取得したことが証明できないと、預貯金の払い戻しや有価証券の売却などができないというわけです。
遺産相続トラブルにならないための対策
遺言書では、相続財産や相続人について様々な指定ができます。
あらかじめ被相続人によって遺産配分を決めておくことで、回避できるトラブルも多いでしょう。
しかし、せっかく遺言書を作成していても方式不備や法的無効になってしまっては、意味がありません。
まずは、前提として無効になりにくい遺言書を作成することがおすすめです。
無効リスクの低い遺言書を作成する
この記事の冒頭でも紹介しましたが、次の2つは無効リスクが低い遺言書です。
自筆証書遺言(法務局の保管制度を利用したもの) | 公正証書遺言書 | |
方式不備リスク | なし ※保管申請時に方式適合チェックを受けるため | なし |
第三者による改ざん、隠匿、破棄リスク | なし | なし |
本人の紛失リスク | なし | なし |
相続人が見つけられないリスク | なし ※登録した相続人に通知がいくシステム | 低い ※全国の公証役場で遺言書検索システムがある |
内容が無効になるリスク | ある | 低い |
検認 | 不要 | 不要 |
●公正証書遺言書のメリットデメリット
公正証書遺言書は、公証人が被相続人の希望をまとめて作成する遺言書です。
法律の知識を持っている公証人が関わるため法的な無効となるリスクが低く、最も安全で確実な大きなメリットがある遺言書方式です。
デメリットは、遺言内容に応じた手数料がかかる点で、扱う遺産額が高いほど料金も高くなります。
●法務局で保管してもらう自筆証書遺言のメリットデメリット
メリットは、自筆証書遺言にある無効リスクのほとんどが解消されているということと保管費用が数千円と安く済むことです。
デメリットは、自分で作成するため、内容的な無効リスクを軽減できない点でしょう。
より効果的な遺言書にするために
公正証書遺言、あるいは法務局での保管を前提とした自筆証書遺言を作成する段階で、専門家に相談をすると内容的な無効リスクを大きく軽減できます。
相続人同士の争いを回避したい場合は弁護士、相続税対策として遺言を作成したい場合は税理士に相談すると効果が高いでしょう。
依頼料金がかかりますが、相続税軽減効果が高い遺言書ができた場合は依頼料を上回る節税になることも期待できます。
まずは、誰のために、何のために遺言書を作りたいのかを見つめ直すのも良いでしょう。
検認手続きをする際は専門家へ依頼をしましょう
検認手続きは、税理士や弁護士、司法書士事務所など代行サービスを提供している専門家に依頼することができます。
検認だけでなく、遺言書の通りに遺産を分けていく遺言執行、必要書類の取得や名義変更手続きなど煩雑な手続きも専門家に任せると安心ですね。
また、本文中でも説明したように、遺言書作成にまつわる悩みを相談するのもおすすめです。
その際は、相続税問題の解決実績などの情報を参考にして、相続に強い税理士を探すと良いでしょう。
豊富な知識と経験に基づいた適切なアドバイスやサポートが受けられます。
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