遺産相続でトラブルになるケースは?対処法などを合わせて紹介

遺産相続では、遺産をめぐるトラブルが発生する可能性があります。
もらえるはずの遺産を奪われたり、親と同居していた自宅を失ったり、それまで仲の良かった家族や兄弟姉妹が絶縁状態になることもあるでしょう。
精神的なダメージと共に金銭的な負担を受けることも多く、それまでの生活が一変してしまうことも考えられます。
相続争いを回避するためには、どうすれば良いのでしょうか?

この記事では、事例をもとにトラブルに発展することが多いケースを紹介し、問題点ごとの対策について解説しています。

相続をめぐるトラブルは何がある?

相続をめぐるトラブルは何がある?

相続は「争続」と言われることがあります。
決して小さくはない額のお金が動くこと、親族や兄弟姉妹などの人間関係が複雑に絡むことを考えると、揉めごとが起こりやすいのも致し方ないかもしれません。
しかし、先に適切な対策を講じておくことで「争続」につながる流れを回避することは可能です。

まずは、よくあるトラブルについて、問題点ごとに紹介しましょう。

遺産をめぐるトラブル

相続財産そのものがトラブルの原因になるケースとしては、次のようなものが考えられます。

・不動産は多いがお金は少ないので相続納税が難しい
・財産が想定よりも多い、あるいは想定よりも少ない
・有価証券など時価が日々変動する財産が多い
・家や土地など不動産が多い(分割しにくい、評価が難しい、遠隔地で管理しにくい)
・遺産が実家のみ(分けるのが難しい、同居家族が居住し続けているため売却できない)
・居住継続や事業承継の為に不可欠な土地建物がある
・事業承継のために自社株を相続せざるを得ない
・遺産に債務が多い、団体信用生命保険対象外の債務がある など

遺産をめぐる争いと聞くと資産家に多いイメージですが、そういった家は専門家を交えて相続対策をしていることが多いものです。
逆に、遺産相続は無縁だからと思って対策も心の準備もしていない家庭のほうが、「意外と財産があった」場合に揉めやすい傾向にあります。

遺言書をめぐるトラブル

遺言書では、遺産分割の方法や相続割合、相続人以外への遺贈や寄付などを事前に指定することができます。
相続人は遺言書の内容に従わなければならないため、そこに不満が生まれやすくなるでしょう。

・特定の相続人が優遇されている
・赤の他人に遺産を渡すことになっている
・相続人の受け取り分がない、又は極端に少ない(遺留分の侵害)
・遺言書で指示されたとおりに遺産の名義変更ができない
・遺言書で指定された分割方法では相続納税ができない
・遺言書が無効、見つからない、複数見つかった
・相続人による遺言書の隠匿や改ざんといった行為の可能性がある
・遺言書の内容が明確ではなく、異なった解釈ができる
・遺言書作成時の遺言者の意思能力が怪しい
・遺言書で、隠し子の認知の記載があった など

相続人同士の関係によるトラブル

遺言書のない相続では、当事者(相続人)が集まって遺産分割のための話し合いを行います。
遺産分割協議は「相続人全員の参加と合意」が必要なため、相続人同士の関係性によっては揉めることもあるでしょう。

・主張が強い人がいて、話し合いが進まない
・被相続人の生前は「財産放棄する」と言っていたのに、相続開始後に撤回した人がいる
・絶縁状態、もしくは音信不通で疎遠になっている相続人がいて、全員が揃わない
・介護・看護の負担や家業貢献度などが異なることについての意見が合わない
・被相続人に内縁の妻がいる、今の妻は後妻で被相続人には離婚した前妻と前妻の子がいる、愛人と隠し子がいることが発覚した
・被相続人夫婦に子どもがいない など

よくある相続トラブルの例と対処法を紹介

よくある相続トラブルの例と対処法を紹介

ここからは、よくあるトラブル例を挙げて、その具体的な対処法について解説していきます。
相続人が複数いるケースで遺産に不動産が含まれる場合は、分配の方法や相続方法を工夫することが大切です。

対処法①遺産分割4つの方法

相続では、被相続人が亡くなったことを知った日を相続の開始日としています。
そして、相続開始の翌日から10ヶ月以内という短い期間に、必ず相続税の申告と納税を済ませなければなりません。

相続開始から遺産分割が終わるまでの間、遺産は相続人全体の共有財産となります。
遺産分割を終え相続手続きを済ませると、取得した相続人それぞれの名義に所有権が移り、取得額に応じた相続税がかかるというわけです。

遺産分割には、次の4つの方法があります。
例として、「相続人5人、300㎡で評価額5000万円の土地が相続財産に含まれる」場合で考えてみましょう。

●現物分割
遺産を現物のまま相続する方法です。
【例】
その土地を、そのままの形で、相続人のひとりが相続するということになります。
他の4人の相続人は、別の遺産を相続するか、不公平な分割に納得しなければなりません。

●換価分割
遺産の一部、あるいは全部を売却して、その代金を分割する方法です。
【例】
「300㎡、評価額5000万円の土地」をすべて売却して、相続人5人で1000万円ずつ取得する方法が一般的でしょう。
同じ土地を2人で相続するケースなら、半分を売却して一方が土地、もう一方が同等の現金をもらうこともできます。

●配偶者居住権と活用する
配偶者が居住継続と金融資産相続に重点を置く場合に活用を検討します

●代償分割
相続人のひとりが遺産の現物を相続する代わりに、他の相続人に対して自己の財産を渡す方法です。
【例】
まず、相続人のひとりが「300㎡、評価額5000万円の土地」をすべて相続します。
その相続人の所有財産から、妥当な価値の財産や金銭などを選び、他の相続人4人に渡してバランスを取るというわけです。

●共有財産
分割をせずに、共有財産のままにしておくことも可能です。
しかし、共有財産は、所有権を持つ全員が合意しないと土地を売却できないという大きなデメリットがあります。
また、相続人自身の相続が起こったときは、その相続人の配偶者や子どもが承継することで所有権が細分化していく点もデメリットのひとつです。

以上のことから、共有財産のままにしておくことはおすすめできません。

対処法②不動産を相続する人を見直す

不動産をめぐるトラブルでは、分割方法のほかにも相続税が原因になることがあります。
なぜなら、不動産の中でも土地は一般的に価値が高い財産のため、評価額に応じて相続税も高くなる可能性があるからです。
しかし、土地を相続する人が「納税資金として預貯金も相続したい」と主張すれば、他の相続人からは欲張りだと反感を買うこともあるでしょう。

そのため、路線価から各種補正を駆使し、土地評価単価を下げたり、以下のような特例や控除などの制度を利用して、不動産にかかる相続税が軽減される方法を検討するのも、有効な対処法のひとつです。

●小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、「土地」と「相続人」双方の適用要件を満たす場合に財産評価額を下記の割合で減額するという制度です。

土地の用途 土地を相続する人 減額率と適用面積
被相続人が自宅として使っていた土地 配偶者、同居親族 80%(330㎡まで)
被相続人が事業に使っていた宅地 被相続人の事業を継承した親族 80%(400㎡まで)
被相続人が貸付事業に使っていた宅地 被相続人の貸付事業を継承した親族 50%(200㎡まで)

「300㎡、評価額5000万円」の自宅用土地を同居の長男が相続した場合、評価額5000万円は80%減の1000万円まで引き下げられます。
なお、これはあくまでも相続税計算上の減額であって、実際の土地価格が安くなってしまうわけではないところがポイントです。

●配偶者控除
配偶者控除は、配偶者が相続する場合に次のどちらか多い金額まで非課税で相続できるという制度です。

①1億6000万円
②配偶者の法定相続分相当額(相続人の組み合わせによって異なる)

配偶者控除は、配偶者が相続するものならば不動産でも金融商品でも書画骨董でも適用対象を選びません。

対処法③専門家に依頼する

相続に関連する揉めごとが「争い」にまで発展している場合は、専門機関や専門家への依頼も検討しましょう。

家庭裁判所に申し立てる

相続に関連する揉めごとは、家庭裁判所で調停や審判を申し立てて解決を試みることができます。

●遺産分割調停、審判
遺産分割協議がまとまらない場合に申し立てる調停です。
裁判所からの解決案の提示や助言を受けながら話し合いを進め、合意を目指すことになります。
それでも成立しない場合は自動的に審判へと進み、裁判官による審判を受けるというわけです。

●遺留分侵害額の請求調停
遺言や生前贈与のせいで、取得財産額が最低限相続できる権利分(遺留分)を下回った場合に申し立てる調停です。
遺贈や贈与を受けた相手に対して、本来得られるはずだった遺留分相当額の金銭を請求することになります。

●不在者管理人選任、失踪宣言
所在がわからない相続人がいて遺産分割ができない場合は、不在者管理人を選任すると良いでしょう。
不在者管理人が代理出席することで、遺産分割協議を進めることができます。
失踪宣言は、生死不明の行方不明が長年続く者を法律上死亡したことにする制度です。

●相続の放棄の申述
相続が開始した場合、相続人には次の3つの選択肢があります。
①単純承認:被相続人の遺産を受け取る権利、債務を返済する義務を含めすべて受け継ぐ
②相続放棄:権利も義務も、一切受け継がない
③限定承認:相続財産の範囲内で債務を返済する

相続財産に債務が多い場合や、面倒な争いに巻き込まれたくない場合など、相続放棄を選択することもあるでしょう。
②相続放棄、③限定承認を選択する場合は、相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所で申述を行わなければなりません。
②と③のどちらも選択しなかった場合は、自動的に①単純承認を選択したことになるというわけです。

弁護士や司法書士、税理士に相談する

トラブルが起きた原因がわからず、解決策に悩み苦しむような場合は、専門家に相談するのも良いでしょう。

●争いになったら弁護士に相談
弁護士は、困難な争いを解決に導くための法律の専門家です。
依頼人の利益になるように交渉を行っていくため、先方とは対立構造になります。
兄弟や親族と争いたくないという場合は別ですが、すでに相当揉めてしまい、争っているのなら、弁護士は心強い味方となるでしょう。

●手続き方法がわからないときは司法書士に相談
司法書士は、公的機関へ提出する書類の作成や手続きを行う専門家です。
家庭裁判所への申述書作成や手続き代行、関係者への連絡等を依頼することができます。
なお、司法書士は必要な手続きのための手助けをしてくれるという立場のため、争いの仲裁などを依頼することはできません。

●トラブルを回避したいときは税理士に相談
税理士は、相続税申告や税務調査対策など税金の専門家です。
適正な土地評価や不動産売却・活用アドバイス、将来を見据えた遺言書作成や遺産分割サポートなど相続に関連する様々な情報や解決ノウハウを持っています。弁護士が必要な場合は紹介も期待できます。
生前対策を含めて税理士に相談をすれば、より効果的にトラブルを避けることができる上、節税対策も期待できるというわけです。

相続トラブルは、それぞれの遺産状況や家族構成、個々の事情によって大きく状況が違います。
そのため、相続の数だけトラブルの種類があるとも言われているのです。
実際のトラブル事例や具体的な解決策については、こちらの記事●【相続解決事例】~遺産分け編~でも紹介していますので、参考にしてください。

トラブルを起こさないためにできる生前対策について

トラブルを起こさないためにできる生前対策について

ここまでは、トラブルの事例と対処法について説明してきましたが、できれば揉めずに済ませたいものです。
ここからは、トラブルが起こる前に防ぐための方法を考えていきましょう。

財産目録を作っておく

相続人が相続財産を把握していなかったことが理由でトラブルが生じ、揉めることは少なくありません。
特に遺産の額が想定よりも低い場合は、自分以外の相続人が使いこんだのではないかと疑いを抱くこともあるでしょう。
生前に財産目録を作り、家族で情報共有することがトラブルの回避に役立つというわけです。

被相続人の財産を同居親族などが代理で管理する場合は、領収書やレシートを保管して記録を残しておきましょう。

相続人を確認しておく

相続権を持つ親族・血族の範囲は、民法によって次のように定められています。

相続人になる順序 被相続人との関係(①②③のうち、被相続人と世代が近い順)
常に 配偶者
第1順位 直系卑属 ①子ども②孫③ひ孫 
第2順位 直系尊属 ①父母②祖父母③曾祖父母
第3順位 ①兄弟姉妹②甥姪

被相続人が実際に亡くなった時点における家族構成によって、誰が相続人になるかは変わってくるでしょう。
しかし、誰が相続人になる「可能性があるのか」を知っておくことは、様々な生前対策に役立ちます。

相続税がどの程度かかるかを知っておく

相続税は、遺産の額が相続税基礎控除額を上回った場合にのみかかる税金です。

基礎控除額は「3000万円×相続人数」で算出します。
つまり、財産目録を作成し、相続人を把握すれば、相続税がかかるかどうかのおおよその予測ができるというわけです。
相続税が必要な場合、納税資金を用意しておくことで遺産分割がスムーズに進むのではないでしょうか。

生命保険を活用する

被相続人が契約者・被保険者になっている生命保険の死亡保険金には、以下のようなメリットがあります。

●受取人を指定できる
死亡保険金は相続税の対象ですが、予め受取人が指定されていることから遺産分割協議の対象とはなりません。

●すぐに受け取れる
死亡保険金は、被相続人が亡くなったことを保険会社に連絡して所定の手続きを済ませれば、通常、数日以内に支払われます。

●非課税枠がある
死亡保険金を相続人が受け取る場合は「500万円×相続人数」の非課税枠が用意されています。

遺産が自宅不動産のみで分割が難しいパターンでは、不動産を相続する相続人には「納税資金」として、その他の相続人には「相続財産」として、生命保険を活用すると良いでしょう。

家族でよく話し合っておくことも大切

相続が発生する前に家族で話し、お互いの意思や希望、立場を理解しておくことが、なによりも大切です。
コミュニケーションをしないせいで相手の考えや気持ちがわからず、「不安」が「不満」に変わり、相続トラブルの原因になるということは決して少なくありません。
特に、配偶者が残った場合はどうするのか、実家の家屋や土地は誰かが相続するのか、売却するのかといった点をしっかりと話し合って明らかにしておきましょう。

エンディングノートを活用する

家族が遠方に暮らしていて簡単に集まって話し合えない場合は、エンディングノートを活用するのも効果的です。
もしもの場合に伝えるべき親族、知らせてほしい友人、連絡が必要な契約や解約が必要なサービスなどをまとめて書いておけば、遺族が一つひとつ自分たちで調べ、大変な思いをする必要がなくなり、おおいに助かります。

ただし、エンディングノートに法的効力はない点に要注意。
財産に関することは、遺言書を作成することをおすすめします。

遺言書を作成する際の注意点は?

遺言書を作成する際の注意点は?

遺言書を作成することは、有効な相続対策のひとつです。
ただし、内容の偏った遺言書では、かえって揉めごとの原因になることも十分におわかりいただけたでしょう。

遺言の書き方や注意点は、次のとおりです。

遺言書の無効リスクを回避する

遺言書には、下の一覧のように決められた方式があり、不備がある場合は法的な効力が認められないおそれがあります。

遺言の方式 自筆証書遺言 公正証書遺言書
概要 ・遺言者が、全文、日付、氏名を自署し、押印したもの ・証人立ち会いの下、遺言者が遺言内容を公証人に口授して作成したもの
保管方法 ①遺言者自身が管理
②自筆証書遺言保管制度(法務局)
・原本を公証役場にて保管
探しやすさ ②指定した相続人宛に遺言保管の通知が届く ・全国の公証役場から検索システムが利用できる

せっかく上記の手順に則って正しい遺言書を作成しても、活かされなければ意味がありません。
自宅保管の遺言書には、相続人が探し出せないリスク、都合が悪い内容だと判断した相続人による隠匿、改ざんを受けるリスクがあります。
安心で確実な保管方法を選びましょう。

遺産分割方法では遺留分に配慮する

被相続人には、自分の財産を自由に処分する権利があります。
誰に何をどのくらい承継させるか、好きなように決定してもかまいません。
しかし、相続人にも財産を相続する権利があり、最低限取得できる遺留分が保障されています。

遺言によって遺留分が侵害された相続人は、遺贈を受けた人や他の相続人に対して不足額を支払うように請求することができます。
トラブルを防止するために作成した遺言書で別のトラブルを招かないように、遺留分に配慮することが大切です。

●遺留分一覧表

相続人の組み合わせ 配偶者 子ども 父母 兄弟姉妹
配偶者のみ 2分の1
子どものみ 2分の1
父母のみ 3分の1
兄弟姉妹のみ なし
配偶者と子ども 4分の1 4分の1
配偶者と父母 3分の1 6分の1
配偶者と兄弟姉妹 2分の1 なし

被相続人の兄弟姉妹は相続人の範囲には含まれますが、遺留分はありません。

被相続人が子どものいない夫婦の夫か妻どちらかで、被相続人の父・母(両親)や祖父母がすでに亡くなっている場合は、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります。
このとき遺言書に「財産のすべてを配偶者に」と明記しておくことで、配偶者は兄弟姉妹と争うことなくすべての遺産を相続できるようになるというわけです。

トラブルを起こさないために、相続税の専門家に相談

トラブルを起こさないために、相続税の専門家に相談

相続が起こる前に、一度、家族で相続税の専門家の話を聞くことをおすすめします。
相続人が相続の基礎知識を身につけることで、相続にまつわる多くのトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
一般に、相続税対策の実績や取扱い件数が多い税理士なら、様々なケースに対応する効果的な助言がもらえます。
同時に節税対策も行えれば、相続人が受け取る遺産額も増えるというわけです。

相続税対策に詳しい税理士を探すためには、税理士や税理士事務所のサイトに記載されている過去事例やコラムなどを見ると良いでしょう。
もし自分のケースが取扱い対象に該当するのかどうかわからなくても、無料相談など初回は費用がかからないサービスを利用して、気軽にコンタクトを取ってみてはいかがでしょうか。

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