遺言書の効力はどれくらい?作成時の注意点・期限・無効になるケースも解説

これまで仲が良かった家族でも、遺産相続におけるトラブルをきっかけに関係が悪化してしまうことは珍しくありません。
相続トラブルの発生を防ぐ有効な手段のひとつが、遺言書の作成です。
遺言書で予め遺産の分け方を決めておくことで、亡くなった後に家族同士が争うことを回避できるでしょう。
しかし、遺言書の書き方にはルールがあり、ルールに従っていないと遺言書が無効になってしまう恐れがあります。
又、書いていてもファジーな書き方をしていれば遺産の名義変更や預金の解約ができずに余計にモメてしまいかねません。

今回の記事では、遺言書の書き方や注意点、無効となるパターンや効果的な活用方法などを詳しく解説します。

遺言書を作成する際に注意すべきこと

遺言書を作成する際に注意すべきこと

遺言書は、故人(被相続人)の意思や希望を伝える最後の手段です。
自分の死後に家族に相続争いをしてほしくない、希望どおりの財産承継を実現させたいという思いから、遺言書の作成を考えているという方も多いのではないでしょうか。

遺言書には、法律によって厳格に定められた方式があり、不備があると遺言書の一部、あるいは全部が無効とされてしまいます。
まずは、どのような方式があるのかを具体的に確認しておきましょう。

遺言書の方式は7種類

法律によって認められている遺言書の方式には、下記の一覧に示したように7つの種類があります。

一般方式遺言 ①自筆証書遺言
②公正証書遺言
③秘密証書遺言
特別方式遺言 【危急時遺言】
④一般危急時遺言、⑤難船危急時遺言
【隔絶地遺言】
⑥一般隔絶値遺言(伝染病隔絶地遺言)、⑦船舶隔絶地遺言

このうち、特別方式遺言は、「遺言者に生命の危機が迫る場面」や「一般社会から隔絶された場面」などの特殊な状況下でのみ効力を発揮する遺言となります。
相続トラブル回避のために作成する遺言書とは目的が異なるため、今回は除外しましょう。

主な方式は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類

一般方式遺言3種類のうち、通常用いられることが多い方式は「①自筆証書遺言」と「②公正証書遺言」の2種類です。
2種類それぞれの概要やメリット・デメリットなどについて、ポイントをしぼって解説します。

  自筆証書遺言 公正証書遺言
作成方法 ・全文、日付、氏名のすべてを自書し、押印する ・証人2人立会いのもと、遺言内容を公証人に口授し、公証人がその内容をまとめて遺言書を作成する
・証人2人と遺言者本人、公証人の署名と押印をする
保管方法 ・自分で保管又は法務局に保管申請 ・原本を公証役場で保管(相続発生後に検索可能)
メリット ・気軽に思い立った時に作成、修正ができる
・費用がかからない
・誰にも知られずに作成できる
・法律の知識がある公証人がまとめるため、法的無効リスクがない。但、財産配分についての指導は無い
・口授で作成するため、病気やケガ、高齢などで筆記が難しい人でも作成できる
・作成後の偽造、改ざん、隠匿、紛失などのリスクがない
・検認不要
デメリット ・方式不備で無効になるリスクが高い
・内容が不明確など、トラブルの元になりかねない
・偽造、改ざん、隠匿、紛失のリスクが高い
・自宅等で発見した場合、未開封のまま家庭裁判所に提出し検認を受ける必要がある
・証人に遺言内容を把握されてしまう
・作成費用(遺言書に書く財産額と登場人物の数によって異なる。財産額100万円以下:5000円~)がかかる

公正証書遺言書は手間と費用がかかるものの、安全性と確実性の高い方式です。
自筆証書遺言は手軽に自筆で作成できる一方で無効リスクが高く、発見時に検認というひと手間が必要となるというわけです。

●検認とは
検認とは、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などを確認して、遺言書の偽造、改ざんを防止するための手続きです。
検認せずに開封すると5万円以下の過料が生じる可能性もあるため、自筆証書遺言を発見した場合は速やかに家庭裁判所に提出しましょう。

自筆証書遺言保管制度の活用

2020年(令和2年)7月10日より、法務局による自筆証書遺言書保管制度がスタートしました。

この制度では、遺言書の保管申請1通につき3900円、相続人による遺言書の閲覧や遺言書情報証明書交付などを行うたびに800~1700円の手数料がかかります。
しかし、下記に挙げたとおり自筆証書遺言のデメリットのほとんどが解消されるという大きな利点があるため、検討の価値があるでしょう。

●方式不備による無効を回避できる
まず、遺言書の受付時に、民法の定める方式に適合するかどうかを確認する形式チェックを受けるため、方式不備による無効リスクがありません。
ただし、内容の有効性を保証するものではありません。

●相続人に通知がくる
法務局と戸籍関連部局との連携により、亡くなったことが確認されると事前に登録した人に遺言書を保管していることが通知されるため、遺言書に気づかず手続きを進めてしまうことがありません。
また、相続人が遺言書を閲覧すると他の相続人にも通知があるため、先に閲覧した人による事実の隠蔽も防げるというわけです。

●安全に保管できる
自筆証書遺言の原本を保管するため、相続関連の利害関係者による遺言書の破棄や改ざんを防ぐことができます。

●検認が不要になる
安全な方法で管理されていることが明らかなため、検認は不要です。

遺言書の期限はある?

遺言書の期限はある?

一般方式遺言には、有効期限や時効はありません。

死亡する前日に書いたものでも、数年前に書いたものでも、方式的に有効ならば効力に差はありません。
被相続人自身が作成したことを忘れてしまったような数十年前の遺言書が発見された場合でも、方式的な不備がなければその遺言書は有効です。

複数の遺言書が発見された場合

日付の異なる複数の遺言書が見つかった場合、内容に矛盾がある部分のみ最新のものが優先されます。
矛盾のない部分については、以前に作成された遺言書の内容がそのまま適用されるということです。
新しい遺言書によって、古い遺言書のすべてが打ち消されるわけではないという点に注意しましょう。

●遺言の撤回
古い遺言書の内容を撤回したい場合は、破棄をすれば撤回したものとみなされます。
相続人を混乱させないためにも、新しい遺言書を作成した際には古いものを破棄しておくほうが安心です。

●特別方式遺言には有効期間がある

冒頭で紹介した特別方式遺言は特殊な環境下での緊急的な遺言方式のため、緊急事態が解消して6ヶ月が経過した時点で失効します。
もしも緊急時にした遺言の内容を残したいという場合は、改めて一般方式で遺言書を作成しておきましょう。

家族内で揉めないための遺言書作り

家族内で揉めないための遺言書作り

遺言書がある相続と、遺言書がない相続では、何が違うのでしょうか。

最も大きな違いは、遺産の分割方法です。
遺言書がない相続では、遺産分割について相続人同士で話し合いを行います。
これを遺産分割協議といい、家族間で揉める原因になる恐れがあるというわけです。

法定相続人と法定相続分

遺産分割協議の説明をする前に、相続人について話しておきましょう。
相続では、相続権を持つ親族について民法によって定められており、相続権を持たない親族が勝手に遺産を取得することはできません。

●相続人の範囲と順序
配偶者は常に相続人となり、それ以外の親族は下記の順序で相続人となります。

順序 被相続人との関係
第1順位 直系卑属(子供、孫、ひ孫)
第2順位 直系尊属(父母、祖父母、曾祖父母)
第3順位 兄弟姉妹、甥姪

●法定相続分
また、法定相続人には、民法によって遺産の取得割合も定められています。

相続人の組み合わせ 法定相続分の割合
配偶者と子供 配偶者:2分の1、子供:2分の1
配偶者と父母 配偶者:3分の2、父母:3分の1
配偶者と兄弟姉妹 配偶者:4分の3、兄弟姉妹:4分の1

しかし、これは目安であり、遺言や遺産分割協議で全員の合意があれば必ずしも従う必要はありません。

遺産分割協議による相続

遺産分割協議では、何をどのように分割して、誰がいくら相続するのかということを相続人全員で話し合います。
相続財産がすべて現金や預貯金なら、法定相続分どおりに分けることも簡単です。
しかし、土地や家屋などの不動産、宝石貴金属など、価値が高く分割しにくい財産もあるでしょう。

全員が納得をして合意を得たなら、協議成立ということです。

どうしても全員の合意が得られない時、あるいは協議に応じない相続人がいる場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てます。

●遺産分割協議調停
遺産分割調停では、裁判官(または家事調停官)と家事調停委員が双方の意向や事情を聴取し、解決案を模索しながら全員の合意を目指した話し合いが進められます。
状況によっては遺産の鑑定を行ったり、各種資料の提出を求められたりして、時間がかかることもあるでしょう。

それでも合意にいたらず、調停不成立となった場合には、自動的に審判手続きが始まります。

●遺産分割協議審判
遺産分割協議審判とは、裁判官が事情を調べ適切な判断を下すという手続きです。
つまり、遺産分割について裁判による判決を受けるということになります。

遺言書に従う相続

遺言書がある場合は、その遺言書に書かれている財産のみ基本的に遺言書の指定とおりに相続を行います。
誰がどの遺産を取得するか、相続人同士で揉める余地はありません。

遺産をめぐり家族同士で裁判を起こさないためにも、全財産について遺言書で遺産分割を指定しておくと良いでしょう。

相続人の認知症対策としての遺言書の作成

相続人の認知症対策としての遺言書の作成

高齢化社会が加速している日本では、認知症患者数も増加の一途を辿っています。
厚生労働省の予測によると、65歳以上の認知症患者の数は2025年(令和7年)には約700万人に達し、高齢者の5人に1人が認知症になるということです。

もし、相続人が認知症を発症した場合はどうなるのでしょうか。

相続人が認知症を患っている場合の相続

認知症を発症していて、理解力や判断力、意思伝達能力などが不十分だと判断された場合、その人が参加した遺産分割は無効となります。
遺産分割協議は全員参加が条件のため、相続人が欠けている状態で行った遺産分割協議もまた無効になるのです。

つまり、認知症の相続人がいる場合、その人が参加しても、不参加でも、どちらも無効となり相続手続きを進めることができません。

成年後見人制度を利用する

認知症により相続人の判断力が十分ではなくなった場合、家庭裁判所に申請をして成年後見人を選出してもらえば相続を進めることができます。

しかし、次のような問題が新たに生じる可能性について注意が必要です。

●自由な協議はできなくなる
後見人は被後見人(認知症を発症した相続人)の不利になる選択はできません。
被後見人が母親の場合、もし判断力が正常ならば自分よりも子供たちを優先したであろう場面でも、後見人は法律に準拠した行動を徹底します。
つまり、成年後見人制度を利用したことで、かえって遺産分割協議の選択肢が狭まるという恐れがあるということです。

●後見人報酬が必要な場合がある
また、被後見人の判断力や資産状況によっては、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が選任され、報酬の支払いを負担するケースも考えられます。
後見人選出については家庭裁判所の判断に従うしかなく、意義を唱えることや、申し出を撤回することはできません。

遺言書で遺産分割を指定しておく

遺言書がある相続では遺産分割協議を行う必要がなく、相続人の判断能力も問われません。
そのため、成年後見人制度を利用する必要もなく、スムーズに遺産分割ができるのです。

認知症をいつ発症するのかは誰にもわかりません。
だからこそ予防策として遺言を準備しておくことが重要です。

節税にも使える!遺言書の効力

節税にも使える!遺言書の効力

遺言書では、遺産分割方法を指定できるほか、財産の処分方法、相続人の身分に関することなど様々なことを記載できます。
遺言書で指定できる主な項目は次のとおりです。

遺産分割の方法 ・法定相続分とは異なる遺産分割割合の指定
・具体的な遺産分割方法の指定
・「配偶者居住権」の遺贈
・5年以内に限り、遺産分割の禁止
・寄与分についての配慮
・特別受益の持ち戻しについての指定
財産の処分について ・特定の第三者への遺贈
・公共機関や団体への寄付
相続人の身分に関すること ・相続人の廃除、その取り消し
・未成年後見人、未成年後見監督人の指定
・非嫡出子の認知
その他 ・遺言執行者の指定
・生命保険金受取人の変更

遺言による節税対策

遺言書では、被相続人の思ったとおりの遺産分割が可能です。
相続税計算の各種制度と合わせることで、節税対策につながる例を紹介します。

控除制度の活用

相続税には、下記のような税額軽減制度が用意されています。
控除や特例の適用要件を満たすように相続人を指定することで、大幅な減税効果が期待できるでしょう。

控除、特例 対象者 内容
配偶者控除 被相続人の配偶者 次のどちらか多い金額まで、相続税がかからない
①1億6000万円
②配偶者の法定相続分
未成年者控除 未成年の相続人 相続税額-(成人までの年数×10万円)
※控除額が相続税額よりを超える場合は、未成年者を扶養している人の相続税から差し引く
障害者控除 障害者の相続人 相続税額-(85歳までの年数×10万円)
※特別障害者の場合は20万円
※控除額が相続税額よりを超える場合は、障害者を扶養している人の相続税から差し引く
小規模宅地等の特例・被相続人の住居を相続した配偶者や同居親族
・被相続人の事業を継承した親族 など
適用要件を満たす場合、下記の割合で財産評価額を減額させる
・被相続人の住居:80%(330㎡まで)
・被相続人の事業所:80%(400㎡まで)
・被相続人の貸付事業所:50%(200㎡まで)

プロの力を借りる

遺言作成にあたり、専門家に依頼して相談するというのも効果的な方法です。
被相続人が所有している財産をどのように遺言すると最も相続税額を減らせるのか、専門家にシミュレーションを作成してもらうのも良いでしょう。
目先の減税だけでなく、将来の2次相続、3次相続を見据えたシミュレーションを行うことで、残された子供や孫が高額納税せずにすむというわけです。
又、「配偶者居住権」を上手に使った遺言書にすると一次相続(1次相続)・二次相続(2次相続)ともに相続税の節税が期待できます。

遺言書の効力が無い時はある?

遺言書の効力が無い時はある?

ここまでお話ししてきたように、遺言書とは遺族の権利やお金の行方を決める大きくて強い効力を持っています。

だからこそ、法律によって定められた方式に必ず従わなければならないのです。
遺言書の書き方や使い方を間違ってしまうと、遺言書は一部あるいは全部の効力を失うことになります。
遺言書とは単なる書面ではなく、れっきとした法律行為だということを覚えておきましょう。

遺言書が無効になる5つのパターン

ここからは、遺言書が無効になってしまう事例の中からよくあるパターンを紹介します。
有効な遺言書を作成するための参考にしてください。

無効パターン①方式に則っていない

主に自筆証書遺言では方式に則っていない下記のようなケースが多いため、気をつけましょう。

・タイトルなど、一部がパソコンで作成されている
・修正液の使用、塗りつぶしなど、間違った方法で修正されている
・日付がない、「1月吉日」など、正確な日付を記載していない

正しい方法で修正できているか不安な場合は、全部を書き直すほうが安心です。

無効パターン②遺言の内容が不適切

遺言内容によっては法的効力が発揮されないケースもあります。

・意図が読み取れない、あるいは複数の意味に受け取ることができるような曖昧な内容
・長男の結婚相手の指定や自身の埋葬方法の希望などは、法的効力がない事柄の記載
・夫婦など同じ遺言書を2人以上で作成している

はじめから法的効力を求めない内容は、付言事項として記載することも可能です。

無効パターン③作成者に資格がない

民法では遺言ができる人の条件についても定めており、適合しない人が作成した遺言は無効となります。

・15歳未満の人、あるいは15歳未満の時に作成した
・認知症などの病気や障害などにより、判断力が十分ではない人によって作成された

無効パターン④不正行為が行われた

遺言作成は、被相続人の自由な意思によって行われなければなりません。
相続の利害関係者による不正が加えられた遺言書は無効となり、不正を行った人の相続権も剥奪されることになります。

・詐欺または強迫行為によって、被相続人が相続に関する遺言を作成、あるいは撤回、変更などをした
・相続人が被相続人の遺言を偽造、改ざん、破棄、隠匿などを行った

遺言書作成の際はプロに相談をしましょう

遺言書作成の際はプロに相談をしましょう

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しかし、自分のケースではどこに相談するのが良いのか迷ってしまう人もいるのではないでしょうか。

これら法律や金融の専門家のうち、税金のプロは税理士だけです。
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せっかく作成した遺言書を無効にしないために実際にどのような対策が効果的なのかは、依頼人それぞれの事情によって異なります。
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