全財産を相続させる遺言書の書き方、文例をご紹介

自分の全財産を特定の1人に相続させたい時は、遺言書を作成して遺産分割の方法を指定しましょう。
しかし、遺言書の書き方にはルールがあります。
ルールに則っていない遺言書は効力を発揮できないばかりか、内容によっては相続トラブルや争いの原因になってしまうことも少なくありません。

本記事では、自筆証書遺言の書き方や注意すべき点について、文例の紹介を交えてわかりやすく解説します。
遺言書を作成しようとお考えの方は、参考にしてみてください。

全財産を1人に相続させることはできる?

全財産を1人に相続させることはできる?

相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産を分割して相続人が受け取るための手続きです。
財産を所有している人のなかには、誰に相続させるかを決めておきたいと考える人もいるのではないでしょうか。

予め財産の処分方法を指定したい時は、遺言書を作成する方法が効果的です。
まずは、遺言書のある相続と遺言書のない相続の違いについて解説しましょう。

遺言書のある相続

遺言書は、亡くなった人の思いを伝える最後の手段です。
自分の財産について、誰に何をどのくらい取得させるかといった相続方法を指定することができます。
遺言書のある相続の場合、残された人たちは遺言書に従って遺産分割を行うのが基本となるため、特定の相続人に相続させたい場合は遺言書を作成すると良いでしょう。

遺言書のない相続

遺言書のない相続では、どのように遺産分割するかを相続人全員で話し合って決めなければなりません。
この話し合いを遺産分割協議といいます。
この時、遺産分割の目安となる数値が法定相続分です。

法定相続人と法定相続分

法定相続人とは、亡くなった人の財産を受け継ぐ権利のある人のことですが、親族の誰もがなれるわけではありません。
法定相続人の範囲や法定相続分は、民法によって次のように定められています。

法定相続人 法定相続分
【常に】
配偶者
【第1順位】
子(子が亡くなっている場合は、孫、ひ孫)
配偶者:2分の1
子ども:全員で2分の1
【第2順位】
父母(父母が亡くなっている場合は、祖父母、曾祖父母)
配偶者:3分の2
父母:全員で3分の1
【第3順位】
兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は、甥姪)
配偶者:4分の3
兄弟姉妹:全員で4分の1

●法定相続人
表のとおり、亡くなった人の配偶者は常に法定相続人です。
子どもがいる場合は、配偶者と共に法定相続人になります。
被相続人の兄弟など、第2順位、第3順位の人は、上位該当者が誰もいない状況(すべての上位該当者が相続放棄をした場合を含む)にならなければ相続人の権利はありません。

●法定相続分
法定相続分とは、遺言書がない相続において遺産分割をする際に目安となる取得割合です。
遺産分割を行うにあたって法定相続分以外の分割方法を選択することもできますが、その場合は、遺産分割協議で法定相続人全員の同意を得なければなりません。

遺言書があれば、全財産を1人が相続するように指定できる

このように、遺言書のない相続では遺産分割協議によって相続割合を決めるため、亡くなった人の意思通りに進むとは限らないでしょう。
しかし、遺言書を作成すれば遺産分割において「誰にいくら残すか」を指定できます。
自分の財産の行方を自分で決めたいという希望がある場合は、生前に遺言書を作成しておくことが大切です。

遺言書の書き方と例文

遺言書の書き方と例文

遺言書にはいくつかの種類がありますが、通常は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」のどちらかで作成することになるでしょう。

公正証書遺言と自筆証書遺言

公正証書遺言は、証人2人の立ち会いのもと、公証人に遺言書の内容を告げて作成する遺言書です。
法律に詳しい公証人が作成に携わるため安全で確実な遺言書ができ、さらに公証役場で保管してもらえるというメリットがあります。
ただし、証人2人の調整や公証人の予約などの事前準備が必要で、遺言書に記す財産価格に応じた費用がかかります。

一方、自筆証書遺言はその名の通り自筆で記す遺言書です。
自分1人で作成できるため、紙と筆記具さえ用意すればいつでも気軽に書くことができ、特別な費用もかかりません。

自筆証書遺言の書き方

自筆証書遺言には、民法によって定められた厳格な形式があります。

●自筆証書遺言の形式

・遺言書の本文すべて、作成日、遺言者氏名を遺言者本人が自書し、押印すること
・財産目録はパソコンでの作成や通帳・登記簿等のコピーも利用可能。ただし、全ページに署名押印すること
・訂正や追加する場合は該当箇所を明示し、訂正・追加を付記したうえで押印すること

自筆証書遺言は、上記ルール以外には書式等も含めて決まりはありません。
ただし、自筆の署名や押印があっても、本文をパソコン等で作成した場合は遺言書自体が無効となり法的効力を発揮できなくなります。

【文例1】複数の相続人で遺産を分ける遺言書

では、文例をもとに、必須項目を確認しておきましょう。
まずは、配偶者と子どもの間で遺産を分割する一般的な遺言書の書き方例を紹介します。

【遺言書 文例1:複数の相続人で遺産を分ける遺言書】

遺言書


遺言者 ○○○○は本遺言書により、以下の通り遺言する。

1 私は、妻○○○○(生年月日)に以下の財産を相続させる。
(1)土地
   所在地 ______________ 番地 ____
   宅地 地積 ___
(2)建物
   所在地 ______________ 家屋番号 ___
   木造瓦葺2階建て 床面積 1階部分 ____ 2階部分 ____
(3)動産
   上記(2)の建物内にある家具家財道具一式

2 私は、長男○○○○(生年月日)に以下の財産を相続させる。
(1)預貯金・有価証券
   ・○○銀行 ○○支店 定期預金 口座番号_________
   ・□□株式会社 株式__株 ○○証券 ○○支店 口座番号_________

3 上記に記載のない財産については、すべて妻○○○○に相続させる。

4 本遺言書の遺言執行者として、長男○○○○を指定する。

○年○月○日
住所 ___市___町___丁目__番地__号
遺言者 ○○○○ 

①遺言書であることの宣言
誰の遺言書なのかを明確にしておきましょう。
遺言書を入れる封筒にも同じように遺言書と書き、しっかりと封印することが大切です。

②財産詳細と相続先を明記
財産を1つ1つ挙げて、誰に相続させるかを明記します。
遺言書は不動産登記など相続手続きにも活用するため、「お母さん」「子ども」ではなく正しい氏名で書きましょう。
預金、貯金、株式などの金融資産を記載する場合は、口座番号や名義を正確に記す反面、変動する残高金額は書きません。

③記載外の財産が見つかった場合の行き先も明記
遺言書を書いた後に取得した財産など、目録に記載されていない遺産が見つかることもあるでしょう。
そのような遺産の行き先を前もって決めておくことで、該当財産のために遺産分割協議を開く必要がなくなります。

④遺言執行者を指名する
遺言執行者とは、遺言の通りに遺産分割手続きなどを行う人のことです。
指定しなくてもかまいませんが、子世代や専門家などを指定しておくとスムーズな名義変更などの進行が期待できます。

⑤日付を書き入れる
作成した日付は正確に記しましょう。
「●年●月吉日」という曖昧な書き方では遺言書自体が無効となります。

⑥住所、氏名を正しく記入して押印
印は認め印でもかまいませんが、スタンプ印は使えません。
偽造防止のために実印を用いることをおすすめします。

【文例2】全財産を1人に相続させる遺言書

子のいない夫婦が配偶者だけに財産を遺したいケースや、事業承継や同居などを理由に複数人の子どものうち1人だけに相続させたいケースもあるでしょう。

そういったケースでは、次のような遺言書を作成します。

【遺言書 文例2:全財産を1人に相続させる遺言書】

遺言書


遺言者 ○○○○は本遺言書により、以下の通り遺言する。

1 次の財産を含む遺言者の有するすべての財産・債務を、妻○○○○(生年月日)に包括して相続・負担させる。
(1)土地
   所在地 ______________ 番地 ____
   宅地 地積 ___
(2)建物
   所在地 ______________ 家屋番号 ___
   木造瓦葺2階建て 床面積 1階部分 ____ 2階部分 ____
(3)動産
   上記(2)の建物内にある家具家財道具一式
(4)預貯金・有価証券
   ・○○銀行 ○○支店 定期預金 口座番号_________
   ・□□株式会社 株式__株 ○○証券 ○○支店 口座番号_________

○年○月○日
住所 ___市___町___丁目__番地__号
遺言者 ○○○○ 

財産目録を省略して「遺言者の有するすべての財産と債務を、妻○○○○(生年月日)に包括して相続・負担させる。」という書き方もあります。

しかし、相続では、相続税を算出するために遺産総額を把握しなければなりません。
生前に所有財産の目録や一覧にまとめておくと、残された配偶者や子どもの作業負担を軽減させる効果もあるというわけです。

自筆遺言書を作成する際の注意点とポイント

自筆遺言書を作成する際の注意点とポイント

自筆証書遺言を作成する時は、次のポイントに注意しましょう。

ポイント①形式要件
作成する際は、ルールを確認しておきましょう。
ミスのないよう慎重に作成し、万が一間違えた場合は書き直すほうが安心です。

ポイント②正確で明瞭な表現
相続は遺言者の死後に発生するため、補足説明をすることができません。
誰が読んでも間違いなく意味がわかるように、正しい表現で書くことが重要です。

ポイント③1人1通
遺言書は1人1通で作成しましょう。
夫婦連名などの共同遺言は無効です。

ポイント④安全かつ確実な保管
自筆証書遺言は、作成後の管理を遺言者自身が行います。
自宅での保管は手軽ですが、次のようにリスクが高いためおすすめできません。

自宅保管のリスクと安全な保管制度

遺言書は、遺産分割の行方を決める大きな力を持っています。
そのため、利害関係者による盗難や隠匿、破棄や改ざんといったリスクを常に抱えているといっても良いでしょう。
しかし、厳重に隠してしまうと、相続の最中に発見できずせっかくの遺言書を有効に活用できないという別のリスクが生じます。

自宅の金庫や書斎は双方のリスクが高いうえ紛失リスクもあるため、保管場所として適しているとはいえません。
理解のある友人宅で預かってもらうというのも心配です。
貸金庫等は安全ですが、保管年数が長くなるほど費用が高額になるというデメリットがあります。

そこで、自筆証書遺言を安全かつ確実に発見できる保管方法として「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。

法務局の自筆証書遺言書保管制度

自筆証書遺言書保管制度は、2020年7月10日にスタートした法務局の新しいサービスです。
手軽に作成できるという自筆証書遺言のメリットを損なわずに、保管面の問題を解消するために創設されました。

自筆証書遺言書保管制度の特徴とメリットは次の通りです。

特徴 メリット
遺言書原本と画像データが長期保管される 利害関係者による「盗難・隠匿・破棄・改ざん」リスクがない
相続開始後、予め指定した相続人に「遺言書を預かっている旨」が通知される 相続人が遺言書に気づかないというリスクがない
相続人のうち誰か1人が閲覧したら、ほかの相続人に通知がいく 利害関係者による虚偽報告や隠匿のリスクがない

また、遺言書1通あたりの保管料が3900円と安価な点も使いやすいでしょう。

ただし、画像データにする際にスキャンしやすいように、「用紙サイズ・色や模様・余白」に条件が設けられています。
自筆証書遺言書保管制度の利用を検討する際は、遺言書作成前に条件の確認をしておくと安心です。

ここに注意!遺言書が無効になるパターンは?

ここに注意!遺言書が無効になるパターンは?

ここまでの記事の流れで、形式に合致させる重要性がおわかりいただけていると思います。
しかし、形式不備に気をつけていても、相続発生後に遺言書を無効とされてしまうことがあります。
ここからは、無効となることが多いパターンをいくつか紹介しましょう。

パターン①遺言能力が認められない

遺言書を作成できる年齢は、15歳以上です。
15歳未満の時に作成された遺言書は、遺言能力がないとみなされ無効になります。

また、精神疾患や障がいなどによって正常な判断能力がないと判断される状態で作成された遺言書も、遺言能力がないとして無効になる可能性が高いでしょう。
認知症による判断能力の低下も同様で、遺言内容に不満を持つ相続人が遺言無効の訴えをしてくる可能性もあるでしょう。
遺言書で伝えたい意思がある場合は先延ばしにせず、心身に不安のない状態でいられる間に作成しておくと良いでしょう。

パターン②利害関係者によって書かされたと思われる内容

遺言書は、遺言者自身の意思で自書しなくてはなりません。

利害関係のある相続人が脅迫や詐欺などによって誘導、あるいは手を添えて都合の良い内容を書かせたなどの疑いが生じた場合、その遺言書は無効となってしまう可能性があります。

パターン③不適切な内容であると判断される場合

例えば、配偶者などの法定相続人がいながら、不適切な交際相手に多額の遺贈が指定されているケースなどは、無効の訴えがされる可能性があるでしょう。

パターン④相続人全員が一致して遺言書に従わない場合

遺言書のある相続では、基本的に遺言書に従って相続を進めることは既にお話しました。
しかし、法定相続人全員が同意した場合は、遺言書の内容と異なる遺産分割をすることが認められています。
遺言書は、遺言者の意思を残された人たちに伝える最後の手紙ですが、全員に反発されるような内容では無効化される可能性があるということです。

覚えておきたい「遺留分」について

覚えておきたい「遺留分」について

全財産を1人に相続させたいと考える場合の注意点が「遺留分」です。

民法では、遺言者が自己の財産を自由に処分する権利を認めています。
しかし、一方では、相続では遺族の生活保護も考慮されていなければならないとして、相続財産の一定割合を法定相続人が取得することを保証しているのです。
この制度を遺留分制度といいます。

法定相続分と遺留分

法定相続人が必ず取得できる遺留分割合は、下記の通りです。

法定相続人 配偶者の有無 遺留分
【第1順位】
子(子が亡くなっている場合は、孫、ひ孫)
配偶者あり 配偶者:4分の1
子ども:全員で4分の1
配偶者なし 子ども:全員で1/2
【第2順位】
父母(父母が亡くなっている場合は、祖父母、曾祖父母)
配偶者あり 配偶者:3分の1
父母:全員で6分の1
配偶者なし 父母:全員で1/3
【第3順位】
兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は、甥姪)
配偶者あり 配偶者:2分の1
兄弟姉妹:なし
配偶者なし 兄弟姉妹:なし

遺言書によっても侵害されない遺留分権利

遺留分を取得する権利は、遺言書によっても侵害されません。
つまり、配偶者と子ども2人がいる相続で「配偶者に全財産を相続させる」という遺言書があった場合でも、子ども2人は遺産総額の4分の1を受け取る権利があるというわけです。

遺留分を侵害された場合

自分以外への遺贈額が多いために、最低限取得できると認められている遺留分割合が得られないことを遺留分の侵害といいます。
遺留分権利者は、侵害の原因となった相手に遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することが可能です。
遺留分権利者が複数人いるときは、請求するかしないかは個別に意思決定します。

侵害額請求を受けた側は、基本的に金銭で支払わなければなりませんが、受け取った遺産の内容によってはすぐに対応できない場合も考えられます。

不動産の相続で遺留分を侵害したケース

例えば、遺産が自宅家屋と土地のみで分割が難しいことから、1人の法定相続人に全財産を相続させるという遺言書があったケースで考えてみましょう。

法定相続人が子ども3人で、自宅不動産の価値が6000万円の場合、法定相続分で考えるとそれぞれの取得分は次のようになります。

●法定相続分の計算
・子(1人あたり):6000万円×1/3人=2000万円

次に、遺言書によって遺言者と同居していた長男のみが全財産を相続することになった場合に、他の子ども2人が請求できる遺留分侵害額を算出しましょう。

●遺留分の計算
・子(1人あたり):6000万円×法定相続分1/3×遺留分割合×1/2=1000万円

つまり、子ども2人はそれぞれ1000万円の金銭を、長男に対して請求する権利があるというわけです。

しかし、長男は相続した自宅で生活しており、そう簡単に売り出すわけにはいきません。
そうなると、別途1000万円×2人分=2000万円を捻出しなくてはならないということになります。

遺言書が相続トラブルを招くこともある

全財産を1人に相続させたいと考える理由は、人それぞれでしょう。
しかし、相続トラブルを防ぎたいと思って作成した遺言書が原因で、かえってトラブルや争いになってしまうおそれもあるのです。
遺言書を見た家族全員がどのように考えるかを想像しながら作成することも大切ではないでしょうか。

遺言書の作成はプロに依頼を

遺言書の作成はプロに依頼を

遺言書の作成では、遺留分への配慮が必要不可欠です。
現在所有している財産が、分割しにくい土地や自宅家屋といった不動産ばかりだという方は、関連知識を持つプロに相談することをおすすめします。
遺留分侵害額請求に対処するための金融資産の確保や、他の相続人へ残しておきたい付言事項の作成、トラブルを回避するために最適な遺言書作成などをサポートしてもらうことができるでしょう。

特に、税金の専門家である税理士なら、適切な遺言書作成方法から節税対策まで相続に対することに幅広く対応可能です。
税理士といってもそれぞれに専門分野が異なるため、公式ホームページに掲載されたコラムや事例紹介のまとめなどを閲覧し、遺産相続に強い税理士事務所を探しましょう。
まずは、電話やオンラインの無料相談サービスなどを利用して、自分の悩みを解決してくれるかどうか相談してみてはいかがですか。

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