家族信託とは? 家族信託の基礎知識から手続き、費用を分かりやすく解説
高齢になるにつれて有病率が高まると言われている疾患の1つが、認知症です。
しかし、認知症による判断力の低下が認められると、銀行口座が凍結され、せっかく貯めた老後資金が使えなくなる事態が生じかねません。
そこで、認知症による資産凍結対策として、「家族信託」が注目を集めています。
これは、特定の目的のために親の財産管理を信頼できる家族に任せるという制度で、相続対策としても有効です。
今回の記事では、家族信託の概要から活用事例、手続きの流れ、専門家の必要性などについて解説します。
家族信託の必要性とその仕組み

少子高齢化が進む日本では、2024年(令和6年)に65歳以上の人口が過去最多の3625万人に達しました(総務省「人口推計」2024年9月15日発表)。
総人口に占める高齢者の割合は約30%であり、これは世界でも最も高い割合です。
そのうち、7人に1人が認知症を発症していると報告されており、社会問題となっています。
認知症による資産凍結の可能性
認知症によって生じる最大の不安は、判断能力の低下でしょう。
判断能力が低下すると、不適切な契約を締結したり、不当な取引を行ったりするリスクも高まります。
詐欺や悪意による誘導で、自身の財産を失うこともあるでしょう。
銀行などの金融機関では、利用者の判断能力が著しく低下していると判断した場合には、原則としてその人の口座を凍結するとしています。
これは、個人の資産を守るために必要な対策です。
しかしそのせいで、貯めた老後資金を使えなくなるなど、家族全体が困ってしまう事態が生じる可能性があります。
そこで、認知症による資産凍結を防ぐ仕組みとして今、注目を集めているのが家族信託です。
家族信託の仕組み
委託者があらかじめ自分の財産を信頼できる受託者に託し、受託者が信託契約に基づいて財産を管理・運用することを「信託」と言います。
家族信託も、信託契約の1つです。
信託契約に関わる人はそれぞれ以下のような役割を持っています。
●委託者
財産の所有者、財産を託す人
●受託者
財産の管理・運用・処分を任される人
●受益者
財産に対する権利を持ち、財産から利益を受ける人
家族信託の場合、「委託者=親、受託者=子、受益者=親(委託者と同人)」という構成が一般的です。
管理対象となる財産
信託財産には、預貯金や株式などの有価証券、土地や家屋といった不動産など、金銭的な価値のあるものすべてが含まれます。
信託に含むのは、委託者の保有資産のうち全部でも一部でもかまいません。
契約内容の柔軟性
家族信託では、信託契約書によって財産管理の範囲や方法を明確にします。
例えば、親が元気なうちは本人の指示に基づく財産管理を行い、認知症の発症後は契約書に沿った財産管理へと切り替えることも可能です。
また、「親の死後は受益者を子に変更する」といった条件を設けることで、遺産分割の代替手段とすることもできます。
この柔軟性が家族信託の大きな特徴です。
これにより、相続や財産管理に関する多様なニーズに応えることができるでしょう。
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●家族信託(民事信託)とは?イメージ図で解説
家族信託のメリット・デメリットとは?

家族信託には、契約内容の柔軟性や対応範囲の幅広さによって得られる多くのメリットがあります。
一方のデメリットもしっかりと理解し、良い面と悪い面の両方から利用について慎重に検討することが大切です。
家族信託のメリット
家族信託の主なメリットは次の4つです。
認知症による資産凍結を防ぐ
家族信託を活用することで、親が認知症になった場合でも、代わりに子どもが財産管理や相続手続きをスムーズに進めることができるようになります。
銀行口座の凍結や法律行為の制限を防止することができ、家族に負担をかけません。
遺産分割トラブルを回避する
家族信託は、遺言書や遺産分割協議に代わる仕組みとしても機能します。
これにより、認知症で判断能力が低下した親がいても事前に同意した内容で遺産分割できるため、トラブルを避けられるでしょう。
2次相続対策として有効
家族信託では、複数世代に渡る受益者の指定が可能です。
例えば、父から母、次に長男へと受益者を変更するよう指定することができます。
遺言による指定は1次相続までのため、2次相続を見据えた方法として遺言より効果的です。
成年後見制度よりも柔軟
成年後見制度では、家族が後見人に選ばれるとは限りません。
また、後見人は法的な公平性を優先するため、本人の想いと合致しない可能性もあるでしょう。
一方、家族信託なら、本人が信頼する親族に財産管理を任せることで、本人の意思を尊重したより柔軟な管理が可能です。
家族信託のデメリット
家族信託を行うデメリットには、次のようなものがあります。
手続きが煩雑
信託契約は煩雑で、財産の移転、運用には専門的な知識が必要です。
そのため専門家のサポートが不可欠で、報酬や手数料といった費用と依頼先を探す手間が発生します。
相続税対策ではない
家族信託は、相続税対策を目的とするものではありません。
しかしながら、契約内容を工夫することで節税の効果を得ることはできるでしょう。
身上監護権はない
家族信託には、身上監護権がありません。
身上監護権とは、本人の健康や生活を守るために法に沿った行為を行う権利です。
そのため、任意後見制度との併用も検討するとよいでしょう。
家族信託を活用できるケーススタディ

家族信託は、さまざまな状況に対応できる柔軟な財産管理の手法です。
ここでは、実際に家族信託がどのように役立つのかを、具体的な例を挙げて紹介します。
ケーススタディ1:認知症による凍結リスク対策
近年、高齢者を狙った詐欺の増加に不安を感じていたAさんは、自らの資産の管理を前もって長男に託すことにしました。
家族信託の契約内容は、Aさんの財産管理を長男が行い、その利益をAさんが受けるというものです。
これにより、もしもAさんの判断力が低下する状況が起こっても資産凍結を受けるおそれがなくなり、必要な生活費や医療費の支払いがスムーズに行われる安心感を得ることができました。
ケーススタディ2:遺産分割のトラブル回避
Bさんは、自分の財産分配について家族会議を開いて話し合う機会を設けています。
その結果、家族全員が納得できる形での分配方法が見つかりましたが、現行制度では生前に行った遺産分割の合意は無効です。
そこで、いざ相続が起こった際に争いが起こることを回避するために、信託契約を結ぶことにしました。
契約内容には、あらかじめ話し合った財産分配方法を明記してあります。
その結果、家族全員が納得する相続が実現し、円満な関係を保つことができました。
ケーススタディ:未成年の相続人保護
Cさんは、夫を亡くして以来、一人暮らしをしていますが、もしも認知症になったら施設に入居したいと考えています。
自宅不動産(家)をはじめとする財産はCさんが存命のうちは介護の費用として使ってもらい、死後は2人の子どもが適切に分配して受け取ることが望みです。
そこで、第1受益者をCさん、第2受益者を子どもとした信託契約を結びました。
Cさんの希望通り、介護費用が必要な間は財産から捻出し、Cさんが亡くなったあとはその残高を2人の子どもで分配しています。
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●家族信託・遺言・後見の比較検討
家族信託の手続きの流れや費用について

家族信託制度を利用するための手続きは、通常、次のような流れで行うことが一般的です。
ステップ1:信託契約内容の整理
信託の目的、信託財産、受託者などを検討し、具体化します。
受託者は信託契約に従って財産を管理するため、信託契約の目的として「誰に対してどのような利益を期待するのか」を明確にしておくことが大切です。
家族信託をするために決めるべきこと
家族全員が納得して各々の役割を果たすために、次のことについて十分に話し合いましょう。
・家族信託を選ぶ理由と目的
・信託財産の内容、管理・運用方法
・受託者と受益者の選任
・家族信託の期間、終了するタイミング、終了時に信託財産をどうするか など
ステップ2:信託契約書の作成
家族間で話し合ったことを基本として、信託契約書を作ります。
一般に契約書に規定の形式はありませんが、信託口座を開設する銀行によっては、公正証書による信託契約書を条件としている場合があります。
口座を作りたい金融機関に打診して確認しておきましょう。
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●家族信託のコンサルティングの流れ
専門家のサポート
家族信託のメリットである「柔軟な財産管理」を生かすためには、家族事情に応じて契約書を作り込むことが重要です。
契約書の作成には法律の専門知識が求められるため、税理士や弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。
報酬の支払いにかかるお金は、あくまで目安ですが以下の通りです。
・設計コンサルティング:20~30万円(当社目安)
・信託契約書作成:約30万円(司法書士手数料)、7~13万円(公証人費用※公正証書の場合)
ステップ3:信託口座の開設
信託財産を管理することを目的とする専用の信託口座を開設します。
信託口座の開設に協力的か否かは金融機関によって異なるため、事前の確認が必要です。
口座開設の必要書類
・本人確認資料(運転免許証、マイナンバーカードなど)
・受託者と受益者の実印とその印鑑登録証明書(発行から3カ月以内のもの)
・信託財産の資料(不動産の登記識別情報、固定資産税評価証明書など)
・その他、金融機関ごとに指定された資料
ステップ4:信託財産の名義変更
不動産や金融資産の名義を、委託者から受託者に変更します。
信託財産に不動産がある場合は、その不動産が信託財産であることを示すための信託登記が必要です。
不動産登記に必要な書類と費用
一般に不動産の信託登記には、1物件あたり下記の登録免許税がかかります。
また、書類の作成を司法書士に依頼するなら、その報酬も必要です。
・登録免許税:【土地】固定資産評価額×0.3% 【建物】固定資産税評価額×0.4%
・司法書士手数料:1物件あたり4万円弱
家族信託の活用事例

家族信託は、次のようなケースで活用できます。
遺言の代替策
相続税対策や遺産分割におけるトラブル回避には、遺言書の作成が有効です。
しかし、家族信託では柔軟に財産の処分方法を指定できるため、より家族事情に寄り添った相続対策が行えます。
また、遺産分割がスムーズに進むと、その分、委託者の死亡による口座凍結期間を短縮する効果も得られるでしょう。
財産管理の効率化
家族信託では、不動産、金融資産、事業用資産などさまざまな種類の財産管理を一元化できます。
これにより、委託者の所有財産を効率的に管理でき、相続が発生したときにも困りません。
事業承継
自営業者や中小企業経営者が家族信託を事業の承継に活用する場合、現経営者を委託者兼受益者、後継者を受託者するのが一般的です。
このとき、現在の経営者の配偶者を第2受益者として設定することで、事業承継をスムーズに行いながら配偶者の生活を守ることもできます。
障害がある子の未来を守る
家族信託は、障がいを持つ子の財産管理にも有効な手段です。
親が亡くなった以降も、子どもの生活を維持するために必要な資産管理を続けられます。
未成年の子どもの財産管理
月ごと年ごとに費用を渡すことができるのも、家族信託の特徴です。
家族信託を活用すると、両親の死後、未成年の子どもが残された場合でも受託者が財産を管理して生活の維持や教育費などに充てることができます。
家族信託での注意点とよくある質問

ここまでに紹介した通り、家族信託はとても便利な制度です。
しかし、適切に運用しなければ予期せぬリスクが発生することも多いでしょう。
この章では、家族信託を利用する際の注意点やよくある疑問について解説します。
家族信託の注意点
家族信託を利用する上での主な注意点は下記の通りです。
費用の発生
家族信託は、管理を託すための高額な報酬は発生しません。
ただし、専門家への報酬、不動産登記などの手続きにかかる手数料や税金など、さまざまな費用がかかります。
これらの費用は、管理する信託財産高に応じて算出されることが多いため、不動産などの高額な資産が含まれる場合、高額なコストがかかる可能性があることを知っておきましょう。
契約内容の変更が難しい
信託契約は、一度設定すると簡単には変更できません。
そのため、家族信託のノウハウを持つ専門家を交え、契約内容について慎重に検討することが大切です。
受託者の負担
受託者には、財産管理に関する業務が集中するため、前もって了承を得ておくことが非常に重要です。
受託者は信託財産を委託者の意向に沿って適切に管理する権限を持っています。
その一方で、信託事務の遂行、善管注意義務、忠実義務、公平義務、分別管理義務など、多くの義務が課せられ、その責任は重大です。
よくある質問
家族信託の開始を検討している方から、よく寄せられる質問を紹介します。
受託者としてどのような人が最適ですか
受託者の財産管理が不適切だと、財産が減ってしまうおそれがあります。
家族の中でも身近に居て信頼できる人、平日でも時間を取り易い人、管理能力の高い人を選びましょう。
家族信託は、いつまで有効ですか?
信託期間は、信託契約書によって自由に定めることができます。
一定期間で終了させることも、期間を決めずにずっと継続させることも可能です。
家族信託は、専門家に頼らず自分だけでもできますか?
家族信託の契約には、専門的な知識が求められます。
契約内容は財産管理に直結する重要な要素です。
適切な契約書でなければ、期待通りの効果を得られないばかりか、思わぬリスクが生じる可能性もあるでしょう。
将来のため、家族のために、効果的な信託契約を結びたいのなら、専門家に相談することをおすすめします。
相続時での家族信託をお考えの際は、ご相談ください。

相続対策として家族信託を活用する場合は、相続に強い法律の専門家に相談することが重要です。
なかでも、税務のプロである税理士なら、相続税対策も考慮した提案が期待できます。
とは言え、税理士なら誰に任せてもよいというわけではありません。
税理士はそれぞれ専門分野が異なり、相続に関する法律の知識や実績がなければ最適な対応ができないのです。
相続についての知識、家族信託を取り扱った実務の経験、豊富なノウハウを持つ税理士を探すためには、税理士法人のホームページ等を確認するのが手っ取り早いでしょう。
その際、「家族信託」や「相続」といったキーワードで検索するのがおすすめです。
ホームページ内には、その税理士の成功事例や過去実績の他、一般のお客様に向けてわかりやすく紹介したコラム等があります。
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