包括遺贈と特定遺贈で相続税はどう変わる?税理士が解説する節税の考え方と注意点
「包括遺贈(ほうかついぞう)」は遺贈のひとつで、財産の全部もしくは一部を割合で指定してまとめて譲る方法です。
財産の変化に柔軟に対応できる便利なしくみですが、その半面、受遺者には相続人と同様の義務が発生するため注意が必要になります。
遺贈で財産を適切に承継するには、包括遺贈と特定遺贈の違いを正しく理解し、状況に応じて使い分けることが鍵。
この記事では、「包括遺贈」と「特定遺贈」について、それぞれの定義や違い、メリットとデメリットまで、ケーススタディ付きでわかりやすく解説します。
包括遺贈と相続税の基礎知識 定義としくみをわかりやすく解説
包括遺贈は、遺言によって遺産の全部もしくは一定の割合を「包括的に」誰かに受け継がせる方法です。
相続では法定相続人以外の人へ財産を譲ることができませんが、包括遺贈であれば相続人以外の個人や、法人に対しても財産を譲ることができます。
相続や贈与といった言葉に比べ、包括遺贈は耳慣れない方も多いかもしれません。
まずは、包括遺贈の内容を詳しく見てみましょう。
包括遺贈とは何か?遺言における「包括」の意味を整理
そもそも、民法ではどのように記載されているのでしょう。
| (包括遺贈及び特定遺贈) 第九百六十四条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。 |
|---|
包括という言葉には、さまざまなものをひとつに取りまとめるという意味があります。
包括遺贈とは、遺言者の意思にもとづき、特定の土地や預貯金の一部ではなく、遺産の全部もしくは一定割合を「取りまとめて」譲るという仕組みです。
例えば、遺言書を通じて「遺産の総額の2分の1を特定の人に譲る」といったケースが該当します。
包括遺贈が生じるタイミングとその法的効果
包括遺贈が生じるタイミングは、遺言の効力発生と同じタイミングです。
つまり、遺言者が死亡した時ということになります。
もし、遺言書に「一定の条件を満たしたとき」という条件があれば、その条件が満たされたときです。
法的遺贈が発生したことにより、包括遺贈を受けた人(=包括受遺者)は相続人と同じ立場になります。
つまり、相続のときと同様に法的効果が生じるということです。
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包括遺贈の効力とは?課税対象や税率の考え方
では、包括遺贈を法的に正しく成立させるにはどうしたらよいのでしょうか。
包括遺贈が効力を発生するための要件とは
包括遺贈の効力を発生させるには、形式を満たした遺言があることが重要な要件です。
例えば、以下のような場合は包括遺贈の効力が発生しないので注意しましょう。
- ・遺言書に日付が入っていなかった場合
- ・パソコンで「友人に遺産の10分の1を遺贈する」と書いた遺言書に署名押印した場合
- ・判断能力を失い、医師から認知症の診断を受けた後に遺言書が作成された場合
受遺者が取得する財産範囲 – 債務・権利・義務も含まれるのか
民法では、包括受遺者の権利や義務について、下のように記載されています。
| (包括受遺者の権利義務) 第九百九十条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。 |
|---|
つまり、包括遺贈が生じると、受遺者には相続人と同じ権利義務が発生することになります。
権利として、預貯金や不動産などのプラスの財産を受け取るだけでなく、借金などマイナスの財産もあわせて引き継ぐため注意が必要です。
また、受遺者側には相続人同様に相続放棄や限定承認も認められています。
相続税・贈与税のどちらが適用される?遺贈の税務取扱い
包括遺贈を受けると、相続税と贈与税のどちらの対象となるのでしょうか。
包括遺贈を受けた場合、相続で財産を取得したときと同じく相続税の対象となります。
法定相続人ではなくても相続税の対象となり、申告義務も発生するので注意が必要です。
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包括遺贈のメリット・デメリットと節税につなげるポイント
ここからは、包括遺贈のメリットとデメリットを見ていきましょう。
包括遺贈のメリット – 遺言で柔軟な財産承継ができる理由
包括遺贈は、特定の財産を指定する遺贈や、対象者が限られる相続に比べて、柔軟性が高いことが大きなメリットです。
●包括遺贈のメリット
- ・割合で指定できるので、個々の財産を指定しなくても一括で承継できる
- ・遺言作成後の財産の増減に、遺言書の書き換えなしでも対応できる
- ・お嫁さんや孫など、法定相続人以外にも財産を譲り渡すことができる
包括遺贈のデメリット – 想定外の債務承継リスクやトラブル
では反対に、包括遺贈のデメリットはどのようなものでしょうか。
●包括遺贈のデメリット
- ・借金や税の未納など、マイナスの財産も引き継ぐことになる
- ・相続同様、放棄や限定承認には3カ月の期限があり、家庭裁判所での手続きも必要
- ・他の相続人と土地などを共有する可能性がある
- ・遺贈額によっては、法定相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性がある
節税につながる具体的なしくみ – 遺言+土地評価+控除活用
包括遺贈を検討するときに、最も気になるのは税金の負担ですよね。
包括遺贈では、受け取った財産に相続税が適用されます。
逆に考えると、相続税の節税対策も有効に使えるということになります。
- ・きちんと形式の要件を満たした遺言書を準備しておくこと
- ・土地については、過大評価を防ぐこと
- ・配偶者控除など、使える控除を最大限利用すること
こういった対策の積み重ねが、節税につながります。
包括遺贈と特定遺贈の違い 税負担や遺言書の記載例も解説
包括遺贈は通常の遺贈とはどう違うのでしょうか。
最大の違いは、「包括」つまり、具体的な財産を個別に指定するのではなく、全部や一部を割合で指定し、「まとめて」譲り渡すという点です。
これに対し、特定の財産を指定して与える遺贈のことを「特定遺贈」と言います。
税負担の比較 – 包括遺贈と特定遺贈、どちらが有利か?
では、包括遺贈と特定遺贈、どちらが有利なのでしょうか。
表で比較してみましょう。
包括遺贈と特定遺贈の違い
| 特定遺贈 | 包括遺贈 | |
|---|---|---|
| 内容 | 個別の財産を指定する | 財産の全部または一部を割合で指定する |
| 債務について | 指定財産の受け取りのみで、債務は引き継がない | 債務も引き継ぐ(相続人と同じ) |
| 登記などの手続き | 遺贈された財産ごとに必要 | 包括的に手続きが可能(相続人と同じ) |
| 共有のリスク | 相続人との共有は生じにくい | 相続人との共有が生じやすい |
では、結局どちらが有利なのでしょう。
結論としては、ケースバイケースと言えます。
なぜなら、譲りたい財産の内容や、譲りたい相手、相続人の関係性など、条件に左右されるからです。
詳しくは後述しますが、特定遺贈と包括遺贈の違いを理解し、ご自身のケースに合わせて使い分けることが鍵になります。
特に財産の額が大きい場合は、税負担も気になるところです。
迷った際には、税理士などの専門家の手を借りることも検討しましょう。
遺言書記載の具体例 – 包括遺贈・特定遺贈双方の文言パターン
では実際、遺言書で遺贈について指定するには、どのように記載すればいいのでしょうか。
具体的な文言の例を見ていきましょう。
包括遺贈の場合の文例
ポイントは、割合を明確にし、「包括遺贈」と明記することです。
(全財産の場合の例)
第〇条 遺言者は、自己の有する一切の財産を子〇〇〇〇に包括遺贈する。
(一部の場合の例)
第〇条 遺言者は、自己の有する一切の財産のうち二分の一を子〇〇〇〇に包括遺贈する。
特定遺贈の場合の文例
ポイントは、財産の内容を明確にすることです。
(不動産の場合の例)
第〇条 遺言者は、自己の有する下記の不動産を〇〇〇〇に遺贈する。
(所在地・地目・地積などを以下に記載)
(預貯金の場合の例)
第〇条 遺言者は、〇〇銀行〇〇支店の普通預金(口座番号 ××××)を〇〇〇〇に遺贈する。
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どちらを選ぶべき?包括遺贈と特定遺贈の適したケーススタディ
特定遺贈と包括遺贈には、それぞれにメリットとデメリットがあり、一概にどちらが良いとは言えません。
例えば、現在住んでいる家を妻に譲りたい、など特定の財産を確実に渡したい場合は特定遺贈が有利です。 もし債務の心配がほとんどなければ、財産の内容が変動しても遺言を作り直さず、柔軟に財産を分けられる包括遺贈のほうが有利になるでしょう。
実際に、よくあるケースを挙げてみてみましょう。
ケース①:住宅+土地などの主要財産を子どもに「包括」で承継させたい場合
ケース①では、包括遺贈が有利です。
住宅と土地は金額が大きい財産なので、遺産全体の中で割合が大きくなります。
包括的に承継させることで、相続と同様に各種の控除を適用でき、税務上も整理しやすくなります。
また、ローンや税金の負担などを考慮し、一本化して管理できる点もメリットです。
一方、住宅や土地といった特定の財産だけを確実に渡したい場合は、特定遺贈が適しています。
ケース②:特定の株式・事業用資産を「特定遺贈」で引き継がせたい場合
ケース②は、特定遺贈が有利と言えるパターンです。
特定遺贈なら、相続人や相続人以外の方など、事業を承継する人に必要な資産を確実に指定して遺すことができます。
経営者でもある贈与者の意図を明確にし、事業承継を成功させやすくなるケースと言えるでしょう。
ただし、債務の承継は含まれないため、借入金や保証関係がある場合は別途検討が必要です。
公正証書遺言の重要性 無効リスクや秘密保持のメリット
包括遺贈には、要件を満たした遺言の準備が欠かせません。
遺言書にもいろいろな種類がありますが、どんなものを準備すればよいのでしょうか。
遺言の種類と比較 – 公正証書遺言を選ぶ理由
遺言には、「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」があります。
簡単に言うと、全てを自分で手書きするのが自筆証書遺言。
自筆証書遺言は、法務局での保管制度もあります。
秘密証書遺言は、中身を明かさず封をしたまま公証役場でその存在だけを証明してもらう遺言です。
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう遺言です。
費用面や公証役場とのやり取りなど作成時には少し手間がかかります。
包括遺贈や特定遺贈を希望する場合は、公正証書遺言がおすすめ。
公証人が作成してくれるので、形式的な不備により無効になる心配がありません。
また、自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、相続が発生すると家庭裁判所で「検認」を受けなければなりませんが、公正証書遺言ならその手間も省くことができます。
遺言が無効となるリスク – 文言・証人・形式のチェックポイント
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、遺言が無効になるかもしれないとお伝えしました。
では具体的に、どのような点をチェックすれば有効にできるのでしょうか。
以下で詳しく見ていきましょう。
●遺言作成時のチェックポイント
- ・文言の不備がないか
- ・遺贈の対象財産や、受遺者は具体的に記されているか
- ・日付や署名、押印、自筆などの要件を満たしているか
- ・公序良俗に反した内容になっていないか
秘密保持・紛争回避という観点からの「遺言書の保管・開示」
実際に遺言書を作成する場合は、相続発生時に遺言の存在が確実に相続人などに伝わる必要があります。
特に遺贈の場合、遺言書の存在が知られなければ実現ができませんので注意が必要です。
ただし、このとき自筆証書遺言であれば、存在を家族に知らせることはリスクでもあります。
また、生前に家族の目に触れてしまい、トラブルの種となることもありえるでしょう。
また、せっかく遺言を遺したのに、改ざんが疑われて争いになるというケースも考えられます。
その点、先ほどおすすめした公正証書遺言ならば、公証役場で原本を保管してもらうことができ、形式的な不備も回避することができます。
包括遺贈のよくある注意点とその対処法
ここからは、包括遺贈についてよくある注意点と対処法をみていきましょう。
注意点① 借金も相続対象になるリスク
包括遺贈の場合、最大の注意点と言ってもいいのがこの部分です。
借金などがある場合、そちらもあわせて引き継ぐことになるので注意が必要です。
●マイナスの財産があるときの対策は?
対策として、事前に財産と負債をきちんと確認しておきましょう。
また、確認した内容を受遺者に事前情報として共有、相談しておくことも重要です。
特に事業の承継などを目的とする場合、事前の準備でスムーズに財産を引き継ぐことができ、事業をストップさせずに済みます。
注意点② 登記や名義変更に関する実務対応が煩雑
包括遺贈を受けた受遺者は、相続人と同じ権利義務を有します。
相続税の申告や、登記の名義変更などの手続きについても同じです。
受遺者が相続人と近しい関係ならばスムーズかもしれません。
けれども、そうではない場合は相続人とのやり取りが発生することで手続きが煩雑になるリスクがあります。
●登記や名義変更の実務の対策
専門家を遺言執行者に指定しておくことで、受遺者の手続き負担を軽減できます。
特に難しいのが相続税の申告手続き。
こちらも相続専門の税理士などの専門家の手を借りることで、負担がぐっと減るためおすすめの対策です。
遺贈での相続税対策をご検討の方は、相続ステーションへお気軽にご相談ください
ここまで、包括遺贈について詳しくご紹介してきました。
遺贈の場合、譲り渡す財産が高額であることも少なくありません。
そういった際には、遺贈の方法や内容によって、税金の負担が大きくなることがあります。
せっかく遺言書を書いたのに、不備によって遺贈ができなくなったというリスクも避けたいですよね。
大切な財産を大切な方へ確実に引き継ぎたい場合、税理士事務所のような専門家の手を借りるのもおすすめです。
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