相続登記の義務化は2024年(令和6年)4月1日から

遺産相続で土地や家屋を取得した場合は、不動産の名義変更手続きである相続登記が必要です。
これまでは任意とされていた相続登記ですが、所有者不明土地が増加していることなどを受け、2024年(令和6年)4月1日からの義務化が決定しています。

本記事では、相続登記の申請手順や必要書類、行わない場合のリスクや罰則、義務化に至った経緯について詳しく解説します。

国や市は所有者が不明な土地を減らしたい?

国や市は所有者が不明な土地を減らしたい?

国土交通省の発表によると、日本全国における所有者不明土地の割合は約24%にものぼります。
これは、九州本島に匹敵する大きさです。

所有者不明土地とは、「不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地」あるいは「所有者の所在が不明で連絡がつかない土地」のことをいいます。
所有者不明土地の原因は、その63%が相続登記の未了です。

所有者不明でも、何もわからないわけではない

所有者不明土地といっても、残っている登記情報から元の所有者に繋がる現在の法定相続人を探索することは可能です。
しかし、事実上の相続人に関する詳細まではわからないため、法定相続人全員が権利を共有する共同相続人として扱うことになります。
つまり、所有者不明土地のなかには、おおよその所有者はわかるものの実際に誰が権利を有しているのか明確ではないものも含まれているということです。

所有者不明土地によって生じるリスク

所有者不明土地があることで、どのような問題があるのでしょうか。
実は国や行政にとってリスクが高いだけでなく、近隣住民や相続登記を行わなかった遺族にとっても不利益になるのです。

どのようなリスクがあるのか、具体的に説明していきましょう。

国や行政にとってのリスク

国道の新設や河川改良事業といった公共事業の実施において、所有者不明土地が妨げとなる事例が多発しています。

民間における利用ニーズの低い土地は、何代も前から登記が更新されていないため、共同相続人が100人以上いるというケースも珍しくありません。
そうなると、もはや共同相続人同士も互いの現況を把握しきれず、所在不明者がいることもあるでしょう。

公共事業で使用したい部分は所有者不明土地の一部、長い国道のほんの数メートルでも、所有者の探索や特定、交渉のために多くの費用と年数を要することになります。
また、探索や交渉にかかっている期間は、必要な道路や工事が実施できないことで利便性が低下したり、災害への対策が不十分になったりするでしょう。

近隣住民にとってのリスク

所有者不明土地は、所有者意識が希薄で必要な手入れもされずに放置されていることがほとんどです。
そのため、伸び放題になった枝や雑草による越境被害、ごみの不法投棄による悪臭被害や害虫被害、不審火による火災被害、老朽化による倒壊にともなう周囲への悪影響などが起こりやすくなります。
また、利用可能な建物が残っている場合は不法侵入による盗難被害や不法占拠、さまざまな犯罪に利用される危険性もあるでしょう。

当該不動産が原因で景観が損なわれ、さらに治安も悪化することで、地域一帯の利用価値が下がるという不利益にも繋がります。

所有者にとってのリスク

上記で挙げた近隣住民にとってのリスクは、所有者にとっても極めて重大なリスクです。
適正管理を怠ったことで第三者が損害を被った場合、損害賠償などの責任問題に発展する可能性もあります。

また、そのまま放置すると保安上危険や衛生上有害が明らかな場合は、周辺の生活環境保全を図るために適正管理を行うように行政指導が入るかもしれません。
指導に応じないと勧告となり、命令、行政代執行と進みます。
行政代執行とは、境界線を越えて伸びた枝の伐採や倒壊しそうな建物の解体など、必要な改善対策を行政が実施することです。
実施にかかった費用は土地の所有者に「税金債務」として課され、返済しない場合は「税金滞納者」として扱われます。
つまり、滞納した税金を徴収するために、自宅を含む所有不動産が公売(行政による競売)にかけられてしまう可能性もあるということです。

先祖代々の空き地や空き家を放置しておくと、知らないうちに自宅を失うことになるかもしれません。

相続登記とは?義務化になると 何が変わる?

相続登記とは?義務化になると 何が変わる?

ここまでに紹介したような所有者不明の土地にかかる問題は、増加に歯止めが利かない状態でした。
高齢化が進む日本では死亡者数も上昇傾向にあり、所有者不明土地問題の深刻化が懸念されます。

そこで国は、2021年(令和3年)に問題解決に向けた法改正を行いました。
これまで任意としていた相続登記が義務化されることになり、申請期限と罰則が新たに設定されたのです。

相続登記申請の義務化【2024年(令和6年)4月1日施行】

2024年(令和6年)4月1日に、相続登記の義務化が施行されます。
これにより、相続や遺贈によって不動産を取得した人は、適正な相続登記申請が義務付けられるということです。

相続登記の期限は3年間

義務化によって、不動産を取得してから3年以内に相続登記を行うべきという期限が設けられました。
相続の方法によって、相続取得のタイミングが違う点に注意しましょう。

●不動産取得日
・遺言書がある相続・遺贈の場合:相続により所有権を取得したことを知った日
・遺産分割協議の場合:遺産分割協議が成立した日

3年も猶予があると後回しにしても大丈夫だと思いがちですが、相続登記には書類手配などの準備に時間がかかります。
不動産を相続することが決まったら、早めに動き出すほうがよいでしょう。

期限までに登録申請しないと10万円以下の過料

期間内に相続登記の申請をしなかった場合は、10万円以下の過料対象となります。
ただし、正当な理由がある場合はその限りではありません。
正当な理由として想定されているものは、以下の通りです。

●正当な理由例
・相続登記が数代にわたって放置されていたため法定相続人の数が多く、必要書類の収集や他の相続人の把握に時間がかかるケース
・遺言の有効性や遺産の範囲などを争点として話し合いが難航しているケース
・申請義務を負う相続人自身に重病、暴力からの避難、経済的な困窮などがあるケース

義務化される上での注意点

義務化される上での注意点

大きな注意点は、施行前の相続についても義務化の対象となる点です。
また、相続登記の義務化にあわせて「相続人申告登記」と「相続土地国庫帰属制度」も施行されるため、それぞれの事情において利用するとよいでしょう。

過去に相続した不動産における相続登記の義務化

今後発生する相続だけでなく、過去の相続で得た不動産についても相続登記の義務化が適用されます。
その場合は、制度施行日から3年後の2027年(令和9年)3月31日までが申請期限です。

親世代が暮らしていた実家不動産など、ゆくゆくは住居として整備するつもりで放置している場合は、早急に登記準備を進めましょう。
相続から時間が経過しているものの話し合いが決着していない不動産がある場合は、「相続人申告登記」を済ませておくと安心です。
今後も利活用の予定なく放置していた土地がある場合は、相続土地国庫帰属制度を検討するのもよいでしょう。

相続人申告登記 2024年(令和6年)4月1日施行

相続人申告登記とは、下記の2点を申し出る制度です。

・当該不動産における登記簿上の所有者が亡くなり、相続が開始したこと
・自らが、法定相続人のひとりであること

この制度では、申出人の氏名と住所が記録されるため、登記簿を見ることで容易に連絡先の把握ができます。
また、遺産分割が完了している必要がなく、他に法定相続人がいる場合でも単独申請が可能です。
予め相続人申告登記をしておけば、3年以内の期限内登記義務を果たしたものとみなされます。
遺産分割協議が長引きそうなときには、早めに相続人申告登記を済ませておくと焦らずに済みますね。

相続土地国庫帰属制度 2023年(令和5年)4月27日施行

相続したものの利用する予定がない土地や、管理負担が大きく手放したい土地を、国が引き取るという制度です。
相続によって土地の所有権を取得した相続人だけが利用でき、売買や譲渡によって取得した人は対象外となります。

申請対象となる土地にいくつかの条件がある点、申請時に負担金が必要な点に注意が必要です。
しかし、今後、永年の固定資産税と比較すると負担金のほうが安価なケースもあるため、管理負担や経済的な負担から解放されるために有効な手段といえるでしょう。

相続登記せずに放置する相続人が多い理由とリスク

相続登記せずに放置する相続人が多い理由とリスク

相続登記が放置されてきた理由については、これまで任意だったこと、手間や費用がかかることが考えられます。
また、相続以前から住み続けている自宅不動産ならば、所有者不明土地として扱われるリスクもありません。

しかし、適切な相続登記を行わないと、所有者不明土地とは異なる以下のようなリスクが生じることを覚えておきましょう。

売却・譲渡・融資担保などの処分ができない

相続登記とは、不動産の名義変更です。
不動産の売却や譲渡、融資担保契約などは、事実上の所有者と登記情報が一致しなければ締結できません。
つまり、不動産の名義が故人(被相続人)のままでは処分できないのです。

第三者に対抗できない

たとえば、故人(被相続人)の相続人が子ども3人というケースで、相続以前から同居していた長男が自宅を相続したとしましょう。
相続登記未了のうちは、長男以外の子ども2人も共同相続人として自宅の所有権を共有することになります。
これは、遺言書による相続であっても、遺産分割協議が成立していても同様で、不動産の権利については、登記が優先されるということです。

また、共同相続人は法定相続分に応じた割合を持分としており、自分の持分については単独で相続登記を行えます。
もしも共同相続人のひとりが独断で登記を済ませて売却や譲渡を考えていても、それに対抗する手段はありません。
実際に処分が済んでしまえば、1つの不動産を全くの他人と共有することになり、今後の管理や処分が難航するでしょう。

次代の相続に不利益が生じる

相続は、曖昧なままで代を重ねるごとに、法定相続人が増えていくものです。
先ほどの例と同様に、未分割である為に3人の子どもが共同相続人となっている不動産があるケースで考えてみましょう。

1次相続:相続人子どもABCの3人
2次相続:Aの子ども3人(DEF)+Bの子ども2人(GH)+Cの子ども4人(IJKL)で計12人
3次相続:Dの子ども2人+Eの子ども1人+Fの子ども......

共同相続人が多くなるほど、権複数の人の実印・印鑑署名が必要になり、後世に宿題や負動産を遺すことになるでしょう。

相続登記の必要書類

相続登記の必要書類

相続登記の手順は、①必要書類の準備、②登記申請書に記入、③登記所に提出という3ステップで完了します。

相続登記で手間を要する部分は、必要書類の取得です。
書類を取得するためには各地の役所を回ったり、郵送手配を行ったりしなくてはなりません。
必要書類の多くは他の相続手続きにも使うものが多いため、予め必要部数を把握してまとめて交付してもらうとよいでしょう。

①必要書類の準備

ここからは、必要書類を目的別に案内します。

まずは、現時点の登記上名義人と相続によって所有権を得た相続人の相続関係を証明する書類です。

●相続関係証明書類
・被相続人の出生から死亡までの情報がわかる戸籍謄本または戸籍事項証明書、除籍謄本、改製原戸籍
・被相続人の住民票除票または戸籍の附票
・相続人全員の戸籍謄本または抄本、戸籍事項証明書
※先代や先々代が登記をしていなかった場合は、その間を埋めるための戸籍情報書類も必要となります。

次に、新たな所有者となる根拠と相続人の証明書類です。

●相続不動産証明書類
・相続人の固定資産課税明細書(登記申請日の属する年度のもの)
・相続人の住民票

【遺言書による相続の場合】
・裁判所が検認済みの自筆証書遺言または公正証書遺言

【遺産分割協議による相続の場合】
・遺産分割協議書
・相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)

法定相続情報一覧図

相続財産の名義変更は、手続きのたびに戸籍関連書類の束を提出しなければなりません。

法務局の法定相続情報証明制度は、戸籍情報書類と相続情報一覧図を登記所に提出すると認証文を付した写しが交付されるという制度です。
認証文のある相続情報一覧図は、名義変更だけでなく相続税の申告納税にも利用できます。
写しの交付は何度でも無料のため、相続不動産が複数ある場合、金融口座や自動車など名義変更が必要な財産が多い場合は手間とコストの節約が可能です。

②登記申請書に記入

登記申請書は、法務局のホームページからダウンロードできます。
相続人の氏名や住所、相続する不動産の住所など基本的な情報を記入しましょう。

注意が必要な項目は、下記の3つです。

●不動産番号
一筆の土地または1つの建物ごとに付された番号で、登記事項証明書等に記載されています。
ただし、登記申請書における不動産番号記載は任意のため、わからなかった場合は省略してもかまいません。

●課税価格
課税価格は、市区町村で管理している固定資産課税台帳の価格です。
毎年4月~市区町村から通知される固定資産税課税明細書に記載されています。

●登録免許税
登録免許税とは、相続登記を行う際の手数料です。
原則として「固定資産税価格×0.4%」で算出します。
登記申請書類に税額を記入し、現金か収入印紙で用意しておきましょう。

③登記所に提出

相続登記申請書の提出先は、相続する不動産の住所地を管轄する法務局(登記所)です。
直接窓口に書類を持参するほか、郵送やオンラインでも受け付けています。

ただし、相続登記の必要書類は電子化に対応していないものが多いため、オンライン申請後に別途必要書類の郵送が必要です。

相続登記についての不明点はプロへご相談ください

相続登記についての不明点はプロへご相談ください

相続登記は、代々の更新がきちんとできていれば、それほど難しい手続きではないでしょう。
しかし、相続登記をしていない土地があるかもしれない、所有者不明土地があるかもしれないといった不安がある場合は、土地や税法の知識を持つ専門家に相談するほうが安心です。

また、相続登記手続きを委託する場合も、家族以外では弁護士、司法書士の資格を持つプロにしか委任できません。
それだけ専門知識が必要だということで、個人が無理に抱えていても解決方法を探すことは難しいでしょう。
不動産相続問題の解決事例を多く持つ税理士ならば、相続登記による税の影響や節税対策まで適切なサポートを行うことができますので、登記する前に相談されることをオススメします。
不安ごとを相談するだけでも、一歩前進できるでしょう。

まずは、無料相談サービスなどを利用してお気軽にご連絡ください。

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