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財産債務調書とは?提出義務・作成手続き・注意点を専門家が徹底解説

企業の経営者や資産家など一定額以上の資産を持つ人にとって、財産や債務の把握は税務対策の第一歩です。
なかでも、国税当局に対する報告制度として重要な書類に「財産債務調書」があります。

本記事では、財産債務調書の目的や背景、提出義務の条件、評価方法、提出手続き、提出によるメリットやペナルティについて、詳しく解説します。
財産債務調書について知りたい方は、ぜひご覧ください。

財産債務調書とは?目的・背景と提出の重要性をわかりやすく解説

財産債務調書とは?目的・背景と提出の重要性をわかりやすく解説

財産債務調書とは、申告漏れを防ぎ、適正な税負担を求めるために導入された仕組みです。
税務署が、企業経営者や資産家などの財産状況を把握し、適切な課税を行うことを目的としています。
もちろん2025年(令和7年)7月からのAIによる相続税の申告書の税務調査対象のスクリーニングにも用いられます。

財産債務調書を必要とする背景

所得税や相続税、贈与税は、財産の取得や移転に課される税金です。
この相続税と贈与税、給与所得以外の所得税は、納税者自身が税額を計算して納税する「申告納税方式」が採用されています。
しかし、多くの資産を保有する個人に対して、税務署がその資産のすべてを把握することは難しいという課題がありました。

そこで、納税者自身が自主的に財産の全体像を報告する「財産債務調書制度」が導入されたのです。
これにより、税務当局は保有財産と申告内容の整合性を確認しやすくなり、適切な課税が可能になりました。
さらに、不正な資産移転の監視強化と租税回避の抑止効果も期待されています。

なお、類似の税制に「国外財産調書」があり、こちらは国外に5000万円以上の財産を持つ方が対象です。

2015年(平成27年)の税制改正による見直し

財産債務調書制度は、2015年(平成27年)の税制改正で、前身である「財産債務明細書」を見直して整備されたものです。
この改正により、以下の点が強化されました。

・対象者の拡大:より多くの“資産を持つ人”が報告義務を負う
・記載内容の充実:より詳細な情報を記載する
・ペナルティの導入:提出しない場合の税負担が増加

2022年(令和4年)の税制改正における見直し

次の改正は、2022年(令和4年)の税制改正によるものです。

・提出義務者の拡充:従来の提出条件に加え、対象者の追加
・提出期限の変更:従来よりも後倒しに
・記載の簡略化:記載の簡略化や省略化範囲の拡充

このような改正も踏まえた最新の情報については、次章以降で詳しく解説します。

対象者と提出が必要となる条件と財産債務調書の提出義務

対象者と提出が必要となる条件と財産債務調書の提出義務

2022年(令和4年)の改正で、財産債務調書の提出義務者が拡充されました。
以下の条件は、2023年(令和5年)以降の調書に適用されます。

財産債務調書の提出義務者

財産債務調書を作成し、提出する義務を負う人は次の通りです。

●1.その年の12月31日時点で下記2つの条件を満たす人
・退職所得を除く各所得金額合計額が2000万円以上
・合計額3億円以上の財産、または合計額1億円以上の国外転出特例対象財産を保有

従来は、上記の人のみが対象者でしたが、改正によって次の条件が追加されました。

●2.その年の12月31日時点で、合計額10億円以上の財産を保有する人

この改正により、より高額な財産を有する人は、所得金額にかかわらず提出義務を負うこととなったのです。

国外転出特例対象財産とは

国外転出特例対象財産は、日本から海外へ移住する際に特別な税の扱いを受ける財産で、主に有価証券や未決済の信用取引などを指します。
これは、国内で得た資産が無申告で国外へ移転されることを防ぐためのルールです。

各種所得金額を合計する際の注意点

この場合の所得とは、給与所得や事業所得、不動産所得などすべての所得合計額をいいます。
ただし、次のような申告分離課税の所得がある場合には、控除適用後に加算する点に注意が必要です。

●各種所得から差し引く特別控除
①純損失や雑損失の繰越控除
②居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除
③特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除
④上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
⑤特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除
⑥先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除

財産債務調書における財産の評価方法 ケース別に具体例をご紹介

財産債務調書における財産の評価方法 ケース別に具体例をご紹介

財産債務調書に記載する資産は、原則として「時価」で評価されます。
時価とは、課税時期(その年の12月31日時点)の市場価格を指し、「自由に売買した場合に成立する一般的な価格」です。
ただし、時価の算定が難しい場合は、合理的な見積価格で代替することが認められています。

時価を求める主な評価方法

代表的な資産における具体的な評価方法は以下の通りです。

金融資産の評価方法

預貯金や有価証券などの金融資産は、次の方法で評価をおこないます。

●預貯金
・普通預貯金:預入残高
・定期預貯金:預入残高+既経過利子額-源泉徴収税

●有価証券
・上場株式:売買実例価格(基準日の終値)

不動産の評価方法

不動産を評価する場合、土地は原則として「宅地、田、畑、山林」などの地目ごとに算定します。
基本的には固定資産税評価額で良いですが、時価や下記の相続税評価額で記載してもかまいません。

●宅地(自用地)
・路線価方式:路線価×補正率×面積
・倍率方式:固定資産税評価額×倍率

●宅地(自用地以外)
・貸宅地:自用地の評価額×(1-借地権割合)
・貸家建付地:自用地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

●農地・山林
・純農地、中間農地:倍率方式
・市街地農地:宅地比準方式(宅地価額 -宅地造成費)×地積、または倍率方式
・市街地周辺農地:市街地農地価格×80%

●建物
・家屋:固定資産税評価額×1.0
・貸付用家屋:固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)

負債の評価方法

財産の評価にあたっては、負債も含めて計算する必要があります。

・住宅ローンや借入金など:基準日の残高
・未払金・補償金など:発生額

調書の提出義務が発生する具体的なケースとは

では、調書を提出する義務が発生するケースにはどのようなものがあるのでしょうか。
いくつか例を挙げて提示します。

資産合計額が3億円を超えるケース

・年収:2100万円
・金融資産:2億円(株式・預貯金)/不動産:1億5000万円(自宅・賃貸物件)/合計財産:3億5000万円

所得が2000万円超、かつ財産が3億円以上あるため、財産債務調書の提出義務があります。

国外転出するケース

・年収:3000万円
・金融資産:1億5000万円(株式・投資信託)
・海外移住予定

国外転出時に1億円以上の対象資産を持っているため、提出義務の対象者です。

高額資産があるケース

・年収:1500万円
・金融資産:5億円/不動産:6億円/合計財産:11億円

10億円以上の財産を持つため、所得額に関係なく提出義務があります。

不動産売買の損失があるケース

・年収:2500万円
・不動産資産:3億円/不動産の売却損失:▲5000万円

年収と保有資産額は、提出義務の条件を満たしています。
しかし、不動産売却による損失があり、損益通算をおこなうと所得が2000万円以下になるため、提出義務はありません。

不動産ローンがあるケース

・年収:2200万円
・不動産資産:5億円/ローン残額:3億円

株式や不動産の損失と異なり、借金は財産の価額から差し引くことができない点に注意が必要です。
そのため、不動産資産の価額に変動はなく、年収も財産高も基準を超えているため、提出の義務が生じます。

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財産債務調書の作成方法 対象となる財産・債務と記載内容を解説

財産債務調書の作成方法 対象となる財産・債務と記載内容を解説

財産債務調書には、氏名・住所(または居所等)およびマイナンバー(個人番号)のほか、財産と債務を詳細に記載する必要があります。
財産・債務の種類、記載事項は以下の通りです。

財産債務調書への記載事項

財産債務調書では、財産の用途(一般用・事業用)、種類別の区分、所在地ごとに記載します。

財産債務調書の記載方法について

「財産債務の区分」で用いる財産債務の記載区分は、以下の通りです。

●財産の分類
【不動産】①土地、②建物、③山林
【金融資産】④現金、⑤預貯金
【有価証券】⑥上場株式、⑦非上場株式、⑧株式以外の有価証券
【その他金融資産】⑨特定有価証券、⑩匿名組合契約の出資の持分、⑪未決済信用取引等に係る権利、⑫未決済デリバティブ取引にかかる権利、⑬貸付金、⑭未収入金
【動産】⑮書画骨とう美術工芸品、⑯貴金属類、⑰(④⑮⑯以外の)動産
【その他の財産】⑱保険の契約に関する権利、⑲株式に関する権利、⑳預託金等、㉑組合等に対する出資、㉒信託に関する権利、㉓無体財産権、㉔暗号資産、㉕その他の財産
【国外財産】㉖国外財産㉘国外転出特例対象財産(㉗㉙は各合計額等)

●債務の区分
㉚借入金、㉛未払金、㉜その他の債務(㉝債務金額の合計額)

財産債務調書の記載簡略化について

2022年(令和4年)の税制改正により、記載を簡略化できる範囲が拡大されました。
2023年(令和5年)以降は、特定の財産・負債について以下の通りに省略できます。

●所在別に区分することなく、件数・総額で記載可能な財産
12月31日における価額が300万円未満の下記財産
・用途不問の借入金、未払金(支払手形を含む)、その他の債務
・事業用の未収入金(受取手形を含む)]

●記載を省略できる財産
・取得価額が300万円未満の家庭用動産(現金、書画骨とう、美術工芸品、貴金属類を除く)

●記載の一部を省略できる財産
・12月31日おける預入高が50万円未満の預貯金は、預入高の記載を省略可能

●資産ごとに区分せず、総額で記載できる財産
・確定申告書に添付する青色申告決算書または収支内訳書の「減価償却費の計算」欄に記載された減価償却資産

財産債務調書作成時の注意点

財産債務調書の作成にあたり、別途「財産債務調書合計表」の作成も必要です。
財産債務調書合計表では、財産区分ごとに合計額を記載します。
また、有価証券等については、提出時点の時価とあわせて取得価額も明記する点に注意が必要です。

財産債務調書の提出期限と提出方法 税務署への手続きの流れ

財産債務調書の提出期限と提出方法 税務署への手続きの流れ

財産債務調書様式は、国税庁のホームページからダウンロードできます。
また、「e-Taxソフト」や「確定申告コーナー」を通じて作成すると、そのままオンライン上で提出することも可能です。
それぞれの環境に応じた作成方法を選択すると良いでしょう。

財産債務調書の提出期限

2022年(令和4年)の税制改正により、財産債務調書の提出期限は従来よりも後倒しされました。
[改正前]基準日(12月31日)の翌年の3月15日
[改正後]基準日の翌年の6月30日
この提出期限は、2023年(令和5年)分以後の調書に適用されます。

財産債務調書の提出先

財産債務調書の提出先は、所得税の納税地を所轄とする税務署です。

財産債務調書の作成から提出までの流れ

財産債務調書の作成では、財産の評価に最も時間を要します。
そのため、まずは財産をしっかり調査しましょう。

評価完了後は、漏れやミスのないよう記入していくだけです。
記載内容に不安がある場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

提出方法は、パソコンで作成した資料を印刷して持参または郵送する方法が一般的です。
電子申告(e-Tax)を利用すると、オンライン上で手続きが完結するうえ、夜間や休日でも利用できるという利点があります。
ただし、事前にソフトをダウンロードしたり、利用者識別番号を取得したりと、特別な準備が必要なことを覚えておきましょう。
提出期限内に間に合わせるよう、早めの対策が重要です。

財産債務調書を提出した場合の優遇措置と未提出時のペナルティ

財産債務調書を提出した場合の優遇措置と未提出時のペナルティ

財産債務調書制度では、提出した場合の優遇措置と提出しない場合のペナルティが用意されています。
これは、適正な提出を促すインセンティブとして設けられており、具体的には以下の通りです。

過少申告加算税・無申告課税の特例

財産債務調書には確定申告に関する特例があります。
ひとつは過少申告、もうひとつは申告忘れのケースです。

例えば、申告内容が不足していて申告税額が少ない場合、過少申告加算税として通常の税率に10%が加算されます。
そして、期限内に確定申告をしなかった場合、無申告課税として通常の税率に10~15%加算されるのが一般的です。

●財産債務調書を提出した場合の優遇措置
正しい内容の財産債務調書を期限内に提出している場合、もし過少申告や申告忘れが生じても、それぞれの税率が5ポイント軽減されます。

・過少申告課税:10%→5%
・無申告課税:15%→10%

なお、意図的な隠蔽や虚偽の報告が確認された場合はより厳しい重加算税(35~40%)が適用されますが、その場合は財産債務調書の優遇措置が受けられません。

●財産債務調書が未提出の場合のペナルティ
財産債務調書を提出していない状態で過少申告や申告忘れが生じた場合、それぞれの税率に加重措置が加えられて税率が5ポイント引き上げられます。

・過少申告課税:10%→15%
・無申告課税:10~15%→15~20%

財産債務調書に関する関連法令と作成時の注意点を解説

財産債務調書に関する関連法令と作成時の注意点を解説

財産債務調書の対象者にとって、調書の提出は義務です。
これは、所得税法によって規定されています。
財産債務調書にはさまざまな関連法令が関わっているため、適切に対応することが大切です。

●財産債務調書作成時の注意点
財産債務調書は、単なる報告書ではなく納税額や将来の相続にも関わってきます。

財産債務調書の作成には、幅広い知識と正確な評価が求められます。
特に国外財産、仮想通貨などは、評価が難しく、より高度な専門知識が必要です。
会計専門の税理士は法人決算や事業会計に強みがありますが、相続・贈与にかかる税務に特化していない場合があります。

一方、相続専門の税理士は、財産債務調書の作成経験が豊富で、税務調査リスクを抑える方法にも詳しいでしょう。
将来の相続や節税の対策を視野に入れる場合も、相続税務に強い税理士を選ぶと安心です。

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財産債務調書のことでお悩みなら専門家へのご相談をおすすめします

記載ミスや提出漏れがあると税務調査の対象となるリスクが高まります。
専門知識を適材適所に使い分けることで、適正な税務申告を助け、財産保全にも役立つでしょう。

財産評価に強い事務所を探す際は、それぞれの税理士法人が運営するサイトを閲覧する方法が簡単です。
成功実績や過去事例などの一覧から財産債務調査書に関連するカテゴリーを探して、掲載されている記事を参考に検討しましょう。
自分の悩みと近い事例を扱ったことがある税理士を見つけたら、初回相談が無料になるサービスなどを活用した情報収集をおすすめします。

寺西 雅行

この記事を監修した専門家

寺西 雅行

税理士法人プラス 代表税理士
(株)相続ステーション 代表取締役
行政書士法人サポートプラス 代表行政書士

1962年生 同志社大学卒業。学生時代から25才までの間の3度の相続で自身が相続納税や借地人・借家人・農地小作人との折衝に苦労した経験から、不動産に詳しい相続専門税理士の必要性を痛感。
税理士、行政書士、ファイナンシャルプランナー、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、ライフコンサルタント(生命保険)、証券外務員資格、M&Aスペシャリストの8種類の資格を有する相続・遺言・後見・不動産など財産に関する総合エキスパートとなる。
弁護士・会計士・税理士からの業務依頼や銀行からの相談、TVメディアからの解説依頼多数。

著書『相続専門の税理士だから言えるリスク回避の処方箋』
『相続トラブルSOS~専門の税理士がやさしく解説~』
『相続119番~誰にも聞けなかった相続の悩みを一挙に解決!』

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