民法改正とは?改正の内容を解説
民法改正とは?
民法は、1896年(明治29年)に制定されて以来、大きな改正はほとんど行われてきませんでした。
もちろん、これまでも時代に合わせて細かな改正や制度の創設は行われてきましたが、抜本的な見直しに着手されるようになったのは2010年代以降のことではないでしょうか。
債権関係の規定など特定のカテゴリにおいては、実に120年ぶりの改正です。
2018年(平成30年)に「民法の一部を改正する法律」が成立し、2020年(令和2年)4月より改正法が順次施行されています。
改正内容を紹介する前に、まずは民法とは何を定める法律なのかを確認しておきましょう。
民法は日常生活におけるルールを定めた法律
法律は、まず「公法」と「私法」に大別されます。
●公法
公法とは、国家と国民との関係を規律づける法律です。
主に国や地方自治体、公共機関などの基礎を固め、「支配・服従」を指導原理に公益の実現を目指します。
憲法や行政法、刑法、訴訟法、個人情報保護法などのほか、相続税法を含む各種租税法も公法の1つです。
●私法
私法とは、個人や団体など「私人」の相互関係に適用される法律で、「自由・平等」を基盤に規律づけられています。
私益の保護や調整を目的とした規律が多く、民法のほか会社法や商法なども私法の1つです。
民法
民法は、私法の一般法と呼ばれており、個人や団体などの私人が日本の社会で日常生活を送るうえで必要なルールを規定しています。
内容は多岐にわたり、条文数は全部で1050と膨大です。
大きく、次の5編に分かれています。
第一編 総則:基本原則や解釈基準、根本的な権利について
第二編 物権:占有権や所有権をはじめとする「物に対する10つの権利」について
第三編 債権:債務に関する規定のほか、贈与や売買、貸借といった契約について
第四編 親族:親子関係や婚姻・離婚、親権、後見人や補佐人について
第五編 相続:相続についてのさまざまな規定、遺言書や遺留分について
相続にかかる項目は「相続」だけではない
第五編の相続について定められた規定は、もちろん相続問題に直結するものです。
しかし、相続における実務的な場面では、親族関係のルールを確認することが多々あります。
また、被相続人の財産を確定する際には、物権や債権に関連したルールが必要なことも多いでしょう。
相続には、私法公法の区別なくさまざまな法律が絡んでくるため、専門知識を持ったプロのサポートが推奨されるというわけです。
近年、改正された内容
ここでは、2020年(令和2年)4月1日以降に施行された改正民法のうち、相続に関わりのあるものをピックアップして紹介します。
すべての改正に興味があるという方は、法務省などの新旧対照条文一覧や法令の新旧比較表などをご覧ください。
●2020年(令和2年)施行
施行日 | 分類 | 概要 |
4月1日 | ・配偶者居住権(1028) ・配偶者短期居住権(1037) | 自宅不動産における配偶者の居住権にかかる権利 |
・遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し | 自筆証書遺言の方式緩和のほか、権利の承継、義務の承継に関して時代に合わない部分の削除や補足 | |
・自筆証書遺言の保管制度 | 法務局による自筆証書遺言書保管制度の創設 |
この年は、相続に直接関係のある法改正が多くありました。
配偶者居住権・配偶者短期居住権は、所有権と居住権を分けて考えるという画期的な改正です。
また、自筆証書遺言の方式緩和や保管制度の新設により、自筆証書遺言を作成しやすくなったという点は相続問題のリスク回避に役立つでしょう。
●2022年(令和4年)施行
施行日 | 分類 | 概要 |
4月1日 | ・成年(4) | 成年年齢を20歳から18歳に引き下げる |
成年年齢の引き下げは、相続のみならずさまざまな分野に大きな影響を与えました。
特に、契約に代表される法律行為を18歳から行えることになり、親権者や未成年後見人といった法定代理人の管理下から外れることの影響が大きいでしょう。
●2023年(令和5年)施行
施行日 | 分類 | 概要 |
4月1日 | ・期間経過後の遺産の分割における相続分(904の3) | 相続開始から10年経過すると、遺産分割協議書による遺産分割ができなくなる |
・所在等不明共有者の持分の取得(262の2) | 共有不動産において所在不明者がいる場合、その持分を他の共有者が取得できる | |
・所有者不明土地管理命令(264の2) | 所有者不明土地の管理を所有者不明土地管理人に命じることができる | |
・管理不全土地管理命令(264の9) | 所有者の管理が不適正であることから第三者に被害を与える場合、適正管理を命じることができる | |
4月27日 | ・相続土地国庫帰属法 | 相続した不動産を国に引き取ってもらう制度の創設 |
相続に間接的に関わる法改正として、土地の権利に関する見直しが多くありました。
これは、所有者不明土地問題の解決に向けた大規模化改正のほんの一部です。
2024年(令和6年)4月1日は、不動産登記法の改正により「不動産登記の義務化」が始まります。
これらの法改正が不動産相続に与える影響については後述しますが、相続財産に不動産が含まれるという方は必要な手続や処理が増える点に注意が必要です。
相続関連の民法改正について解説
「民法等の一部を改正する法律」および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」は、2023(令和3年)年4月21日に成立し、同月28日に公布されました。
この法律は、所有者不明土地等の発生予防と利用の円滑化を図ることを目的としています。
所有者不明土地の多くは相続登記未了不動産
所有者不明土地の定義は次の通りです。
①不動産登記簿を見ても、所有者がすぐに判明しない土地
②所有者が判明しても、その所在が不明で連絡がつかない土地
所有者不明土地が発生する主な原因は、相続登記の未了、次いで住所変更登記の未了とされています。
相続登記とは、相続によって建物や土地などを取得した相続人が行う名義変更手続です。
しかし、これまでは任意とされていたため、登記申請を行わないケースが少なくありませんでした。
申請に必要な資料が多く、不動産価値に対応した登録免許税の納付など、当事者の負担が大きかったことも敬遠されやすい理由の1つでしょう。
つまり、名義人の情報が適切に更新されていないため、登記簿における所有者名簿としての機能が無効化されてしまっているというわけです。
所有者不明土地の問題
所有者不明土地は、多くが適正な管理が行われていません。
そのため、衛生環境の悪化や治安悪化など周辺環境への悪影響、放置された建物の倒壊や植栽の侵出などによる損害などが発生するおそれがあります。
また、公共事業や復旧・復興事業が阻害されることもあるでしょう。
登記簿名義人の相続権利者を辿れば所有者が見つかりそうに思えますが、実は一筋縄ではいかないことが多いのです。
相続登記未了が続くと権利者が膨れ上がる
相続登記未了の不動産は、登記簿上の名義人に対する法定相続人の共有財産として扱われます。
法定相続人とは民法によって定められた相続人のことで、一定のルールに則っているため個々の事情で変動することがありません。
しかし、一般に相続登記未了期間が長ければ長いほど、相続権利者は増えていきます。
例えば、被相続人(故人)に配偶者と3人子どもがいるケースの法定相続人は4人です。
次代の相続では4人それぞれの配偶者や子どもなどが法定相続人なるため、相続権利者はねずみ算式に増加していくでしょう。
権利者が多くなりすぎると、法定相続人の把握に必要な戸籍や住民票の収集に手間とお金がかかります。
また、実際に連絡を取ったり訪問したりする負担も大きく、土地の管理や処分に必要な合意形成も困難です。
公共事業の事例では、国道整備に必要な数メートル分の土地所有者を探索するために2年以上の月日を費やしたというケースもあります。
国として、これ以上見逃せない問題解決に向けて、民法改正に踏み切ったということでしょう。
土地・建物等における利用の円滑化を目指す民法の見直し
2023年(令和5年)4月1日、所有者不明土地における利用の円滑化を推進する内容が盛り込まれた改正民法が施行されました。
1つずつ内容を解説します。
所有者不明土地等を利用しやすくするための方策
権利問題が複雑化する共有財産を扱いやすくするための改正は、下記の3つです。
●所在等不明共有者の持分の取得(262の2)
共有不動産における共有者のうち所在不明の共有者がいる場合は、該当者の持分を他の共有者の同意によって処分や管理を行える制度が創設されました。
裁判所の関与の下で行うことが条件ですが、不明共有者がいても共有物の利用・処分を円滑に進めることが可能になります。
●所有者不明土地管理命令(264の2)
所有者(あるいは共有者のうち1人以上)の所在がわからない場合、裁判所が管理命令を発令し、所有者不明土地管理人を選定することができるという制度です。
所有者不明不動産の管理における合理化と業務効率の向上が期待されます。
●管理不全土地管理命令(264の9)
この制度によって、土地の所有者が適正に管理を行っていないことによって第三者の権利や利益が侵害されるおそれがある場合は、管理人の選任ができるようになりました。
管理不全化した土地や建物の適切な管理までの道筋を効率化することが可能です。
長期間経過後の遺産分割における見直し
故人の所有財産はすべて遺産となり、法定相続人が相続することになります。
相続する際の遺産分割方法は次の3つです。
①被相続人が生前に作成した遺言書による指定に従う方法
②民法によって定められた相続人ごとの相続割合である法定相続分に従う方法
③遺産分割協議によって決める方法
遺産分割協議とは、法定相続人全員で「誰が何をどのくらい取得するか」を相談して決める方法です。
相続人すべての合意を得た場合は、法定相続分によらず自由な配分で遺産を分割できることになります。
これまでは、協議期間について特別な定めはありませんでしたが、今回の改正で期限が新設されました。
●期間経過後の遺産の分割における相続分(904の3)
相続開始から10年以上経過した時は、遺産分割協議による遺産分割ができなくなります。
2024年(令和6年)4月1日施行 相続登記の義務化
所有者不明土地の発生に直結する相続登記未了を防ぐため、不動産登記法の改正も行われました。
相続登記の義務化では、これまで設定されていなかった登記期限や罰則も新設されています。
●相続登記期間は3年間
登録期限は、原則として相続によって不動産を取得したことを知った日の翌日から3年後です。
●登記を怠ると10万円の過料
正当な理由なく期間内の登記を怠った場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
●過去の相続不動産も義務化の対象
義務化施行以前に相続した不動産についても、義務化の対象となる点に注意が必要です。
過去の相続分については、次のいずれか遅い日を期限とします。
①不動産相続を知った日の翌日から3年後
②義務化施行日より3年後(2027年(令和9年)3月31日)
速やかな相続登記が必要不可欠
今回の改正では、所有者不明土地の発生防止について、国が多方面から対策を講じ始めたことがよくわかります。
義務化以前に相続した不動産がある場合は、速やかに相続登記を行いましょう。
現時点で今後の相続で不動産を取得する可能性がある方も、早めに準備しておくことをおすすめします。
民法改正が相続税に与えた影響の手引き
ここでは、相続税の算定に影響を与えた民法改正について説明します。
配偶者居住権・配偶者短期居住権による影響
自宅不動産の所有者が亡くなった場合、自宅の土地や建物は遺産として相続の対象となります。
配偶者が存命の場合は、その自宅に暮らし続けることを望む人が多いのではないでしょうか。
しかし、不動産は価値の高い財産です。
相続人が配偶者以外にもいる場合、配偶者が不動産を取得するのなら、その他の財産は子どもなど別の相続人が取得することになるでしょう。
そうなると、配偶者には「住まい」があっても「老後の生活資金」に不安が生じるということになりかねません。
配偶者居住権とは、遺産分割の結果に関わらず、配偶者が自宅に住み続けられるという権利です。
相続財産の内容や相続人の構成にもよりますが、遺産分割バランスの調整が可能になり、相続税の節約につながるケースもあります。
また、配偶者は住まいと生活資金の両方を取得でき安定を得ることができるでしょう。
ただし、配偶者居住権の設定には被相続人による遺言書、あるいは相続人全員の合意、それから所有者移転のための相続登記が必要です。
配偶者を残すことが不安だという場合は、遺言書を作成して配偶者居住権について明記しておくことが有効な生前対策となります。
成年年齢の引き下げによる影響
成年年齢の引き下げは、これまで20歳を成人としていた規定を18歳に変更するという改定です。
これによって、相続税計算に関連する次のような影響が考えられます。
未成年控除
未成年控除は、相続人が未成年の場合に相続税の額から一定額を控除するという制度です。
その控除額を算出するためには、次の式を用います。
●未成年控除額の計算式
未成年控除額=(18歳-相続人の年齢)×10万円
例えば、相続人が15歳の場合、「(18歳-15歳)×10万円」で30万円の控除となりますが、改正前ならば「(20歳-15歳)×10万円」で50万円だったでしょう。
未成年後見人選任
相続は法律行為のため、相続人に未成年者が含まれている場合、法定代理人を立てる必要があります。
通常は、親権者が法定代理人となりますが、その親権者が死亡した場合などは家庭裁判所に未成年後見人の選任を申し立てなくてはなりません。
未成年後見の申立てにも費用がかかり、後見人に対しても報酬を支払う必要があります。
成年年齢の引き下げで、後見人を立てる必要がなくなったというケースもあるでしょう。
相続に関する民法改正について、お気軽にお問い合わせください
民法の改正によって、相続に関わることもいくつか変更されることとなりました。
直接影響を受ける改正もあれば、回り回って影響を受けるという改正もあります。
また、相続の内容によっても、どのような影響があるかは異なるでしょう。
自分の相続において、民法改正がどのように影響してくるのか不安な場合は、どうぞ遠慮なくお尋ねください。
法律に関わることは、専門知識を持つプロに依頼するのが一番です。
相続問題に強い税理士ならば、法律の解説はもちろん、適切な節税対策についてもお話しできます。
初回相談無料サービスやオンライン相談などを活用して、ぜひ気軽に連絡してみてはいかがでしょうか。