遺産相続の順位は決まっている?法定相続人の範囲や優先順位について

遺産を相続する権利を持つ人のことを、「法定相続人」といいます。
法定相続人には優先順位があり、亡くなった人の家族構成などによって誰が法定相続人になるのかは異なります。
ただし、遺言書がある場合は、法定相続人以外の人に財産を相続させることも可能です。
この記事では、法定相続人の範囲や優先順位、相続できる配分、また遺言書の効力についても詳しく解説します。

誰が相続人になるのか?遺産相続の順位は民法で決まっている?

誰が相続人になるのか?遺産相続の順位は民法で決まっている?

遺産相続では、亡くなった人のことを「被相続人」、財産を受け継ぐ人のことを「相続人」といいます。
相続人が「法定相続人」とも呼ばれている理由は、その範囲や順位が法律(民法)によって定められているからです。

被相続人の親族や血族のうち誰が法定相続人に該当するのかは、すべての家庭で同じというわけではなく、被相続人が亡くなった時点の家族構成によって異なります。
まずは、法定相続人の条件をしっかりと理解しておくことが大切です。

法定相続人の範囲と優先順位について

法定相続人の範囲と優先順位について

法定相続人の範囲と順位、条件を紹介します。

法定相続人の具体的な該当者を確認するためには、被相続人の生まれてから死亡するまでの全期間の戸籍謄本が必要です。
思わぬところに法定相続人の該当者がいた場合、相続割合に大きな影響を与える可能性もあるため、必ずしっかりと調べておきましょう。

配偶者は「常に」法定相続人

被相続人の配偶者(夫・妻)は、常に法定相続人です。
ただし、正式な婚姻関係にあることが条件なため、次のようなケースには注意しましょう。

●内縁関係や事実婚パートナー
内縁の妻や事実婚のパートナーなどは、法律上の夫婦関係が認められないため、法定相続人にはなれません。

●別居中でも籍が入っている相手
逆に、事実上の婚姻関係が破綻していても、正式な離婚をするまでは婚姻が成立しているとみなされ、法定相続人となります。

被相続人の子供は、優先的に法定相続人【第1順位】

配偶者以外の相続人については優先順位が決められており、第1順位は被相続人の子供です。
配偶者がいる場合は配偶者と共に、配偶者がいない場合は子供だけが法定相続人となります。
ただし、たとえ人数が少ない場合でも、異なる順位の人が同時に法定相続人になることはありません。

●入籍していないパートナーとの間の子供
非嫡出子の場合、以下の条件を満たすことで法定相続人の資格を得ることができます。
被相続人が父親のケースでは認知をしていることで親子関係が生じ、被相続人が母親のケースでは分娩の事実によって子供と認められ、相続権が発生するというわけです。

●配偶者の連れ子
配偶者の連れ子は、被相続人との養子縁組によって親子関係が生じます。
養親と養子という関係になっていない場合は、同居や生活を共にしていたりしても法定相続人にはなれません。

●代襲相続
法定相続人である子供がすでに亡くなっている場合は、その子供の直系卑属(被相続人にとって孫やひ孫)が代襲して法定相続人になります。

子供がいない場合は、父母が法定相続人【第2順位】

代襲者を含めて第1順位の該当者が誰もいない場合は、第2順位である父母が法定相続人となります。
この場合の父母は、被相続人にとっての直系尊属となり配偶者の父母は含まれません。

また、父母の両方が亡くなっている場合は、さらに上の代の直系尊属(祖父母、曾祖父母)へと相続権が移ります。
注意すべき点は、父母のどちらかが生存している場合は、上の世代には移らないということです。

直系卑属も直系尊属もいない場合は、兄弟姉妹【第3順位】

第1順位の該当者も、第2順位の該当者も、どちらもいない場合の法定相続人は、被相続人の兄弟姉妹です。

●代襲相続
相続開始時に亡くなっている兄弟や姉妹がいた場合は、その子供(被相続人にとって甥姪)が代襲します。
ただし、この代襲は1代限りで、甥姪よりも下の世代は法定相続人になりません。

民法によって定められた相続割合「法定相続分」

民法では、法定相続人がどのくらい遺産を受け取るかという相続割合も決められています。
これを法定相続分といい、法定相続人の組み合わせによる相続割合は下記のとおりです。

●配偶者と子供
配偶者2分の1:子供2分の1

子供が複数の場合は、「2分の1」をさらに均等に分けます。
例えば、子供が2人ならば「2分の1÷2人=4分の1ずつ」、子供が3人ならば「2分の1÷3人=6分の1ずつ」ということです。

●配偶者と父母
配偶者3分の1:父母3分の1

父と母の両方が生存している場合は、「3分の1÷2人=6分の1ずつ」ということになります。

●配偶者と兄弟姉妹
配偶者4分の3:兄弟姉妹4分の1

子供や父母のケースと同じく、兄弟姉妹が複数いる場合は4分の1を均等に分けます。

ただし、法定相続分は必ずしも採用する必要はなく、法定相続人全員の合意があればどのように分割してもかまいません。

遺言書の効力について詳しく解説

遺言書の効力について詳しく解説

遺言書は、遺言者が自分の財産を自分の思うとおりに相続させたいというときに作成するものです。
遺言書がない相続では、遺産分割について法定相続人同士の協議や判断に委ねられていますが、遺言書がある場合は、原則として遺言書に記載された被相続人の意思に従います。

遺言書で指定できる事柄を1つずつ説明していきましょう。

遺言書で相続させる人を指定する

本来の法定相続人とは別の人を相続人として指定することや、条件を満たす人を法定相続人から外したり加えたりすること、また、「誰に、何を、どのくらい」相続させるのかなどを指定することが可能です。

●遺産分割方法の指定
「自宅家屋は長子に、有価証券は末子に」など、どの財産を誰に相続させるかなど遺産を渡す相手や寄付する先を具体的に指定することが可能です。

●相続分
法定相続分によらない任意の相続割合を指定することもできます。

●認知
生前、認知をしていなかった実子について遺言で認知して、法定相続人に加え相続権を与えることができるというわけです。

●後見人の指定
残された子が未成年者で、被相続人が亡くなった場合に親権者がいなくなるといったケースでは、遺言書によって未成年者の後見人を指定することができます。

●相続人の廃除
法定相続人のうち、被相続人に対して虐待や侮辱を加えていた人、あるいは著しい非行があった人の相続権を剥奪することも可能です。
生前に同様の剥奪を行う場合は家庭裁判所に請求する必要がありますが、遺言ならば家庭裁判所を経由する必要がありません。

●遺言執行者の指定
被相続人の代わりとして、被相続人の遺言どおりに遺産分割や相続登記などの手続きを進める人のことを遺言執行者といいます。
遺言執行者を誰にするのか、法定相続人の中から、あるいは第三者を指定することが可能です。

●遺産分割の禁止
被相続人の死後のトラブルを回避するために、遺言書では亡くなってから5年以内であれば「遺産分割を禁止する」こともできます。

遺言書の内容が最優先

もし、遺言書がないものとして相続を進めていても、後から遺言書が発見された場合は遺言書の指示が優先されます。
状況によっては各種手続きを変更したり、相続に関連する流れをやり直したりしなくてはならないこともあるでしょう。
そのため、相続が起こったときは、何よりも先に遺言書を徹底して探すことが大切です。

ただし、遺言書にも民法によって定められた方式があり、効力を発揮させるためには条件を満たしていなければなりません。

主な遺言書の方式は以下の2つです。

自筆証書遺言

遺言者が、その全文、日付、氏名を自書で書面に記し、印鑑を押したものを自筆証書遺言といいます。
自筆証書遺言は誰もが思い立ったときに作成できますが、方式に不備があって無効になったり保管場所がどこかわからなかったりすることもあるので注意が必要です。

●遺言書の検認
自筆証書遺言を発見した場合の注意点は、封のある遺言書は未開封のまま家庭裁判所に提出し検認を受ける必要があることです。
検認とは、家庭裁判所において法定相続人立会いのもとで遺言書内容を確認する手続きになります。
遺言の執行には検認済証明書が必要なため、速やかに検認申請を行いましょう。

●法務省の自筆証書遺言書保管制度
法務局では、2020年(令和2年)に自筆証書遺言書保管制度が開始されました。
この制度では、次のようなメリットが期待できます。

・方式に適合することの確認と本人自ら保管申請する為、遺言書が無効になるリスクが低い
・原本およびデータで保管されるため、遺言書の紛失や隠匿、改ざん等を防ぐことができる
・被相続人が亡くなった際に法定相続人に通知が届くため、遺言書を探す手間を省くことができる
・検認不要で速やかに遺産分割の流れへと進むことができる

公正証書遺言書

公正証書遺言は、証人2人と公証人の前で遺言者が遺言内容を口頭で告げ、それを公証人が筆記するという方式が建前ですが、実務では書面などによる打合せで事前準備をしておいて、遺言者は氏名を自署・実印押印だけにしておきます。又、公証人の出張も依頼できることから、加齢による体力低下や病気やケガ等で自書が困難な場合でも遺言書の作成が可能です。
また、法律家である公証人が整えながら作成するため、方式の不備で遺言が無効になることがありません。

●遺言書原本の保管、遺言登録・検索システム
公正証書遺言の原本は公証役場に保管されるため、遺言書の隠匿や破棄、改ざんのおそれがなく、検認も不要です。
また、1989年(平成元年)以降に作成された公正証書遺言は、遺言登録・検索システムで管理されており、遺言書の有無を検索することもできます。

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遺産相続させる人は選べる?

遺産相続させる人は選べる?

前項で案内したとおり、遺言書に記すことで、法定相続人に限らずに遺産を渡す人を指定できます。
ただし、遺留分については注意が必要です。

遺留分は法定相続人の権利

遺留分とは、民法で保障された「法定相続人の最低限度の取り分」のことです。
被相続人は自分の財産を生前贈与や遺言で自由に処分できますが、遺留分制度によって一定の制限があります。
とはいっても、遺留分侵害に該当する生前贈与や遺贈が無効になるわけではなく、遺留分の侵害を受けた法定相続人が侵害額相当の現金支払いを請求できるということです。

●遺産総額に対する遺留分割合
相続財産全体の遺留分割合は、法定相続人が父母など直系尊属だけの場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1となります。
兄弟姉妹には遺留分の保障がないことを理解しておきましょう。

●法定相続人ごとの遺留分割合
法定相続人ごとの遺留分は「遺留分割合×法定相続分」で計算できます。

例えば、法定相続人が配偶者と子供のケースでは、それぞれの遺留分は「遺留分割合2分の1×法定相続分2分の1=4分の1」で、子供が複数の場合はさらに均等に分けるというわけです。

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知っておきたい!遺産の相続人によって節税ができる?

知っておきたい!遺産の相続人によって節税ができる?

相続税の計算では、いくつかの控除や特例といった減税制度が用意されており、特定の法定相続人が相続することで適用要件を満たすものもあります。
誰が何を相続するかによって税額に大きな違いが生じることがあるため、慎重に検討することが大切です。

代表的な制度を見ていきましょう。

配偶者控除

残された家族の生活を守るために、被相続人の配偶者には大きな税額軽減制度が設けられています。
配偶者が実際に取得した遺産額に対して次のどちらか高い金額までは、相続税がかかりません。

・1億6000万円
・配偶者の法定相続分相当額

未成年者控除

法定相続人に未成年者がいる場合は、実際の相続税額から「成人するまでの年数×10万円」が控除されます。
このとき、1歳に満たない月数は切り捨てで計算するため、14歳9ヵ月の未成年者に対する控除額は「(18歳-14歳)×10万円=40万円」です。

実際の税額よりも控除額のほうが大きい場合、引き切れなかった額は未成年者を扶養する人の税額から控除します。

障害者控除

障害者控除は、法定相続人に障害者がいる場合は「85歳までの年数×10万円」、特別障害者がいる場合は「85歳までの年数×20万円」を実際の相続税額から控除するという制度です。
このとき1歳に満たない月数は切り捨てて計算し、税額を上回る控除額については障害者を扶養する人の税額から控除します。

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、被相続人の自宅を配偶者が相続するなど「特定の宅地を特定の法定相続人が取得した場合」に活かされる制度です。
適用要件を満たした土地は、評価額を減額させることができます。
相続財産の課税算入額を下げることで課税対象額が減り、節税につながるというわけです。

対象の土地、法定相続人、減額割合については、おおむね次のようになります。

●特定居住用宅地
適用要件:被相続人の自宅が建つ土地を、配偶者や同居親族が相続した場合
減額割合:80%(330㎡まで)

●特定事業用宅地
適用要件:被相続人が営む事業用の土地を、その事業を継承する親族が相続した場合
減額割合:80%(400㎡まで)

●貸付事業用宅地
適用要件:被相続人がアパート経営や駐車場経営など貸付事業を営んでいる場合、その事業用の土地を事業継承者である親族が相続した場合
減額割合:50%(200㎡まで、但、他の特例との併用は大幅な制限有り)

小規模宅地等の特例が有効となるには、相続後、少なくとも相続税申告期限まではその土地を保有し続けることなど、いくつかの条件があるため、該当ケースをよく確認することが大切です。

みなし相続財産の非課税枠

生命保険や損害保険の死亡保険金、会社から支払われる死亡退職金などは、「みなし相続財産」として相続税の課税対象に含まれます。
それぞれの受取金額には「500万円×法定相続人数」という非課税枠が設けられており、該当金額には相続税がかかりません。

ただし、法定相続人以外の人が受け取った死亡保険金には非課税枠は適用されないため、指定受取人の確認をしておくと安心です。
また、配偶者控除との重複を考慮して、より効果的な受取人を指定すると良いでしょう。

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遺産相続について困ったときは、税理士にお任せ!

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相続は誰にでも起こることですが、何度も経験することではないため不慣れな状態で対応するという人が多いでしょう。
しかし、相続では決して小さくはない額のお金が動くため、不安や疑問が生じた時点で専門家に相談してサポートを依頼することをおすすめします。

なかでも税金を専門としていたり相続問題に関連する実績が多かったりする税理士ならば、それぞれのパターンに応じた対策を案内してくれるでしょう。
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