株の相続にかかる税金はどれくらい?計算方法や節税対策、手続きについて詳しく解説

相続が発生すると、相続人は限られた時間の中で遺産分割を行い、相続税を納める準備をし始めます。
相続財産の金額は時価で計算しますが、もしも遺産の中に上場株式があった場合はどうすればよいのでしょうか。

本記事では、株式を相続した場合に評価額を計算する方法や必要な手続き、節税対策について解説します。

株の相続税の計算方法について、シミュレーション別で解説

株の相続税の計算方法について、シミュレーション別で解説

亡くなった人(被相続人)が保有していた財産は、遺産として、相続人や遺贈を受けた人が取得することになります。
このとき、それぞれが取得する遺産の額に応じてかかる税金が相続税です。

しかし、相続税はすべての相続人が払わなければならない税金ではありません。
まずは、基本的な相続税計算方法について説明しましょう。

基本的な相続税の計算方法

相続税額は、「財産額はいくらなのか」「相続人は何人なのか」という2つの要素によって大きく異なります。
相続が始まったら、速やかに相続人の確認と財産の確認を行うことが大切です。

課税ボーダーラインとなる基礎控除額

相続税は、基礎控除額を上回った部分にしかかかりません。
基礎控除額を算出する計算式は下記の通りです。

基礎控除額:3000万円+600万円×法定相続人数

●法定相続人とは
法定相続人とは民法によって定められた相続人のことで、被相続人の配偶者が優先されます。
被相続人に子どもがいる場合は配偶者と子ども、子どもがいない場合は配偶者と被相続人の父母、子どもも父母もいない場合は配偶者と被相続人の兄弟姉妹が法定相続人です。

●法定相続人の数でボーダーラインが決まる
相続が発生し、相続人が1人でもいれば基礎控除額は3600万円となります。
相続人の数が増えるたびに、ボーダーラインが600万円ずつ上がっていくというわけです。

例えば、法定相続人が2人のケースでは、相続財産のうち4200万円を超える部分にしか相続税がかからないということになります。
遺産総額が1億円ならば「1億円-4200万円=5800万円」が課税対象遺産額です。
遺産総額が4000万円ならば、「4000万円-4200万円=0円」となり、相続税はかかりません。

相続する財産が多いほど相続税率が上がる

遺産総額が基礎控除額を上回る部分は、相続税がかかる「課税対象遺産額」です。
相続税の税率は各相続人が相続する財産総額によって違い、相続財産額が大きいほど相続税率も上がります。

相続税の速算表は以下をご参照ください。

取得金額 税率 控除額
1000万円以下 10%
3000万円以下 15% 50万円
5000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1700万円
3億円以下 45% 2700万円
6億円以下 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円

相続税の計算は複雑です。
例えば、課税対象遺産額6000万円分の遺産を取得したからといって、単純に「6000万円×30%-700万円=1100万円」が相続税額というわけではなく、他にいくつもの手順を必要とします。
ただし、遺産の額が大きければその分相続税が高くなることに変わりはありません。

では、どのような財産が課税対象となるのでしょうか。

相続税がかかる財産の種類とは

相続が発生したら、まずは被相続人の所有財産をすべて調べ、洗い出した所有財産の一覧表を作成するとよいでしょう。

その上で、次の「相続税がかかる財産」「相続税がかからない財産(非課税財産)」「相続税から控除できる財産」という3つのカテゴリに分別します。

相続税がかかる財産 非課税財産 遺産から控除できる財産
・土地や建物などの不動産
・株式や公社債などの有価証券
・預貯金や現金
・書画骨董品、宝石貴金属、その他家財など
・著作権、商標権などの知的財産権
・借地権など
・生命保険の死亡保険金や死亡退職金などのみなし相続財産
・被相続人から取得した相続時精算課税適用財産
・被相続人から、相続開始前3年以内に取得した贈与財産
・生命保険の死亡保険金のうち非課税額(500万円×法定相続人数)
・死亡退職金のうち非課税額(500万円×法定相続人数)
・特定の非営利団体に寄付をした金額 など
・被相続人の葬儀にかかり相続人が負担した葬式費用
・被相続人の借金や未払金などの債務

非課税財産を除いた「相続税がかかる財産」から「相続税から控除できる財産」を差し引いた金額が「遺産総額」です。

このときの金額は、過去の購入価格ではなく相続開始時点の時価で評価をします。
不動産や有価証券など価格が変動する財産は、どのように評価するかが遺産総額にも大きな影響を及ぼすため注意が必要です。

株式の評価方法

株式の評価方法は、上場株式か非上場株式かによって異なります。

上場株式とは証券取引所で公開されている株式で、個人投資家が自由に売買取引を行うことが可能です。

一方、非上場株式は公開されていないため、個人投資家が売買を行うことはできません。 非上場株式(未公開株)は、主に該当株を発行している企業の役員や社員、関連会社などが保有していることが多いでしょう。

上場株式の評価方法

上場株式の評価に用いる計算式は、「1株あたりの価格×保有株数」です。

1株あたりの価格には、次の4つのうち、もっとも低い価格を適用してよいことになっています。

①被相続人が亡くなった日の終値
②被相続人が亡くなった月の「終値平均額」
③被相続人が亡くなった月の「前月の終値平均額」
④被相続人が亡くなった月の「前々月の終値平均額」

株式市場が開いていない土日祝日に被相続人が亡くなった場合は、もっとも近い日の最終価格を採用します。

●株価の入手方法
上場株式の価格はインターネット上にも公開されているため、誰でもすぐに入手することが可能です。
目安として閲覧するのなら、それでもかまいません。
実際に相続に用いる場合は、証券会社に依頼して被相続人が亡くなった日の残高証明書を発行してもらうと安心です。

非上場株式の評価方法

非上場株式については、相続によって取得した株主が「株式発行企業の経営支配力を持っている同族株主」か、それ以外かによって評価方法が違います。

●原則的評価方式
原則的評価方式は、相続によって取得した株主が同族株主だった場合の評価方法です。

株式発行企業を総資産価格、従業員数、取引金額によって「大会社・中会社・小会社」に区分して、さらに次の3つの方法で評価を行います。

大会社 類似業種比準方式 類似業種の株価を基に評価する会社の1株あたりの「配当金額・利益金額・純資産価額(薄価)」の3つで批准して評価します。
類似業種の業種目別株価などは、国税庁ウェブサイトで閲覧可能です。
中会社 類似業種比準方式
純資産価額方式
2つの方式を併用します。
小会社 純資産価額方式 企業の総資産や負債を相続税評価に洗い替え、「総資産価額-(負債+評価差額に対する法人税額)」から評価する方法です。

●配当還元方式
配当還元方式は、同族株主以外が相続によって取得した株主に用います。

配当還元方式 その株式を所有することによって受け取る1年間の配当金額を、一定の利率(10%)で還元して評価する方法です。

各方式の計算に必要な数値は、発行会社に問い合わせましょう。

株を相続するときの注意点と手続きについて

株を相続するときの注意点と手続きについて

相続手続きについても、上場株式と非上場株式では異なります。

非上場株式の相続については、非上場株式を発行した会社の事情や被相続人、相続人との関係など様々な要因が絡むため、専門家に相談する方が安心です。

ここでは、上場株式についての相続手続きを案内します。

上場株式の相続手続き

上場株式を相続する流れは、次の通りです。

①証券会社に連絡
相続が始まったら、被相続人が取引口座を開設していた証券会社に連絡をします。

②名義変更をおこなう
それぞれの証券会社から提示された必要書類を窓口に持参、あるいは送付して名義変更手続きを行います。
何の書類が必要かは相続の状況、被相続人と相続人の関係によって異なりますが、主な書類は以下の通りです。

・遺産分割協議書もしくは遺言書
 ※該当証券を誰が相続するのかを明確にする書類
・被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本
・相続人の印鑑登録証明書 など

③相続人名義の証券口座を開設
被相続人の保有株式を受け入れる相続人名義の証券口座を用意します。
すぐに株式を売却したいと考えている場合でも、被相続人の名義から相続人名義に変更し、相続人の証券口座に株式を移管しなければ売却ができません。

被相続人の保有株式を探す方法

取引があったかどうかを知らされていない場合は、証券会社からの郵便物やメール、通帳の履歴などから推測可能です。
それでも取引があったかどうかを把握できない場合は、証券保管振替機構(通称:ほふり)に連絡するとよいでしょう。

証券保管振替機構とは

証券保管振替機構は、「社債、株式等の振替に関する法律(振替法)」に基づき、各種有価証券の振替業務などを行う日本で唯一の組織です。

有価証券の振替とは有価証券のデジタル化のことで、証券保管振替機構では日本国内で発行されたすべての有価証券情報を電子帳簿上で管理しています。

登録済み加入者情報の開示請求の流れ

被相続人が上場株式を保有しているかどうかがわからないときは、「登録済み加入者情報の開示請求」を行いましょう。 開示請求の流れは、次の通りです。

①必要書類の用意
下記の必要書類を用意します。
戸籍情報などは相続税申告や他の相続手続きでも使うものです。
予め必要部数を割り出しておき、後の手続きのためにまとめて調達しておくとよいでしょう。

必要書類 入手先など
開示請求書 証券保管振替機構ウェブサイトよりダウンロード
相続人の本人確認書類 マイナンバーカード、運転免許証、健康保険証など
法定相続情報一覧図、
または相続人と被相続人の関係を示す戸籍等
・相続人の現在の戸籍謄本又は抄本(被相続人死亡日以降に発行されたもの)
・被相続人の死亡日が記載されている除籍謄本
その他、相続人と被相続人の関係によって必要書類が異なる
被相続人の住所確認書類 住民票の除票、戸籍の付票など
相続人の印鑑登録証明書 発行から6ヵ月以内のコピー

②必要書類の郵送
書類が揃ったら、「株式会社証券保管振替機構 開示請求事務センター」に書類を郵送します。
郵送のみでの受付となり、窓口での受付はありません。

③開示結果の受け取り
申込受付から返送までの期間は、およそ2~3週間程度です。
代引きサービスで郵送されるため、受領時に開示費用を支払います。

開示費用 6050円(税込)/1件
※法務局発行の法定相続情報一覧図(コピー)提出で1100円(税込)の割引

④開示結果の照合
開示請求でわかる情報は、被相続人名義口座の開設先です。
保有銘柄や保有株数、取引履歴や相続手続きについては、開示結果をもとに各証券会社に問い合わせましょう。

株式を売却すると譲渡所得税がかかる点に注意

名義変更が終われば、株式は相続人の所有財産となります。
株式として保有し運用を続けるのも、売却して現金化するのも自由です。

ただし、現金化して譲渡益が出た場合は譲渡所得税が課税されることを知っておきましょう。

譲渡所得税の算出方法

譲渡所得税の計算式は、次の通りです。

●上場株式の譲渡所得(譲渡益)金額の計算方法
①総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)=譲渡所得金額
②譲渡所得金額×所得税率20%(所得税15%、住民税5%)

取得費とは、被相続人が株式を購入したときの価格に手数料、消費税、名義書換料などを含むもので、必要経費として利益から差し引くことができます。
取得費が大きければその分譲渡所得金額を減額できるため、取得費がいくらかがポイントです。

取得費を加算できる特例制度ついては、次項で詳しく紹介します。

株の相続税は節税できる?

株の相続税は節税できる?

株式を相続する場合に有効な節税方法には、次のようなものがあるでしょう。

生前贈与

贈与税の課税対象財産額は、1月1日から12月31日までに贈与によって取得した財産から「基礎控除額110万円」を差し引いた金額となります。
つまり、受け手にとって110万円以内に納まる贈与は、非課税で受け取れるというわけです。

また、直系尊属から子や孫に対して「教育資金・結婚資金・子育て資金」を一括贈与した場合、要件を満たすことで500~1500万円の贈与財産が非課税となります。

贈与を上手く利用した生前対策で相続財産を事前に減らしておくことが、相続税を安く抑える上で一番効果のある手段だといえるでしょう。

株式の相続にかかる特例を利用

株式を相続した場合、また相続した株式を売却した場合には、次のような特例の適用を受けられる可能性について確認してみましょう。
相続税額を減らす効果はありませんが、所得税などを軽減させ、トータルで支払う納税額を減らすことができます。

相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

相続によって取得した不動産や株式などを売却した場合に、相続税のうち一定金額を譲渡所得計算上の取得費に加算することができる特例です。
要件を満たす場合、既に納めた相続税のうち株式に対応する分を株式の取得費に換算することができ、譲渡所得税の軽減につながります。

適用要件 ①相続や遺贈によって該当財産を取得していること
②相続税が課税されていること
③該当財産を、相続税申告期限より3年以内に譲渡していること
特例の概要 対象者の相続税額×該当財産の相続税評価額÷(取得財産額+相続時精算課税適用財産額+暦年課税分の贈与財産額)=取得費に加算する相続税額

この特例の適用を受けるためには、確定申告が必要です。

発行会社に非上場株式を譲渡した場合の課税の特例

株式をその発行会社に譲渡した場合、その譲渡収入の合計のうち一定の価格を超える部分は配当所得とみなされて所得税が課されます。
しかし、下記に該当する場合には、全額を株式譲渡価格として扱うという特例です。

適用要件 ①相続や遺贈によって非上場株式を取得していること
②相続税が課税されていること
③相続税申告期限より3年以内に、非上場株式を発行会社に譲渡していること
特例の概要 株式の譲渡価格が、一定の額を超えていても配当所得とはみなされず、全額が株式譲渡価格とみなされる。

この特例が適用されることによって、株式に関する譲渡対価全額を取得費に充てることができるようになります。

ただし、譲渡より前に「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」の提出が必要です。
提出先は、発行企業を経由して、発行会社の本店を管轄する税務署長となります。

非上場株式等についての相続税の納税猶予および免除の特例等(法人版事業承継税制)

非上場株式を相続した相続人が発行企業の後継者の場合、いくつかの要件を満たす場合、対象となる非上場株式にかかる相続税が猶予されるという特例です。
また、後継者が死亡した場合は、猶予されている相続税納付が免除されます。
細かい要件が多いため、適用を受ける場合は十分な確認が必要です。

株を相続する際に、相続人がやっておくこと

株を相続する際に、相続人がやっておくこと

被相続人が株式を持っていることがわかったら、相続手続きの他にもやるべきことがあります。

被相続人の準確定申告

被相続人が生前、株式売買によって一定の利益を得ていた場合は、その分の確定申告が必要です。
確定申告を行う前に亡くなってしまった場合は、相続人が代わりに確定申告を行わなければなりません。
これを、準確定申告といいます。

準確定申告の注意事項

準確定申告の期限は、相続開始から4ヵ月以内です。
被相続人の亡くなったタイミングによっては、前年分の確定申告が終わっておらず、当年と前年の2年分を申告しなければならないケースもあるでしょう。

また、相続人が2名以上の複数いる場合は、相続人全員の連署(共同)となる点にも、注意が必要です。

遺産分割

遺産分割が決着していない株式は、名義変更ができません。
名義変更ができない株式は、売却することもできないのです。

なお、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」は、相続が発生した日の翌日から、相続税の申告期限となる日の翌日から3年を経過する日までの間に譲渡を行うことと期限が定められています。
適用を検討している場合は、適用期限に注意しましょう。

節税対策や株の相続税について、プロにご相談ください

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本記事では株の相続に関連する手続きなどを紹介しましたが、株式の相続についてはできれば知識を持つ専門家に相談することをおすすめします。

特に非上場株式の相続については「遺産相続・税金・金融商品・中小企業の承継問題」など、様々な問題が絡んでくるため、何が最善策かを一概に判断することは難しいです。
そのため、円滑に進めるためにも、一般的な相続トラブルに加え株式の扱いにも強い税理士を選んでサポートを受けるのがおすすめです。
相続専門の税理士ならば、税務の専門知識を持つため、節税対策という視点からも適切なアドバイスを提案してもらえるでしょう。

もしも自分のケースに合う税理士が選べないという場合は、税理士事務所のサイトから相続にまつわる相談実績や解決事例といったコンテンツを見比べて、信頼できそうな税理士を探す方法が簡単です。
また、多くの事務所では初回相談無料サービスなどを行っているため、まずはコンタクトを取ってみてはいかがでしょうか。

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