相続税の申告期限は10ヵ月!納税までの流れや遅れた際のペナルティと対処法
相続税の申告と納税は、相続開始の翌日から10ヵ月以内におこなわなければなりません。
では、相続とはいつから始まるものなのでしょうか?
相続とは、相続の対象となる人(被相続人)が亡くなったことを知ったときから始まります。
つまり、家族や親族が亡くなって悲しんだり戸惑ったりしている間にも、申告期限は刻一刻と迫っているというわけです。
本記事では、相続税の申告までに用意すべき書類と手順、遅れた場合のペナルティについて詳しく解説します。
相続税の申告期限は10ヵ月

相続税は、被相続人の財産を相続や遺贈によって取得した場合に納める税金です。
相続税申告には期限があり、「相続開始」から10ヵ月以内に申告と納税を済ませなくてはなりません。
「相続開始」はいつから?
被相続人が亡くなったことを相続人が知った日から10ヶ月のカウントダウンが開始します。
通常は亡くなった当日であることが多いでしょう。
相続税がかからない場合、申告は不要?
相続税とは、相続をおこなったすべての人が納める税金ではありません。
相続財産の合計金額が「遺産にかかる基礎控除額」を超えた場合に納める税金です。
ただし、遺産分割の内容によって相続税の各種特例が使えて、納税額が0円になるなら通常申告が必要です。
相続財産の合計額がいくらになるか、どのような遺産分割になるのか、確認するためにも相続手続きをある程度進めていく必要があるでしょう。
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相続が発生してから納税までの流れ

ここからは、相続開始から申告期限までにおこなう手続きの流れについて説明します。
①相続人の把握
相続人とは、被相続人の所有財産を相続する権利のある人です。
相続人の範囲と順序については民法によって定められており、これを「相続人」あるいは「法定相続人」といいます。
●法定相続人の人数が重要
遺産にかかる基礎控除額を算出するための式は、「3000万円+(600万円×法定相続人数)」です。
法定相続人の人数によって、相続税が課税されるかどうかのボーダーラインの額も変わります。
だから、誰が相続人か把握することが重要なのです。
法定相続人の範囲と順序
被相続人の配偶者は、常に相続人となります。
戸籍上の正式な婚姻関係が必要で、内縁関係や事実婚パートナーなどは相続人に含まれません。
婚姻関係の解消を前提として別居をしていても、被相続人が亡くなった時点で戸籍上の夫婦であれば相続の権利があります。
配偶者以外が相続人となる順序は、下記の通りです。
順序 | 被相続人との関係 |
第1順位 | 子 ※既に死亡した子がいる場合は、直系卑属(孫、ひ孫)が代襲 |
第2順位 | 直系尊属 ※生存している直系尊属のうち、被相続人に親等が近い世代(父母、祖父母、曾祖父母の順)が該当 |
第3順位 | 兄弟姉妹 ※既に死亡した兄弟姉妹がいる場合は、甥姪が代襲 |
該当する人は、配偶者と一緒に相続人となります。
被相続人に配偶者と子どもがいるケースでは、被相続人の父母が存命であっても相続する権利はありません。
②遺言書の確認
被相続人が生前に遺言書を作成していたかどうかを確認します。
遺言書とは民法で定められた形式に則った文書のことで、形式を満たしていないものや音声・映像で残されたもの、伝聞などは法的な効果を持ちません。
遺言書のある相続
遺言書のある相続では、原則として遺言書の内容に従います。
遺言書では、遺産分割方法の指定、相続人以外に遺産を取得させる「遺贈」の指定、子どもの認知などができるため、相続税申告や納税額に影響を与えることになるでしょう。
たとえば、遺産の行き先が決まっていることで節税になる特例や控除を利用できない可能性があります。
また、遺言によって婚外子の認知があった場合は、法定相続人数が変わることになるのです。
もしも遺言書がないという前提で遺産分割を終えた後に遺言書が発見された場合、その内容によっては遺産分割をやり直さなくてはなりません。
相続開始後、できるだけ早いうちに遺言書があるかどうか徹底的に探しましょう。
③遺産と債務を洗い出す
被相続人が所有権を持っていた財産は、すべて遺産となります。
財産は「相続税の課税対象となるもの」と「相続財産の額から控除できるもの」に大別でき、主な該当財産は次の通りです。
●相続税の課税対象となる主な財産
・現金・預貯金・有価証券・宝石・土地・家屋・貸付金・知的財産権など金銭に見積もることができるすべてのもの
・死亡退職金、生命保険の死亡保険金のうち非課税枠(法定相続人×500万円)を差し引いた金額
・3年以内の贈与財産、相続時精算課税の適用を受けた贈与財産、贈与税非課税の適用を受けた特定の一括贈与財産管理残額
●相続財産から控除できるもの
・被相続人の借入金・未払金などの債務
・被相続人の葬式・通夜・火葬などにかかった葬儀費用
それぞれの財産は、購入したときの価格ではなく相続開始時点の時価で計算します。
株式や投資信託といった有価証券は、評価するタイミングによって価格が異なる可能性があるでしょう。
評価基準は国税庁のウェブサイトに記載されていますが、該当財産と税金双方の専門知識を持つプロや専門機関に依頼するほうが安心です。
④遺産相続についての意思表示【3ヵ月以内】
被相続人の資産状況を把握したら、相続についての意思表示をおこないます。
意思表示の選択肢は、次の3つです。
●1.相続放棄
被相続人の債務額が大きく、相続すると損害を受けてしまう場合などは、相続を放棄することができます。
これは、遺産にかかる権利も義務も、一切受け継がないという選択です。
●2.限定承認
相続人が取得した財産の限度内で債務返済の義務を受け継ぐという選択肢もあります。
負債と相殺した結果、財産のほうが多い場合は残額を取得でき、負債のほうが多い場合でも自らの財産で補填する必要はありません。
財産額と負債額が同じくらい、あるいは負債額が明らかではないケースに有効です。
相続放棄や限定承認を選択する場合は、相続開始から3ヵ月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。
期限を過ぎると選択できませんので注意しましょう。
●3.単純承認
権利も義務もすべて受け継ぐという選択です。
特別な手続きは不要で、期間内に「相続放棄」「限定承認」の申述をおこなわなければ、自動的に「単純承認」を選択したことになります。
⑤遺産分割協議
相続人が2人以上いる場合は、遺産のうち誰が何をどのくらい取得するのかを決めなくてはなりません。
そのための話し合いを「遺産分割協議」といい、遺産分割協議の成立には相続人全員の同意が必要です。
遺言書がある場合は基本的に遺言書に従いますが、遺言書によって遺産分割の「割合」だけが示されているケースでは、遺産分割協議で具体的な分割内容を決める必要があります。
⑥相続税の申告と納税
相続人と遺産を把握して分割方法を決めたら、相続税申告書に必要事項を書き入れます。
申告用紙は全国の税務署や自治体の関連窓口、国税庁ウェブサイトのダウンロードページなどで入手可能です。
それぞれの相続に応じた必要書類を集めて、申告準備を整えましょう。
相続税の申告窓口
相続税の申告書類は、相続開始時点で被相続人の住所地が所轄の税務署に提出します。
複数の相続人がいる場合は、代表者がまとめて提出するのでもかまいません。
申告期限は、冒頭でご案内したとおり「相続開始から10ヵ月後」です。
たとえば、死亡日が1月6日の場合は11月6日までに申告を済ませる必要があります。
期限の日が土日祝日などにあたるときは、翌日以降の平日(開庁日)が申告期限です。
相続税の納税窓口
相続税の納税についても、申告期限と同日までに済ませましょう。
納税は、全国の税務署、金融機関などでおこなえます。
原則として、納税額すべてを現金で納める必要があるため、申告準備とあわせて納税資金の調達も必要です。
申告期限が遅れた際のペナルティは?

相続税は、申告書の提出と納税の双方が揃って「完了」となります。
期限を過ぎても申告しなかった場合は、税務署から通知や呼出しおこなわれて下記のペナルティが科される可能性があるでしょう。
追徴課税
納めるべき相続税額とは別に税金を課されることを追徴課税といいます。
●延滞税
納付期限の翌日から完納する日までの日数に応じて課される税金です。
納付期限を過ぎたことに対する利息と考えるとわかりやすいでしょう。
延滞税の税率は、納付期限の翌日から2ヵ月以内は年7.3%、2ヵ月を超えた日以降は年14.6%となります。
但、現在は特例によりそれぞれ 2.4%、8.7% になっています。
●無申告加算税
正当な理由なく、期日までに申告をおこなわなかったことに対するペナルティです。
無申告加算税の税率は、納付すべき税額に対して50万円までは15%、50万円超300万円以下の部分には20%、300万円を超える部分には30%となります。
但、税務調査の通知前の期限後申告の場合は5%となります。
●過少申告加算税
期限内に納付されていたものの、実際よりも納税額を過少に申告・納税していたことに対するペナルティです。
税率は、納付すべき税額のうち期限内申告税額と50万円いずれか多い金額を超える部分については15%、それ以外の部分については10%となります。
但、税務調査の通知前の申告の場合は0%となります。
●重加算税
重加算税は、相続税の申告に偽装や隠蔽などの意図的な工作があった場合に課される税金です。
悪意があったと判断されているため課税割合も重く、納付すべき税額に対して35%(過少申告)、40%(無申告)となっています。
重加算税は悪質だとみなされたケースのペナルティですが、参考に覚えておくとよいでしょう。
連帯納付義務に基づく督促
相続人や遺贈を受けた人(受遺者)が2人以上いる場合は、相互に相続税の連帯納付義務があります。
つまり、複数いる相続人のうち納税を怠る人がいるケースでは、別の相続人が相続した額を上限にその人の分の税金を納めるよう督促を受けるかもしれません。
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相続税の申告期限は延長できる?

相続税の申告・納税は、期限厳守が原則です。
しかし、相続税の申告準備を進めるなかで解決できない問題が生じることもあるでしょう。
たとえば、法定相続人のうち連絡がつかない人物がいて遺産分割協議がおこなえないというケースや、取得財産が不動産で現金化しにくいため納税資金調達が間に合わないケースなどが考えられます。
そのようなときに利用したい救済措置を紹介しましょう。
遺産分割協議がまとまらない場合
相続財産の分割が完了していなくても、相続税の申告期限が延びることはありません。
そのため、遺産分割協議が成立していないときは、「法定相続分」に従って分割したと仮定して相続人ごとの相続税を算出し、申告と納税をおこないましょう。
法定相続分とは、民法に規定する相続の目安となる割合のことで、相続人の組み合わせによって異なります。
ただし、この場合は税額軽減制度である「配偶者の相続税の軽減」や「小規模宅地等についての相続税の課税価格の特例」適用を受けられません。
特例や控除の適用を受けるためには、次の書類が必要となります。
●申告期限後3年以内の分割見込書
相続税の申告期限までに遺産の全部または一部が分割されていない場合に添付する書類です。
概算申告後3年以内に遺産分割協議が成立した場合、その翌日から4ヵ月以内に改めて相続税の申告(更生の請求・修正申告)をおこないます。
このときに適用要件を満たしていれば、特例や控除の適用も受けることができるというわけです。
納税資金がすぐに用意できない場合
相続税の申告準備はできたものの納税資金が調達できないという場合は、次の方法を検討するとよいでしょう。
クレジットカード決済
相続税は、クレジットカードによる納付が可能です。
クレジットカード納付では、国税クレジットカードお支払いサイトでの手続きを完了させた時点で納付が完了します。
また、一括払いだけでなく分割払いを選択できる点も大きなメリットです。
相続財産売却の目処が立ちクレジットカード入金日までには資金調達ができる、分割ならば対応できるというケースに適しています。
●クレジットカード納付の注意点
・利用可能額は、1度の手続きにつき1000万円未満、かつクレジットカード決済可能額以下の金額
・納付税額に応じた決済手数料がかかる
・領収証書が発行されない
・クレジットカードによっては分割払いやリボ払い等に対応していない
延納(年賦)
私財をもってしても相続税額を一時金でで納付することが困難である正当な理由があるケースで、税務署長による審査を通過した場合は、年賦の許可がおりる可能性があります。
ただし、延納期間中は相続財産に応じて異なる利率の「利子税」の納付が必要です。
●延納(年賦)の要件
以下の要件をすべて満たす場合は、延納を申請できます。
①相続税額が10万円を超えること
②金銭での納付が困難とする事由があること
③延納する税額、および利子税の額に相当する担保(国債・地方債・社債そのた有価証券、土地・建物、船舶、鉄道財団など税務署長が認めたもの)を提供すること
※延納税額が100万円以下、かつ延納期間が3年以下である場合は担保不要
④本来の申告期限までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること
物納
延納によっても金銭での納税が困難とする事由があるケースで、税務署長による審査を通過した場合は、一定の相続財産による物納が認められます。
●物納の要件
以下の要件をすべて満たす場合は、物納申請が可能です。
①延納によっても金銭での相続税納付が困難とする事由があること
②下記財産を相続で取得していること
第1順位:不動産・船舶・国債証券・地方債証券・上場株式など
第2順位:非上場株式など
第3順位:動産など
上記のうち順位の高い財産を所有している場合は、下位の財産で物納することはできません。
つまり、相続した不動産は手元に残して、非上場株式を物納に充てることはできないということです。
相続税の申告を円滑に進めるためのポイント

申告期限まで10ヵ月と聞くと長いように思えるかもしれません。
しかし、実際は時間が足りないと感じる人がほとんどではないでしょうか。
相続税の申告準備において多くの人が苦労する点は、資料集めと遺産分割です。
この2点を効率よくおこなうためのポイントについて解説します。
相続関係書類を効率よく集める
相続税の申告書には、多くの添付書類が必要です。
なかでも、「被相続人の出生から死亡までの全期間の戸籍謄本」や「法定相続人全員の戸籍謄本」などの相続関係を証明するための書類は出番が多く、何度も大量の戸籍謄本を用意しなくてはなりません。
被相続人のこれまでの転居暦などによっては、資料集めのために複数の都道府県を行き来することになる可能性もあるでしょう。
これらの書類を効率よく集めるためには、予め必要枚数を計算して交付申請をする、郵送を併用するといった工夫が必要です。
法定相続情報一覧図を作成する
法定相続情報一覧図は、被相続人と相続人の関係を図におこしたものです。
相続関係を証明する書類を添付して法務局に申請すると作成でき、一覧図の写しは無償で交付を受けられます。
一覧図は相続税申告や不動産登記、銀行口座の払い出しなど様々な相続手続きにおいて、相続情報の証明として利用可能です。
いちいち謄本の束を管理する必要がなくなるため、申告準備を効率的に進めることができるでしょう。
遺産分割についての適切な情報を集める
遺産分割をスムーズにおこなうためには、遺産や相続についての適切な情報が必要不可欠です。
たとえば、相続した土地を売却する際は評価額が高いほどよいでしょう。
しかし、相続においてはできるだけ価値を「低く」するほうが節税になります。
また、誰が何を取得するかによって相続税額が大きく変わる可能性があるため、慎重に検討することが大切です。
しかし、当事者同士では冷静な話し合いができない場合も考えられます。
適切な遺産評価と節税対策、遺産分割協議のスムーズな成立を目指すために、相続や税務に詳しい専門家の意見を参考にしたりサポートを受けたりすることも視野にいれておきましょう。
生前の被相続人と情報交換をする
実は、相続を円滑におこなうための最大ポイントは、有効な生前対策にあります。
被相続人の所有財産について、被相続人本人が財産目録をまとめておいてくれれば、相続税申告準備の苦労は大幅に軽減するでしょう。
また、適切な遺産分割がおこなえるように遺言書を作成しておいてくれれば、遺産トラブルも回避できます。
直接情報交換をすることが難しい事情があるならば、配偶者や他の家族を通じて、エンディングノートや簡易的な財産一覧などを書いてもらうよう促すのもよいでしょう。
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申告期限には余裕を持って税理士へ相談しましょう

相続では大きなお金が動くことが多いうえ、ほとんどの人が不慣れです。
申告期限に間に合わなかったり申告内容にミスがあったりしてペナルティを負うことのないよう、手に負えないと判断した場合は早めに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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