相続時精算課税制度の申告手続きと活用事例をわかりやすく解説
相続時精算課税制度とは、子や孫への贈与にかかる税金を、相続の際にまとめて精算する制度です。
2024年の改正により、累計2500万円の非課税枠に加えて、年間110万円までは贈与税も相続税もかからない基礎控除が創設されました。
この改正によって今までよりさらに柔軟な資産移転が可能となり、節税効果を期待できる場面が増えています。
本記事では、制度の概要や改正のメリット、計算方法について詳しく解説します。
相続時精算課税制度とは?制度の基本と改正内容の影響を解説

相続時精算課税制度とは、財産の生前贈与にかかる税金を非課税とし、相続が起こった際に精算するという制度です。
贈与時の税負担を軽減することで、親から子、祖父母から孫への早期かつ計画的な資産移転を促します。
相続時精算課税制度は、2003年(平成15年)の創設以来、いくつかの改正を重ねてきました。
2023年(令和5年)の税制改正で非課税範囲の拡大が行われ、以前に比べてより利用価値の高い制度となっています。
相続時精算課税制度の仕組み
相続時精算課税制度の特徴は、累計2500万円までの特別控除という大きな非課税枠です。
対象財産は、現金・預貯金だけでなく、宅地などの不動産、有価証券、家財や車といった「経済的価値のあるもの」すべてが含まれます。
ただし、この非課税措置は贈与税に限られている点に注意が必要です。
贈与者(贈与した人)が死亡して相続が発生すると、特別控除の適用を受けた財産は相続財産に加算され、相続税の課税対象となります(不動産や有価証券などのように価値が変動する場合、贈与時の価額で算出されます)。
つまり、税金がかからなくなるわけではなく、相続するタイミングまで納税の時期を先送りにする制度というわけです。
相続時精算課税制度の条件
相続時精算課税制度を利用するためには、贈与者と受贈者(贈与を受ける人)が下記の条件を満たす必要があります。
●贈与者
60歳以上の父母や祖父母などの直系尊属
●受贈者
18歳以上の子や孫などの直系卑属(推定相続人)
●非課税で受け取れる金額
改正前:特別控除 累計2500万円
改正後:特別控除 累計2500万円+基礎控除 110万円/年
年間110万円の基礎控除は、贈与税も相続税もかからない
2023年(令和5年)の税制改正により新設された「基礎控除」は、従来の特別控除とは性質が異なり、相続時に精算する必要がありません。
贈与税がかからないばかりか、相続税も非課税となり、税負担を大幅に軽減できます。
また、基礎控除の非課税枠は毎年1月1日にリセットされるため、繰り返し利用できる点もメリットの1つです。
特別控除に先んじて適用されるため、特別控除枠の節約にもなり、より大きな節税効果が期待できるでしょう。
相続時精算課税 110万円 いつから?
相続時精算課税制度の改正は、2024年(令和6年)1月1日より施行されており、同日以降の贈与が適用対象となります。
また、この制度の利用には選択届出が一度だけ必要です。
所定の手続きを終えると、その後は毎年110万円の基礎控除が適用されます。
暦年課税とは?相続時精算課税制度との違いを比較解説

暦年課税は、最も一般的な贈与税の課税方式です。
相続時精算課税制度や贈与に関わる特例などを選択しない場合は自動的に適用され、特別な手続きは必要ありません。
暦年課税制度の仕組み
暦年課税は、1月1日から12月31日までの1年間を一区切りとして考えます。
この期間に受け取った贈与財産を合計し、基礎控除(年間110万円)を差し引いた額から贈与税を算出するという仕組みです。
贈与財産の合計は、「贈与者ごと」ではなく、「受贈者視点」で行います。
例えば、祖父から100万円、祖母から50万円の贈与を受け取った場合、合計財産額は150万円です。
基礎控除の範囲内で財産を渡そうと考えている場合、他の贈与がないか注意する必要があります。
暦年課税制度の条件
制度の利用にあたって、条件や対象者の制限はありません。
ただし、贈与者と受贈者の関係に応じて、贈与税率に差が生じます。
暦年課税の税率は「特例税率」「一般税率」の2種類で、適用条件は下記の通りです。
●特例税率の適用対象
贈与者:父母や祖父母などの直系尊属
受贈者:18歳以上の子や孫
●一般税率の適用対象
特例税率の対象外となる贈与すべて
特例税率は、スムーズな財産承継を促すため、一般税率よりも低めに設定されています。
特例税率を適用する場合は、贈与税の申告書に贈与者と受贈者の関係性を証明する書類が必要です。
税額の計算は納税者自身が行うため、税率の選択ミスに注意しましょう。
暦年課税財産の相続財産加算
暦年課税制度で受け取った贈与財産は、通常だと相続財産に加算されません。
ただし、以下の条件に該当する場合は、一定期間の贈与財産が相続財産の加算対象となります。
●対象者
受贈者:相続・遺贈によって贈与者の財産を取得した人
●加算対象となる贈与財産
相続開始より3年前までに受け取った生前贈与:3年間の贈与財産合計額
相続開始より3年~7年前までに受け取った生前贈与:4年間の贈与財産合計額-100万円
2023年(令和4年)の税制改正により、相続財産への加算対象期間が「相続開始より3年」から「7年」に毎年1年ごとに延長へ変更されました。
延長された4年間の加算は、2024年(令和6年)1月の施行後の贈与から段階的に適用され、2031年(令和13年)までに完全移行する予定です。
暦年課税 相続時精算課税 どっちが得?
暦年課税と相続時精算課税、どちらの制度が有利かどうかは、個々の事情等によって異なります。
贈与財産の金額や種類、贈与のタイミング、受贈者の状況など、さまざまな要素を考慮し、一般論ではなく自分のケースで考えることが大切です。
それぞれのメリットとデメリットから、自分にとって最適な方法を見極めましょう。
●相続時精算課税制度のメリット・デメリット
【メリット】
・累計2500万円までと非課税枠が大きい
・年間110万円の基礎控除を毎年利用できる
・相続財産への加算額は、贈与を行った時点の評価額
【デメリット】
・110万円を超える贈与は相続税の節税効果はあまりない
・土地や住宅にかかる相続税負担軽減特例との併用ができない
●暦年課税制度のメリット・デメリット
【メリット】
・年間110万円の基礎控除を毎年利用できる
・適用に特別な要件や手続きが不要で手軽に利用できる
・相続税の減税制度や特例に影響がない
【デメリット】
・非課税枠が小さい
・一定の条件を満たす場合、対象期間の贈与財産が相続財産に加算される
相続時精算課税贈与を使うメリットのあるケースとは?

相続時精算課税制度の特徴から、メリットが大きいケースを紹介します。
実際に生前贈与を検討する際は、税理士など相続税と贈与税に詳しい専門家に相談すると安心です。
高額財産を贈与するケース
高額財産を贈与する場合は、相続時精算課税制度のほうが適している可能性があります。
この制度は、本来贈与税がかかる財産を相続税で精算する仕組みです。
贈与税と相続税はどちらも累進課税制度を採用していますが、税率が異なるため、同じ額の財産でも相続税のほうが安く済む可能性があります。
2500万円の財産に対する贈与税率と相続税率の違い
ここでは、他の財産や控除を考慮せず、単純な税額計算をしましょう。
※ 実際の税率や控除額は課税財産額や状況によって異なるため、国税庁のサイトなどでご確認ください。
【例】 贈与者:60歳以上の祖父 受贈者:18歳以上の息子 課税財産額:2500万円 |
●暦年課税の場合
・贈与税率:45%(控除額265万円)
・贈与税額:860万円
●相続時精算課税制度の場合
・相続税率:15%(控除額50万円)
・相続税額:325万円
相続税額は、単純に課税価格×税率で算出されるわけではありません。
法定相続人数に応じた基礎控除の適用や、各種税負担軽減措置を活用すれば、さらに節税が可能です。
相続税の節税効果が期待できるケース
相続財産への加算金額は、贈与時の評価額が基準となります。
そのため、将来的に価値が上がる見込みのある不動産や有価証券を早めに贈与することで、値上がり分にかかる相続税を抑えることができるでしょう。
特に、賃貸建物の家賃収入や株式の配当金などの収益性のある資産は、贈与後に受贈者の収益となります。
贈与者の財産を減らしつつ、効率的な収益移転が可能です。
ただし、思惑通りに価値が上昇しなかった場合は、節税効果が限定的になる可能性があります。
また、逆に下落してしまった場合には、結果として税負担が不利になる可能性もあるでしょう。
十分に検討し、慎重な判断が必要です。
相続時精算課税制度の申告手続きと具体的な流れ

相続時精算課税制度を選択する場合は、対象となる贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に「相続時精算課税選択届出書」を一度だけ提出しなければなりません。
手続きが済むと、その贈与者は「特定贈与者」となり、以降、その贈与者から受けるすべての贈与に相続時精算課税制度が適用されます。
特別控除の適用には、贈与税申告が必須
累計2500万円の特別控除は、贈与税の申告書を期限内に提出した場合に限り適用される点に注意が必要です。
そのため、特定贈与者からの贈与が基礎控除額(110万円)を超える場合は、納税額が0円で納付がない場合でも税務申告が義務となります。
贈与が発生した際は早めに書類を準備し、申告漏れを防ぎましょう。
相続時精算課税制度を選択する場合の必要書類と提出方法のポイント

相続時精算課税制度を選択する場合には、さまざまな書類が必要になります。
公共機関で発行する書類が多いため、事前に準備を進めておくことが重要です。
●相続時精算課税制度の選択に必要な書類一覧
・相続時精算課税選択届出書
・受贈者と贈与者の関係を証明する書類(戸籍謄本または抄本など)
●贈与税の申告に必要な書類一覧
・贈与税の申告書(第一表・第二表)
・贈与を証明する書類(贈与契約書、財産の移転を示す書類等)
・個人番号がわかるもの(マイナンバーカード、マイナンバー通知書等)
書類の提出方法と提出先
相続時精算課税制度の選択届出書、および贈与税申告書は、受贈者の居住地を管轄する税務署に提出します。
●提出方法
・税務署窓口に持参
・郵送
・e-Tax
●提出期間
贈与税申告期間:受贈した翌年2月1日~同年3月15日
※当日が土日祝日だった場合は、翌営業日に順延
相続時精算課税の計算方法とシミュレーション例のご紹介

相続時精算課税制度を利用する際、贈与額や受け取り方によって贈与税額や将来の相続税負担が変わります。
以下のシミュレーションを参考に、適切な選択を考えましょう。
2500万円を一括で受け取る場合
一括贈与の場合、その年の基礎控除と特別贈与が適用され、贈与税負担は発生しません。
①基礎控除の適用:2500万円-110万円=2390万円
②特別控除の適用:2390万円-2500万円=0円(-110万円)
贈与税:0円
相続税:遺産総額に加算する額 2390万円
250万円×10年間で受け取る場合
分割贈与の場合、基礎控除の適用を複数年受けられるため、より効果的に節税可能です。
また、特別控除を適用残額が多い点も見逃せません。
①基礎控除の適用:250万円-110万円=140万円
10年分:140万円×10年=1400万円
②特別控除の適用:1400万円-2500万円=0円(-900万円)
贈与税:0円
相続税:遺産総額に加算する額 1400万円
≪関連 詳細ページ≫
●贈与税(暦年贈与と相続時精算課税贈与)と相続税の関係イメージ図と贈与のパターン
定期贈与に注意
このように、分割して贈与を行えば、控除の限度額は同じでも大きな効果が得られるでしょう。
しかし、毎年決まった時期に行われる形式的な贈与は、定期贈与と見なされる可能性があります。
贈与契約書を毎回作成する、贈与時期をずらすなどの工夫が必要です。
相続時精算課税制度で2500万円を超えるとどうなる?
その年の基礎控除110万円も特別控除の2500万円も超過した場合は、一律20%の贈与税がかかります。
この税率20%で納めた贈与税については相続発生時に相続税と相殺され、又、特別控除された部分は相続財産に加算されます。
≪関連 詳細ページ≫
●相続税はいくらから?相続税は3600万円の基準と法定相続人の数・基礎控除額
相続時精算課税制度を活用する際の注意点とリスク

相続時精算課税は、大きな節税効果を得られる可能性がある一方で、注意点や配慮すべきリスクを伴う制度です。
メリットだけでなく、デメリットも理解したうえで選択を検討しましょう。
相続時課税精算制度のデメリットは?
ここまでに触れた価格変動リスクや定期贈与リスク以外、押さえておくべきデメリットは以下の通りです。
一度選択すると撤回できない
相続時精算課税制度は、一度選択すると暦年課税には戻せません。
特定贈与者が亡くなって相続が始まるまで続くため、慎重な判断が必要です。
相続税との兼ね合いを考慮し、受贈者・贈与者の双方が納得したうえで選択することが求められます。
2次相続への影響
相続は、一代限りで終わるわけではありません。
1次相続(親→子、夫→妻など)の次に、2次相続(子→孫、妻→子など)が続きます。
相続時精算課税制度を選択すると、2次相続での税負担が増える可能性があるため、将来を見すえた資産計画が不可欠です。
制度変更リスク
税制は今後も改正される可能性があるため、現在のルールが将来も維持されるとは限りません。
例えば、今回の改正で大きな変更があったように、将来的に不利な条件になる可能性も考えられます。
長期的な税負担を見越し、制度変更への対応も視野に入れておきましょう。
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相続時精算課税贈与と暦年贈与は併用できる?

同じ贈与者(親・祖父母など)からの贈与について、相続時精算課税と暦年課税を併用することはできません。
しかし、例えば祖父からの贈与に相続時精算課税制度を適用させて、祖母や父母からの贈与は暦年贈与で受け取るというかたちでの併用は可能です。
贈与者ごとに異なる課税方式を活用することで、節税効果を最大限に生かすことができます。
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●贈与税(暦年贈与と相続時精算課税贈与)と相続税の関係イメージ図と贈与のパターン
相続時精算課税制度に関するよくある質問

相続時精算課税制度は、贈与税や相続税に大きな影響を与える重要な制度です。
最後に、よくある疑問に対してわかりやすく解説します。
改正前と改正後で、提出書類の変更はありますか?
提出書類の内容や書き方に大きな変更はありません。
しかし、2023年(令和5年)の税制改正により基礎控除が創設され、1年間の贈与額が110万円以下の場合は、贈与税の申告書提出が不要になりました。
ただし、「相続時精算課税制度選択届出書」については、そのときの贈与が110万円以下であっても期間内(翌年2月1日~3月15日)に提出する必要があります。
相続時精算課税制度の申告ミスをリカバリする方法はありますか?
年110万円を超える精算課税贈与を受けた場合には期間内の申告書提出が不可欠です。
申告を忘れた場合、記載漏れがあった場合などは、その財産について2500万円までの特別控除は適用されず、20%の贈与税が課されます。
期間内に提出した書類に記載ミスがあった場合、そのミスにやむを得ない事情があったと税務署長が認めた場合に限り、修正後の書類提出によって特別控除の適用を受けられるとされています。
申告自体を忘れていた場合は、後から特別控除の適用は受けられません。
それどころか、贈与税の無申告・未納についてペナルティが発生します。
申告を忘れないよう、贈与が発生したら早め早めの準備を心がけましょう。
相続放棄はできますか?
相続時精算課税制度で生前に贈与を受けたが、贈与者の死後に借金などの負債が発覚したというケースもあるでしょう。
そういった場合、相続人が相続放棄することは可能です。
ただし、相続時精算課税制度を利用して生前贈与された分に対し、相続税が課されることを知っておく必要があります。
また、借金の状況によっては、生前贈与が取り消されて返済を求められた事例もあるため注意が必要です。
将来の節税対策のために、相続時精算課税制度を専門家に早めに相談しましょう

上記のように、生前の贈与は相続税対策としても有効な手段です。
事業継承で利用できる「事業承継税制」と併用もできるため、効果的に活用すると数百万単位で節税できるでしょう。
そのため、遺産として相続する前に、家族で話し合っておくことをおすすめします。
しかし、最大限の効果を得るためには、贈与税・相続税の知識、数次相続についてのノウハウなどが必要です。
ぜひ、税務の専門家である税理士にご相談ください。
ただし、税理士ごとに得意とする専門分野が異なります。
相続・贈与に強い税理士を探すためには、公式サイトや比較サイトを閲覧する方法が簡単です。
過去の実績記事や成功事例のまとめ一覧から、自分の悩みに近いケースの解決策を見つけたところの話を聞くのも良いでしょう。
また、料金体系やサポート体制、企業理念などを明確に掲げているところが安心できます。
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