遺産分割協議の提案/数次相続(続けて相続発生)の遺産分割協議

相次いで父母が亡くなるなど、不幸が重なることもあるでしょう。
父親の相続の手続きが終わらないうちに母親も死亡して次の相続が始まってしまうようなケースを、数次相続(すうじそうぞく)といいます。
数次相続では、遺産分割協議を行う際に通常とは異なる手続きが多いため、注意しなくてはなりません。

この記事では、数次相続における遺産分割協議の注意点や遺産分割協議書の書き方、相続登記での節税方法など、実践的な情報について詳しく解説します。

数次相続 遺産分割協議書はどのように作れば良いのか

数次相続とは、相続開始後にまた相続が発生した場合

数次相続とは、相続開始後にまた相続が発生した場合

冒頭でもお話ししたように、親や親族が相次いで亡くなり連続して相続が発生することは決して珍しいことではありません。
この時、先の相続での遺産分割が終わる前に新たな相続が開始した場合を数次相続といいます。
数次相続は複数の相続が重なっている状況で、通常とは異なる手続が多いです。

まずは、数次相続の概要について説明しましょう。

数次相続が起こる2つのパターン

数次相続が起こる理由は、次の2種類に大別できます。

●立て続けに相続が起こったことで数次相続が生じたパターン
偶然に不幸が重なり、先の相続から間もなく次の相続が始まってしまうパターンです。

●遺産分割を先延ばしにした結果、数次相続になったパターン
何かの事情により遺産分割を先延ばしにしている間に時が経ち、次の相続が始まってしまうパターンです。

数次相続で遺産分割協議をする場合の注意点

数次相続では、先に起こった相続を「1次相続」、重ねて起こった相続を「2次相続」と呼びます。
先の例でいえば、父親の相続が1次相続、母親の相続が2次相続となり、母親は「1次相続の相続人兼、2次相続の被相続人」ということになるわけです。

遺産の分割を行う際は、順当に1次相続から先に行います。
2次相続で扱う母親の遺産には、1次相続で父親から相続した財産が含まれていることになるため、先に1次相続を終わらせなくてはなりません。

遺産分割協議を進めるためには相続人全員の参加が必須条件です。
しかし、1次相続の相続人のひとりである母親は亡くなっているため、遺産分割協議に参加できません。
そこで、2次相続における母親の遺産の相続人全員が、母親の持つ権利を承継したとして1次相続の遺産分割協議に参加します。

つまり、数次相続では、1次相続の遺産分割協議を「1次相続の相続人+2次相続の相続人」で行わなければならないということです。

数次相続は、状況によって3次、4次と続く可能性があり、相続が重なるほど1次相続の遺産分割協議参加者が増え、権利関係も複雑になっていきます。
また、時間が経てば経つほど遡って情報を集めることも難しくなるため、放置している相続がある場合は注意が必要です。

数次相続の遺産分割協議書の書き方を詳しく解説

数次相続の遺産分割協議書の書き方を詳しく解説

遺産分割協議書とは、遺産分割協議で相続人全員が合意した相続内容をまとめた書類です。
決まった書式はありませんが、下記の項目については必ず記載しておきましょう。

【遺産分割協議書に必要な記載事項】

・被相続人の名前、生年月日、死亡年月日など
・遺産分割内容について、相続人全員が合意しているということ
・相続財産の内容、誰が取得するかということ
・相続人全員の署名、住所、押印

1次相続の遺産分割協議書を書く時の注意点

数次相続の遺産分割協議書は、混乱を防ぐために1次相続と2次相続を分けて、相続ごとに作成すると安心です。
通常と書き方が異なる部分について、ひとつずつ説明していきます。

相続人兼被相続人

遺産分割協議書の冒頭部分には、被相続人の情報を記載しましょう。
通常、被相続人はひとりですが、数次相続では1次相続と2次相続の被相続人を併記します。
その際、2次相続の被相続人は「相続人兼被相続人」と記す点が重要なポイントです。

【記載例:2次相続がある場合】

被相続人 ○○○○(生年月日) 昭和_年_月_日死亡
本籍地 ___________
最後の住所地 ___市___町___丁目__番地__号

相続人兼被相続人 □□□□(生年月日)昭和_年_月_日死亡
本籍地 ___________
最後の住所地 ___市___町___丁目__番地__号


※書き方は一例です。

数次相続が発生したことを明記する

基本として、遺産分割協議において相続人全員の合意が成立した旨を記します。
ここに数次相続が発生したことを追記しておくと良いでしょう。

【記載例:合意の旨】

被相続人○○○○(昭和_年_月_日死亡)の遺産について、共同相続人である_____、_____および____は、協議の結果、下記のとおりに遺産分割し取得することに合意した。なお、相続人のひとりである□□□□については、(死亡年月日)に死亡したため、その相続人である_____、_____がその地位を承継し、協議に参加した。

※書き方は一例です。

相続人兼被相続人の相続人

遺産分割書には、基本として相続人全員の署名と実印による押印が必要です。
このとき、1次相続の相続人には「相続人」、2次相続の相続人には「相続人兼被相続人の相続人」という肩書きが付きます。

【記載例:数次相続の相続人】

作成年月日

○○○○相続人 氏名_______ 
住所 ___市___町___丁目__番地__号 実印

○○○○相続人兼被相続人□□□□の相続人 氏名_______ 
住所 ___市___町___丁目__番地__号 実印

○○○○相続人兼被相続人□□□□の相続人 氏名_______ 
住所 ___市___町___丁目__番地__号 実印

※書き方は一例です。

2次相続の遺産分割協議書を書く時の注意点

2次相続の遺産分割協議書を作成する時点では、1次相続が完了しているはずです。
そのため、2次相続の遺産分割協議書については通常どおりの書き方でかまいません。

遺産相続の額は変わる?数次相続が発生した時の法定相続分

遺産相続の額は変わる?数次相続が発生した時の法定相続分

被相続人の親族のうち、民法によって相続権が認められている人を法定相続人、あるいは単に相続人と呼びます。
相続人は次の順序で相続権を得ることになり、順位が異なる人同士が同じタイミングで相続人になることはありません。

●法定相続人(相続人)
被相続人の配偶者は、常に相続人です。
法的に配偶者だと認められる必要があるため、内縁関係や事実婚パートナーなどは相続人にはなれません。

配偶者以外の親族は、次の順番で相続人となります。

順序 被相続人との関係
第1順位 子供(孫、ひ孫)
第2順位 父母(祖父母、曾祖父母)
第3順位 兄弟姉妹(甥姪)

第1順位の相続人である子供が、相続開始より前、つまり被相続人の生前に亡くなっている場合は、その子供の直系卑属(孫やひ孫)が相続の権利を承継します。

これを代襲相続といい、数次相続との違いは「相続人の死亡が相続開始より後か前か」という点です。

第1順位の該当者が代襲相続人も含めて誰もいなくなったら、相続権が第2順位へと移ります。

●法定相続分
法定相続分とは、民法によって定められた相続割合です。
相続人の組み合わせによって下記のように異なります。

  配偶者 子供 父母 兄弟姉妹
配偶者のみ すべて
子供のみ すべて
父母のみ すべて
兄弟姉妹のみ すべて
配偶者と子 2分の1 2分の1
配偶者と父母 3分の2 3分の1
配偶者と兄弟姉妹 4分の3 4分の1

子供、父母、兄弟、姉妹の数が複数であった場合は、相続割合をさらに等分します。

数次相続での法定相続人と法定相続分

数次相続でも、相続人の範囲や条件は変わりません。
遺言書がなく父が亡くなり、父の遺産分割協議の完了前に母も亡くなるケースは少なくありません。
まずは、1次相続と2次相続の相続人、その法定相続分は以下の一覧のとおりです。

  1次相続 2次相続
被相続人 父親 母親
相続人 母親(2分の1)→死亡
長男(8分の1)
次男(8分の1)
長女(8分の1)
次女(8分の1)
長男(4分の1)
次男(4分の1)
長女(4分の1)
次女(4分の1)

両親が相次いで亡くなるというのは、数次相続の中でも多いケースです。
4人の子供は、1次相続における本来の相続分を持っている上、亡くなった母親の相続分について、亡母親に相続してもらうのか、子供達が直接するのかを選択できます。 
一次相続(1次相続)ではあえて亡母親に相続してもらって配偶者の税額軽減特例を活用した方が1次2次のトータル相続税額を安くできる場合が多いでしょう。

注意すべき数次相続の場合の相続税申告

注意すべき数次相続の場合の相続税申告

一般的な相続では、被相続人が亡くなったことを知った日を「相続の開始日」として、10ヶ月後の期限までに相続税の申告と納税を済ませなければなりません。

数次相続が発生している場合の関連手続きの進め方について、注意点をチェックしていきましょう。

相続人の調査

誰が相続人に該当するのかを調べるためには、「被相続人の出生から死亡までの全期間の戸籍謄本」と「相続人の戸籍謄本」(抄本ではなく謄本)が必要です。
数次相続では通常の相続よりも多くの被相続人と相続人がいるため、その分、資料を取得する手間や発行手数料などの費用・料金が増えることになります。

相続財産の確認

2次相続の被相続人の相続財産には、1次相続で相続した分が含まれます。
そのため、必ず1次相続から順に遺産分割を行って、二次相続(2次相続)の遺産を明確にしていかなければなりません。
しかし、数次相続の場合など、一次相続(1次相続)の遺産分けを決める前に相続専門の税理士に相談されることをオススメします。
なぜなら、二次相続(2次相続)の被相続人のオリジナル遺産のボリュームや内容を把握した上で配偶者の特例や、小規模宅地の減額特例を2回使える遺産分割を考えれば一次相続(1次相続)+二次相続(2次相続)のトータルで数百万円~数千万円の相続節税ができる場合もあります。

相続の意思確認

相続が開始した時、相続人には「相続」「放棄」「限定承認」という3つの選択肢があります。
相続は財産を得る権利も債務を返済する義務も受け継ぐということ、放棄はすべて手放すことです。
限定承認とは、相続財産の範囲内でのみ債務を引き受けるという選択で、債務返済後に財産が残る場合は取得することができます。

1次相続人が相続放棄をした場合

1次相続の熟慮期間中に相続放棄の手続きを済ませた相続人は、最初から相続人ではなかったことになります。
例えば父親の相続について相続放棄をした長男が亡くなった場合、既に相続権を失っているため、長男の配偶者や子供が数次相続の相続人になることはありません。

2次相続の相続人が相続放棄をする場合

相続放棄を申請する際、次のようなパターンは可能でしょうか。

① 1次相続、2次相続、どちらも放棄する
回答:可
数次相続では、2次相続の熟慮期間内であれば1次相続についても放棄の選択が可能です。

② 1次相続を放棄、2次相続は相続
回答:可
2次相続の熟慮期間であれば、1次相続のみを放棄することも可能です。

③ 1次相続は相続、2次相続を放棄
回答:不可
数次相続では、2次相続によって「1次相続の相続権」を受け取ったと考えます。
2次相続を放棄した場合、自動的に1次相続の相続権もなくなるため、2次相続のみを放棄という選択はできません。

相続手続き(相続登記)

不動産登記制度とは土地や建物を相続した際の名義変更手続きで、2024年(令和6年)に義務化されることが決定しました。
しかし、これまでは任意だったため、実家を相続したら先々代の名義のままだったというようなトラブルも少なくないのです。

先々代から自分へと相続登記をする場合、原則として2代分の手続きを一緒に行い、2代分の登録免許税を支払うことが必要です。
しかし、次の制度を利用することで手間や費用を省ける可能性があるので、ご案内します。

中間省略登記

本来は、先々代→先代→自分と2代分の手続きが必要ですが、以下の条件を満たす場合は中間省略登記が認められる可能性があります。

・数次相続である
・先代が単独相続(相続人が1人のみの相続)である

中間省略登記とは、先代の登記を省いて「先々代→自分」のように手続きすることです。
中間省略登記が認められれば、1代分の手続きをする手間と納めるべき登録免許税の節約ができるというメリットを得られます。

登録免許税免除の措置

中間の相続が単独相続ではないケースでも、2025年(令和7年)3月31日までの免税措置が適用されれば登録免許税が免除されます。

適用条件は、登記名義人から相続人への名義変更がされないまま次の相続が起こったということだけで、数次相続の相続人についての特別な条件はありません。
ただし、免除されるのは登録免許税の納付のみで、登記手続きは必要です。

数次相続の遺産分割について、税理士に任せる

数次相続の遺産分割について、税理士に任せる

数次相続は相続関係が複雑になるため、あまり知識のない人が自己判断で進めてしまうと大きなミスに繋がる不安があります。
数次相続が起こったら、早めに税の専門家である税理士に相談すると安心です。
法律の専門家というと弁護士や司法書士、行政書士なども思い浮かぶと思いますが、一次相続(1次相続)+二次相続(2次相続)のトータル相続節税を考えるなら相続税専門の税理士に相談すべきといえるでしょう。
また、相続税専門の税理士に依頼すれば、将来を見越した遺産分割で長期に渡る節税効果を得ることも期待できるでしょう。

税理士や税理士事務所のサイト等を見ると、過去の実績や解決事例などが掲載されているので、実績が豊富な税理士を探してみましょう。
気になる税理士が見つかったら、電話をしたり相談初回無料サービスを利用したりして、気軽にコンタクトを取ってみてはいかがでしょうか。

 

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