相続税における配偶者控除は1億6000万! 節税になるがデメリットも!!
相続とは、身近な親族が亡くなったときに財産を受け継ぐ手続きのことです。
このとき、亡くなった人のことを「被相続人」といい、財産を受け継ぐ人を「相続人」と呼びます。
相続人の範囲は民法で定められており、すべてにおいて最優先とされるのが「配偶者」です。
つまり、視点を変えて考えると、必ず財産を受け継ぐことになる配偶者は、相続税を納める可能性が高い立場にあるということになります。
だからこそ、配偶者には「1億6000万円分の控除」という大きな節税効果を得られる制度が用意されているのです。
この記事では、配偶者だけが使える配偶者控除について、仕組みや概要、必要書類や注意点を詳しく解説しています。
相続税の配偶者控除とは?税金がかからない相続税について

相続は「被相続人が亡くなったことを知った日」の翌日から始まり、その開始から10ヵ月以内には相続税の申告と納税をおこなうことになっています。
期限を過ぎてしまうと、配偶者控除が使えなくなったり、相続税額に延滞税が加算されたりするので注意が必要です。
計画的に手続きを進められるように、まずは、相続が開始したときに次の3点を確認しておきましょう。
①相続人の確認
冒頭でもお話しましたが、相続人の範囲は民法によって定められており、それを「法定相続人」と呼ぶこともあります。
必ず相続人となるのが、配偶者です。
その他の親族については下記の順序に則って相続人となります。
順序 | 被相続人との関係 |
第1順位 | ①子②孫③ひ孫 |
第2順位 | ①父母②祖父母③曾祖父母 |
第3順位 | ①兄弟姉妹②甥姪 |
各順位の①の人が亡くなっている場合は、その人の直系である②の人が相続人になります。
②の人が亡くなっている場合も同様に直系の③の人へと相続権が移り、①②③に該当する人が誰もいない場合は次の順位の①の人が相続人になるという仕組みです。
②遺言書の確認
被相続人の遺言書の有無は、とても重要です。
遺言がある場合、基本的には遺言のとおりに遺産を分割することになります。
一般的な遺言書は次の3種類が多く、方式に則っていないものは法的な効力を発揮しません。
遺言書の種類 | 方式 |
自筆証書遺言 | ・自筆によって全文、氏名、日付を記し押印して作成したもの。 (パソコン等の使用、代筆は無効。ただし、財産目録のみパソコン等での作成可) |
公正証書遺言 | ・証人2人以上の立会いのもと、被相続人が遺言内容を口授し、公証人が筆記する方法で作成したもの。 |
秘密証書遺言 | ・被相続人が作成し封印した遺言書を、公証人1人、証人2人以上の前で封書を遺言書であると申述したもの。 |
保管場所は、自宅や金融機関、法務局の自筆証書遺言保管制度などが考えられます。
また、公正証書遺言の場合は写しが公証役場に保管されており、1989年(平成1年)以降に作成された遺言書については検索システムの利用が可能です。
③財産の確認
相続税は、被相続人が所有している財産を相続人が受け継ぐことで発生する税金ですが、すべての遺産にかかるわけではありません。
財産は「遺産の額に加算するもの」「加算しないもの」「遺産の額から控除できるもの」の3つに分けられ、相続税がかかる遺産の額は次の式で算出します。
遺産額=「A.遺産の額に加算するもの」-「C.遺産の額から控除できるもの」
それぞれ、どのような財産が該当するのかについては下記のとおりです。
●A.遺産の額に加算するもの
相続財産 | ①現金、預貯金②有価証券③土地、建物などの不動産④宝石貴金属、書画骨董品など⑤貸付金⑥知的財産権 など 経済的価値のあるものすべて |
みなし相続財産 | ①死亡退職金②生命保険の死亡保険金など |
特定の贈与財産 | 次のいずれかに当てはまる被相続人からの生前贈与財産 ①相続開始より遡って3年以内の生前贈与(※) ②相続時精算課税制度の適用を受けた生前贈与(※) ③教育資金、あるいは結婚・子育て資金の一括贈与で非課税の適用を受けた贈与財産の管理残額 |
≪関連ページ≫
★※令和5年(2023年)税制改正大綱 相続税や贈与税、土地譲渡に関するもの抜粋
●B.遺産の額に加算しないもの
日常の礼拝に使うもの | ①墓地、墓石②仏壇、仏具③神棚、神具など |
公益目的の寄付 | 特定の公益団体に寄付をした財産 |
非課税限度額 | ①死亡退職金に対する「500万円×法定相続人数」までの金額 ②死亡保険金に対する「500万円×法定相続人数」までの金額 |
●C.遺産の額から控除できるもの
債務 | 相続開始時に、確実にあったと認められる借入金などの債務 |
葬式費用 | 被相続人の葬式やお通夜、納骨などにかかった費用 |
配偶者控除はなんと1億6000万円!その仕組みを詳しく解説

配偶者控除は、被相続人の配偶者が実際に取得した遺産に対して、次のような大きな控除を受けることができるというものです。
配偶者控除 | 遺産分割後の取得分から、次のどちらか多い金額を控除 ①1億6000万円 ②配偶者の法定相続分相当額 |
まずは、法定相続分について解説していきましょう。
法定相続分
法定相続分とは、民法で定められた遺産分割の割合のことです。
相続人が複数いる場合、組み合わせによってそれぞれ割合が異なります。
相続人の組み合わせ | 配偶者 | ①子②父母③兄弟姉妹 |
①配偶者と子 | 1/2 | (複数人の場合は全員で)1/2 |
②配偶者と父母 | 2/3 | (複数人の場合は全員で)1/3 |
③配偶者と兄弟姉妹 | 3/4 | (複数人の場合は全員で)1/4 |
ただし、これは相続税の計算上の定めであり、実際にこのとおりにしか分割できないというわけではありません。
相続税の配偶者控除の計算方法を説明します

相続税がかかる遺産の額を算出するためには、いくつかのステップが必要ですがここでは省きます。
相続税の対象となる課税遺産総額が確定し、遺産分割の段階に進んだと仮定して、話を進めましょう。
全体の相続税額を算出
相続税額の計算では、いったん法定相続分で分割したと仮定して、相続人ごとの相続税額を算出し、その合計額を「全体の相続税額」とします。
次に、実際の取得額に応じた割合で「全体の相続税額」を決定するという流れです。
詳しい計算は省きますが、税率と控除額の早見表は下記のとおりとなります。
実際の遺産取得金額 | 相続税率 | 控除額 |
1000万円以下 | 10% | - |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
配偶者控除の適用例
例えば、相続人が配偶者と子供2人という組み合わせで、配偶者控除による節税効果を計算してみましょう。
●遺産額2億円の場合
被相続人の遺産総額が2億円だった場合、全体の相続税額は2700万円となります。
配偶者控除は、「1億6000万円か配偶者の法定相続分(2億円×1/2=1億円)のどちらか大きい方の金額まで」ですから、この場合は配偶者の取得遺産額が「1億6000万円」までは相続税がかかりません。
配偶者が1億6000万円分の遺産を相続した場合、配偶者の相続税額は0円、子の合計の相続税額は、「2700万円×4000万円/2億円=540万円」で済むことになり、大きな節税効果があることがわかります。
●遺産額5億円の場合
遺産総額が5億円だった場合、全体の相続税額は1億3110万円です。
配偶者の法定相続分は「5億円×1/2=2億5000万円」で、この金額までが配偶者が無税で相続できる遺産額となります。
この場合の節税額は「1億3110万円×2億5000万円/5億円=6555万円」です。
配偶者控除の対象者・適用される条件などは?

配偶者控除の適用を受けるためには、次の3つの条件を満たす必要があります。
①配偶者であること
②遺産分割が確定していること
③相続税の申告をすること
配偶者控除の対象者は、被相続人との戸籍上の婚姻関係にある配偶者に限られます。
事実婚パートナーや内縁関係の人などは、対象外です。
また、遺産分割が完了していて、期日までに相続税の申告をおこなうことも条件となっています。
●遺産分割が間に合わない場合
何らかの事情により申告期限までに遺産分割が完了しないことがわかっているのなら、次の手続きをおこなうことで、分割完了後に税額軽減を受けることができます。
分割が完了する見込 | 適用要件 |
申告期限後3年以内 | ・相続税申告時に「申告期限3年以内の分割見込書」を提出 ・申告期限後3年以内に遺産分割を完了させる |
申告期限後3年超 | ・分割ができないやむを得ない事情について、税務署長の承認を受ける ・やむを得ない事情がなくなって4ヵ月以内に分割を終える |
上記の手続きが完了した際に改めて配偶者控除の申請をおこなうことで、払い過ぎた分の税金が返還されます。
手厚い配偶者控除にもデメリットが…子供に負担をかけない二次相続(2次相続)に注意!

配偶者控除には、大きな税額軽減というメリットがある一方で、二次相続(2次相続)に影響を及ぼすというデメリットもあります。
一次相続(1次相続)と二次相続(2次相続)
両親と子供という家族関係の場合、例えば父が亡くなって発生した相続を「一次相続(1次相続)」、その配偶者である母が亡くなって発生する相続を「二次相続(2次相続)」と呼びます。
一次相続(1次相続)時に配偶者控除を最大限に活用した結果、配偶者の遺産取得額が非常に多いというケースは少なくないでしょう。
しかし、子供の立場で考えると、二次相続(2次相続)が起こったときに相続税額が高くなるという問題があります。
●二次相続(2次相続)の問題点
一次相続(1次相続)と二次相続(2次相続)の相違点は、次のような点です。
一次相続(1次相続) | 二次相続(2次相続) | |
遺産の額 | 被相続人の財産 | 被相続人の財産+配偶者から一次相続(1次相続)で相続した財産の内、使い残った財産 |
配偶者控除 | 使える | 使えない |
基礎控除 3000万円+(600万円×法定相続人数) |
法定相続人:3人(配偶者+子供2人)の場合 4800万円 |
法定相続人:2人(子供2人)の場合 4200万円 |
つまり、二次相続(2次相続)では配偶者控除の有無や法定相続人の数などにより、基本的な控除額が減ってしまうのです。
そのため、課税対象となる遺産が増え、多額の税金を負担する可能性が高くなるということになります。
二次相続(2次相続)の具体例
例えば、夫婦と子供2人という4人家族で一次相続(1次相続)、二次相続(2次相続)が起こった場合の相続税額について計算してみましょう。
●配偶者控除を最大限使った場合
両親のどちらかが亡くなって一次相続(1次相続)が発生、このときの遺産総額は2億円で、配偶者が1億6000万円分の遺産を相続し、残りの4000万円を子が均等相続と仮定します。
相続人 | 遺産取得額 | 相続税額 |
配偶者 | 1億6000万円 | 配偶者控除適用により0円 |
子供 | 2000万円 | 270万円 |
子供 | 2000万円 | 270万円 |
合計額 | 2億円 | 540万円 |
配偶者も亡くなって二次相続(2次相続)が発生、遺産総額は一次相続(1次相続)時の1億6000万円とし、配偶者のオリジナル財産4000万円を加えた合計2億円と仮定します。
相続人 | 遺産取得額 | 相続税額 |
子供 | 1億円 | 1670万円 |
子供 | 1億円 | 1670万円 |
合計額 | 2億円 | 3340万円 |
子供が負担する相続税額は一次相続(1次相続)と二次相続(2次相続)を合わせて3880万円です。
●法定相続分で分割した場合
一次相続(1次相続)時の遺産分割を法定相続分でおこなった場合、配偶者1億円、子供1人あたり5000万円ずつ取得することになります。
相続人 | 遺産取得額 | 相続税額 |
配偶者 | 1億円 | 配偶者控除適用により0円 |
子供 | 5000万円 | 675万円 |
子供 | 5000万円 | 675万円 |
合計額 | 2億円 | 1350万円 |
二次相続(2次相続)時の財産は、同様に一次相続(1次相続)時の1億円と仮定し、配偶者のオリジナル財産4000万円を加えた合計1億4000万円と仮定します。
相続人 | 遺産取得額 | 相続税額 |
子供 | 7000万円 | 780万円 |
子供 | 7000万円 | 780万円 |
合計額 | 1億4000万円 | 1560万円 |
子供が負担する相続税額は一次相続(1次相続)と二次相続(2次相続)合計で2910万円となり、実に970万円もの税額差が出ました。
このように、一次相続(1次相続)における配偶者の取得額によって、二次相続(2次相続)での子供の相続税額が増える可能性もあるというわけです。
他の控除制度を組み合わせることで、さらに税額軽減を図ることもできます。
二次相続(2次相続)対策
相続税には、配偶者控除以外にもいくつもの控除制度が用意されています。二次相続(2次相続)対策として使いやすく、効果の高いものを紹介しましょう。
●相次相続控除
一次相続(1次相続)から10年以内に二次相続(2次相続)が起こった場合、相次いで相続税を負担した相続人の税額を軽減する制度です。
対象者 | 適用要件 | 控除内容 |
今回の相続の相続人 | 10年以内に開始した相続で、遺産を取得し、相続税が課税された人 | 「前回の相続から今回の相続までの期間×一定額」の減額 |
●小規模宅地の特例
小規模宅地の特例は、被相続人が自宅として使用していた宅地の評価額を大きく減額する制度で、課税遺産額そのものを少なくする効果があります。
このとき減額されるのは相続税の計算に関わる評価で、実際の売買価格には影響を与えません。
対象者 | 適用要件 | 控除内容 |
①配偶者 ②同居親族 |
被相続人と同居していて、相続開始後も該当宅地に居住し続けていること | 居住用宅地330㎡までの評価額を80%減額 |
一般的に土地は高額になることが多い財産です。
子供が同居している場合は、一次相続(1次相続)で土地と家屋を子供が相続しておくというのも有効な節税対策となるでしょう。
また、2020年(令和2年)4月1日に施行された「配偶者居住権」をあわせて使うことで、財産の所有権を子供が取得しながら、配偶者の居住権は守ることができます。
小規模宅地の特例は、被相続人が営んでいた事業を承継する親族が事業用宅地を取得した場合にも適用されます。
それぞれのケースに対応する制度があるかどうか、関連情報を集めることも重要です。
配偶者の税額軽減!手続きや準備するものは?

配偶者控除は正式な制度名称を「配偶者の税額軽減」といいます。
申告するために必要な書類や、手続きの流れは以下のとおりです。
配偶者の税額軽減 必要書類
まずは、相続税申告時に必要な基本的な書類を紹介します。
●本人確認書類
①番号確認書類
マイナンバーカード、マイナンバー通知カード、マイナンバー記載の住民票など
②身元確認書類
マイナンバーカード、運転免許証、パスポート、健康保険証など
個人番号(マイナンバー)と身元の確認が1枚で片づくマイナンバーカードが便利です。
●相続税申告に共通して必要な書類
①相続税の申告書
申告用紙は、全国の税務署窓口などで入手できるほか、税務署Webサイト内にある申請案内のページでもダウンロードできます。
②被相続人のすべての相続人を明らかにするための書類
被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、あるいは、法定相続情報一覧図の写しを準備しましょう。
③遺言書の写し、または遺産分割協議書の写し
●配偶者の税額軽減申告で必要な書類
①相続人全員の印鑑証明書
配偶者の税額軽減 申告手続き
配偶者控除を適用させるためには相続税の申告が必須条件です。
ただし、相続税の申告手続きと同時に配偶者控除の申請ができるため、事前登録などの手続きを別におこなう必要はありません。
相続税の申告手続きは、被相続人の住所地の管轄税務署でおこないます。
被相続人が亡くなった後に配偶者が転居するなどの事情がある場合は、提出先に注意しましょう。
相続税の配偶者控除についての申告を税理士に依頼する

相続税における控除制度の多くは、被相続人が亡くなった後も遺族の生活を維持するために、配偶者や同居家族を優遇するように設定されています。
ただし、どのような制度にもメリットとデメリットがあるもの。
一般論ではなく自分のケースに応じた対策を練ることが大切ですが、いざ相続が開始してからでは時間的にも精神的にも余裕がなくて当然ではないでしょうか。
そのようなときは遺産分割の助言も含めて相続税を専門とする税理士に任せるという手段も、ひとつの選択肢です。
税務の代行を始め、二次相続(2次相続)など個々の状況を視野に入れたアドバイスやサポートも期待できます。
まずは、気軽に初回無料相談などで質問や情報収集をしてから、依頼するかどうかを検討するのも良いでしょう。
税理士のWebサイトに掲載されている情報を閲覧し、相続に関する実績と知識を強みとする税理士を探すのもおすすめです。
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亡くなった方から相続や遺贈によって財産を取得した場合にかかる「相続税」。
その申告と納税は10ヶ月という限られた期間内で終える必要があります。
相続ステーションⓇでは、相続税申告累計2,780件を超える実績と豊富な経験・ノウハウがございます。
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・相続の関連項目
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相続税や争族は、生前対策次第で、かなり軽減できます。
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